全ての記事
経営企画室をゼロから立ち上げる。最初の担当者に任せるべき仕事
経営企画室をゼロから立ち上げたい。そう考えたとき、多くのアトツギ経営者がぶつかるのは「何から手をつければいいのか分からない」という壁です。社長の頭の中にある構想を形にしたい。でも現場は日々の業務で手一杯で、誰に何を任せればいいのか見当もつかない。そんな状態で止まっている方は少なくありません。
結論から言えば、経営企画室の最初の担当者に任せるべき仕事は「戦略立案」ではありません。社長と現場の間に立ち、双方の言葉を翻訳する「通訳」の仕事です。中期経営計画の策定でも、華やかな新規事業の企画でもない。まずは社内の情報を拾い集め、経営者の意思決定に必要な材料を揃えること。地味ですが、ここを間違えると経営企画室は半年で形骸化します。
この記事では、経営企画室をゼロから立ち上げる際に「最初の担当者が最初の90日でやるべきこと」を具体的に解説します。教科書的な組織論ではなく、地方の中小企業で実際に機能する動き方に絞ってお伝えします。
経営企画室をゼロから立ち上げるとき、最初に起きる誤解
「経営企画室をつくろう」と決めたとき、多くの経営者が最初にやりがちなのは、中期経営計画の作成を担当者に命じることです。経営学の教科書にも、コンサルの提案資料にも「まずは中計から」と書いてあります。しかし、社内に経営企画の経験者がいない状態で計画をつくっても、現場には響きません。数字と方針が書かれた資料が一つ増えるだけです。
なぜそうなるのか。理由は単純で、担当者が社内の実態を把握していないからです。どの部署が何に困っているのか。古参社員が本音では何を思っているのか。経営数字のどこにボトルネックがあるのか。これらを知らないまま立てた計画は、現場から見れば「また上が勝手に言っている」で終わります。あなたの会社でも、過去に似た経験はありませんか。
最初の担当者に任せるべき3つの仕事
仕事1:社内の「事実」を集める
最初の90日で担当者がやるべきことは、社内に散らばっている事実の収集です。月次の売上データ、部門ごとの粗利率、離職率、クレーム件数。こうした数字は、意外とどこにも一元化されていません。社長の頭の中にある数字と、経理が持っている数字と、現場が肌で感じている数字がバラバラのまま放置されているケースがほとんどです。
派手な分析は不要です。エクセル一枚に、事業の現在地を示す数字を並べるだけで十分です。この「事実の地図」がないまま戦略を語っても、空中戦になります。
仕事2:現場の「本音」を聞く
数字だけでは見えないものがあります。それは、現場で働く人たちの感情です。なぜベテラン社員のAさんは新しいやり方に反対するのか。なぜ若手が3年以内に辞めていくのか。これらは数字の裏にある「意味」の問題であり、経営企画室が最初に向き合うべきテーマです。
ここで注意すべきは、担当者が「社長の代理人」として現場に入ると、誰も本音を話さないということです。あなたが信頼して任命した担当者であっても、現場から見れば「社長のスパイ」に映ります。だからこそ、最初は聞き役に徹し、何も変えようとしないことが大切です。この我慢ができるかどうかで、経営企画室の命運が決まります。
仕事3:社長の言葉を「翻訳」する
経営者の頭の中には、会社の未来像がぼんやりとあります。しかしそれを現場が理解できる言葉に変換する人がいない。「もっと攻めろ」「危機感を持て」といった社長の言葉は、現場には抽象的すぎて届きません。逆に、現場の「人が足りない」「設備が古い」という声も、経営判断に使える形にはなっていません。
経営企画室の担当者が最初に果たすべき役割は、この断絶を埋める通訳です。社長の構想を具体的な論点に分解し、現場の声を経営課題として再定義する。この翻訳作業こそが、経営企画室がゼロから信頼を積み上げる唯一の方法です。
なぜ「優秀な人材の採用」から始めてはいけないのか
経営企画室の立ち上げとなると、「まず経験者を採用しよう」と考えるのは自然な発想です。しかし、地方の中小企業において、大手出身の経営企画経験者を採用することには二つの落とし穴があります。一つは、大手の経営企画と中小企業の経営企画はまったく別の仕事だということ。もう一つは、社内に受け入れ体制がない段階で外部人材を入れると、古参社員との軋轢が生まれ、孤立するということです。
まずは今いる社員の中から、社長と現場の両方に顔が利く人を一人選ぶ。完璧な人材でなくて構いません。素直に動ける人、社内で敵が少ない人。その一人に、先ほどの3つの仕事を任せる。採用や外部活用を考えるのは、その土台ができてからでも遅くありません。あなたの会社に、そういう人が一人思い浮かびませんか。
まとめ:経営企画室をゼロから立ち上げるために押さえる3つの原則
1. 最初の仕事は戦略立案ではなく、社内の事実と本音の収集である
2. 担当者の役割は、社長と現場の間に立つ「通訳」である
3. 人材採用より先に、今いる社員で土台をつくる
経営企画室は、つくった瞬間から価値を生むものではありません。地味な情報収集と、泥臭い社内対話の積み重ねが、半年後、一年後の経営判断の精度を変えていきます。計画より先に、まず現場の声を聞く。その一歩を踏み出すかどうかは、あなた次第です。