経営コラム
経営企画室の採用で失敗する理由。地方中小企業の現実
「経営企画室をつくりたいが、誰を採用すればいいのか分からない」。地方中小企業のアトツギ経営者から、この相談を受けない月はありません。事業承継を機に組織を変えたい。でも、右腕がいない。だから採用だ——その判断自体は間違っていません。問題は、その先にあります。
経営企画室の採用で失敗する企業には、共通するパターンがあります。それは「誰を採るか」の前に「何をさせるか」が決まっていないことです。ポジションだけ用意して、中身が空っぽのまま人を迎え入れる。結果、採った人が潰れるか、現場が拒絶反応を起こすか、どちらかの地獄に落ちます。
この記事では、地方中小企業が経営企画室の採用でつまずく典型的な理由と、採用の前にやるべきことを整理します。「まず人を採ろう」と動き出す前に、5分だけ立ち止まってみてください。
経営企画室の採用が失敗する「2つの地獄」
経営企画の人材を採用したあと、地方中小企業で起きる失敗は大きく2パターンに分かれます。1つ目は「優秀な人が来たのに機能しない」地獄。2つ目は「現場が拒絶して孤立する」地獄です。どちらも採用した側、された側の双方が不幸になります。
1つ目の地獄は、大手出身やコンサル経験者を迎えたケースで頻発します。経歴は申し分ない。でも、入社してみたら決裁ルートも予算枠も曖昧で、何から手をつけていいか分からない。社長は「任せた」と言うだけで、具体的な指示がない。半年もすれば「思っていた環境と違う」と去っていきます。あなたの会社に、その人が戻ってくる場所は用意できていたでしょうか。
2つ目の地獄はもっと根が深い。新しく来た企画担当が現場にヒアリングに行くと、古参社員が壁をつくる。「本社から来た監視役」だと思われるからです。経営企画室とは何をする部署なのか、なぜ今つくるのか。その説明を社長自身の言葉でしていなければ、採用された人間がどれだけ優秀でも、現場には「よそ者」としか映りません。
「採用」の前に決めるべき、経営企画室の中身
一般的には「まず人材要件を定義して、採用チャネルを選んで……」という手順が語られます。しかし地方中小企業の現場では、そもそも経営企画室に何をやらせるかが固まっていないケースがほとんどです。中期経営計画の策定、予算管理、新規事業、DX推進——全部やってほしい、というのが社長の本音でしょう。でも、その全部を一人の採用で解決しようとすること自体が、失敗の入り口です。
まず必要なのは、今この瞬間に社長が一人で抱えている仕事を棚卸しすることです。資金繰りの判断、取引先との関係調整、現場のトラブル対応、銀行への説明資料——その中で「自分がやらなくてもいいが、誰にも渡せていないもの」を洗い出す。経営企画室の仕事とは、その「渡せていないもの」を引き受ける機能です。あなたが今夜、一人で片付けようとしている仕事は何ですか。
この棚卸しなしに人を採ると、着任初日から「で、何をすれば?」という問いにぶつかります。採用の前に、経営企画室の最初の3ヶ月でやることを3つだけ決める。それが、採用を成功させる最低条件です。
地方中小企業の経営企画に必要な人材像とは
教科書的には、経営企画にはMBAホルダーや戦略コンサル出身者が適任だと言われます。しかし、社員数が数十人規模の地方企業で求められるのは、戦略を描く力よりも、現場と経営の間を歩き回れる足腰です。フレームワークを使いこなせることより、工場長と飲みに行ける人間力のほうが、最初の半年はよほど価値があります。
具体的に言えば、採用で見るべきは3つです。1つ、社長の言葉を現場の言葉に翻訳できるか。2つ、数字を扱えるが数字だけで語らないか。3つ、嫌われる場面から逃げないか。とりわけ3つ目は見落とされがちです。経営企画室は、部門間の利害調整をする立場です。誰かに嫌なことを伝える場面が必ず来る。そのとき逃げない胆力があるかどうかは、職務経歴書には書いてありません。
採用だけが手段ではない
そもそも、経営企画室の機能を「採用」だけで揃えなければならない理由はありません。社内の既存メンバーを異動させる、外部パートナーと組む、あるいはその両方を併用する。地方中小企業にとって、フルタイムの経営企画担当を一人雇うコストは軽くありません。年収600万円で採用しても、機能しなければその投資はゼロになります。あなたの会社に本当に必要なのは「人」なのか、それとも「機能」なのか。その問いを飛ばさないでください。
まとめ:経営企画室の採用を成功させるために
地方中小企業が経営企画室の採用で失敗しないためのポイントを3つに絞ります。
- 採用の前に、経営企画室の「最初の3ヶ月でやること」を3つだけ決める
- 社長自身が、なぜ今この部署をつくるのかを現場に自分の言葉で説明する
- 「人を採る」以外の選択肢——社内異動・外部活用——も並行して検討する
経営企画室をつくること自体は、会社を次のステージに進めるための正しい判断です。ただ、その判断を活かすも殺すも、採用の手前にある準備で決まります。戦略でも人材スペックでもなく、社長が「何を手放し、何を任せるか」を腹決めすること。すべてはそこから始まります。
一人で抱え込む夜を、そろそろ終わりにしませんか。