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経営企画室の立ち上げ方。ゼロから機能させるための順序
「経営企画室を立ち上げたいが、何から手をつければいいのかわからない」。事業承継を機に、あるいは組織の踊り場を感じて、そう考えるアトツギ経営者は少なくありません。社長の頭の中にある構想を形にする部署がほしい。けれど、そもそも自社にそんな部門を置いた経験がない。
結論から言えば、経営企画室の立ち上げに「正解の組織図」は存在しません。最初に必要なのは、立派な計画書でも優秀な人材の採用でもなく、社長と現場の間に「翻訳機能」を置くことです。戦略を描く前に、まず社内の断絶を可視化する。その順序を間違えると、経営企画室は機能しないまま形骸化します。
本記事では、ゼロから経営企画室を立ち上げて実際に機能させるまでの順序を、地方中小企業の現場に即して解説します。教科書的なステップ論ではなく、泥臭い実行の話をします。
経営企画室を立ち上げる前にやるべき「地ならし」
書籍やネット記事を読むと、「まず中期経営計画を策定しましょう」と書かれていることが多いはずです。しかし現場の実態は違います。計画を作る以前に、社長が何を考えていて、現場が何に困っているのか、その両方を正確に把握できている会社はほとんどありません。
最初にやるべきは、社長と現場の「認識のズレ」を洗い出すことです。具体的には、幹部や現場のキーパーソンに30分ずつヒアリングを行い、社長が語るビジョンと現場が感じている課題を並べてみる。驚くほど噛み合っていないことが見えてきます。古参社員が本音で語ってくれるかどうか、そこにこの作業の難しさがあります。
あなたの会社では、社長の言葉がどこまで現場に届いていますか。経営企画室は、この「届いていない距離」を埋めるために存在します。だからこそ、立ち上げの第一歩は計画策定ではなく、社内の温度差の把握なのです。
立ち上げ初期に「やらないこと」を決める
経営企画室を新設すると、社内のあらゆる課題が流れ込んできます。新規事業の検討、予算管理、DX推進、採用戦略。気がつけば「何でも屋」になり、どれも中途半端に終わる。これは立ち上げ初期に最もよく見る失敗パターンです。
機能する経営企画室をつくるには、最初の半年で扱うテーマを2つ以内に絞ることが欠かせません。たとえば「月次の数字を経営判断に使える形に整える」と「部門間の情報共有の仕組みをつくる」、この2つだけでも現場はかなり変わります。やることよりも、やらないことを明文化するほうが難しく、そしてはるかに価値があります。
あなたが経営企画室に期待しているのは、戦略の立案ですか、それとも現場の横串ですか。その問いに答えを出さないまま立ち上げると、担当者は板挟みになり、半年で疲弊します。
経営企画の担当者をどう選び、どう守るか
「経営企画室には優秀な人材が必要だ」。これもよく聞く話ですが、中小企業の現実はそう単純ではありません。そもそも経営企画の経験者は社内にいないことがほとんどです。外部から採用しようにも、地方の中小企業に経営企画志望で応募してくる人材は限られています。
私たちが見てきた中で機能しているケースに共通するのは、「社長の意図を現場の言葉に変換できる人」を任命していることです。MBAホルダーである必要はありません。現場の事情を知っていて、数字に拒否反応がなく、板挟みに耐えられる胆力がある。そんな人材が一人いれば、経営企画室は動き始めます。
ただし、その人材を孤立させないことが条件です。経営企画室の担当者は、現場からすれば「社長の密偵」に見えることがあります。あなたがその担当者の後ろ盾になり、必要な場面では社長自身が矢面に立つ。その覚悟がなければ、誰を任命しても同じ結果になります。
外部の力を使うタイミングと使い方
立ち上げのすべてを自社で完結させる必要はありません。ただし、外部に丸投げすると「コンサルが去った後に何も残らない」という、よくある失敗を繰り返すことになります。大手コンサルが作る美しい報告書は、現場の棚に眠ったまま埃をかぶるのが関の山です。
外部の力が最も効くのは、立ち上げ初期の「型づくり」と「嫌われ役の代行」です。社内の人間には言いにくいこと、たとえば聖域になっている事業の数字を直視する場面や、部門間の利害調整が必要な場面。そこに外部の人間が入ることで、社内の関係を壊さずに議論を前に進められます。
あなたの会社に必要なのは、立派な戦略資料をくれる外部パートナーですか。それとも、社長の隣で一緒に泥をかぶってくれる存在ですか。その答えによって、選ぶべき相手は変わります。
まとめ:経営企画室の立ち上げで押さえるべき3つの順序
- 計画の前に、社長と現場の「認識のズレ」を把握する
- 初期のテーマを2つ以内に絞り、「やらないこと」を決める
- 担当者を孤立させず、社長自身が後ろ盾になる
経営企画室は、つくること自体が目的ではありません。社長の頭の中にある未来と、現場の日々の仕事をつなぐ。その橋渡しの機能が社内に根づいたとき、はじめて「立ち上がった」と言えます。
一人で抱えてきた荷物を、そろそろ組織の力に変えてみませんか。