経営コラム
経営企画室の人材育成。次の右腕を社内で育てる方法
経営企画室を立ち上げたものの、育成が追いつかない。あなたが今、その壁にぶつかっているなら、それは前に進んでいる証拠です。社長の頭の中を翻訳し、現場に横串を通す経営企画室は、地方中小企業にとって心臓部になり得ます。しかし、その心臓を動かす「人」が育たなければ、箱だけが残ります。
結論から言います。経営企画室の人材育成は、外から優秀な人を連れてくることではありません。今いる社員の中から「社長の言葉を現場の言葉に変換できる人間」を見つけ出し、実務を通じて鍛えることです。
本記事では、地方アトツギ企業が経営企画室の次の右腕を社内で育てるために、どんな人材を選び、どう育て、何を任せるべきかを解説します。教科書的な研修プログラムの話ではなく、現場で泥にまみれながら人を育てる実行論です。
経営企画室の育成が進まない本当の理由
「経営企画室に人を配置したが、何をさせればいいかわからない」。私たちが現場で最も多く聞く声がこれです。一般的には「中期経営計画の策定」「KPI管理」「新規事業の調査」などが経営企画の仕事とされます。しかし、地方中小企業でいきなりそれをやらせても、本人も周囲も困るだけです。そもそも、その仕事の意味を社長自身が言語化できていないケースがほとんどではないでしょうか。
育成が止まる原因は、能力不足ではなく「役割の不在」です。何をもって一人前とするのか。どこまで権限を渡すのか。その設計がないまま「考えて動け」と言われた人材は、やがて雑務係になるか、辞めていきます。あなたの会社の経営企画室は、役割が明確になっていますか。
社内から右腕候補を見つける目利きの基準
スキルより「翻訳力」を見る
経営企画室に向いている人材の条件として、MBAホルダーや財務に強い人を思い浮かべるかもしれません。しかし、地方中小企業の経営企画室に本当に必要なのは、社長の抽象的な方針を現場が動ける粒度まで噛み砕ける「翻訳力」です。Excelが得意な人ではなく、営業部長の愚痴を聞きながら本音を引き出せる人。工場の班長と同じ目線で話せる人。そういう人材が候補になります。
古参社員との関係性を見極める
もうひとつ見落とされがちなのが、古参社員との距離感です。経営企画室は現場に介入する立場になるため、古参社員から警戒されます。ここで潰れる人と踏ん張れる人の差は、スキルではなく胆力と人間関係の蓄積です。入社3年目でも現場に顔が利く人材がいるなら、その人は有力な候補です。あなたの会社で、部署を横断して名前が出てくる社員は誰ですか。
経営企画人材を育成する3つの実務ステップ
ステップ1:社長の「通訳係」をやらせる
最初に任せるべき仕事は、社長の会議での発言を議事録にまとめ、各部署に「つまりこういうことです」と伝える役割です。これは単なる事務作業ではありません。社長の意図を汲み、現場が受け取れる言葉に変える訓練です。週に1回、社長との30分の振り返りをセットにすれば、認識のズレを早期に修正できます。
ステップ2:小さな横串プロジェクトを持たせる
通訳係に慣れてきたら、部署横断の小さなプロジェクトを1つ任せます。たとえば「営業と製造の納期トラブルを月1回の定例会議で減らす」といった、地味だが現場に実感のあるテーマです。大手コンサル会社が提案するような全社変革プロジェクトは不要です。むしろ小さく成功させることで、本人にも周囲にも「経営企画室は役に立つ」という実績が積み上がります。
ステップ3:社長の代わりに「嫌われる判断」を任せる
最後のステップは、社長が一人で抱えてきた「言いにくい意思決定の伝達」を任せることです。赤字部門の縮小方針を現場に説明する。評価制度の変更を各部署に落とし込む。こうした仕事は嫌われます。しかし、これを経験した人材だけが、経営企画室の本当の担い手になります。あなたは今、その嫌われ仕事を誰かに渡せていますか。
まとめ:経営企画室の育成は「仕組み」ではなく「場数」で決まる
本記事の要点を3つに整理します。
- 経営企画室の育成が停滞する原因は、能力不足ではなく「役割の不在」にある。まず社長自身が何を任せたいのかを言語化すること。
- 右腕候補を見つける基準は、スキルや資格ではなく「翻訳力」と「現場との関係性」。部署横断で名前が出る社員を探すこと。
- 育成は研修ではなく実務で進める。通訳係、横串プロジェクト、嫌われる判断の伝達という3段階で、段階的に任せる範囲を広げること。
経営企画室の右腕は、どこか遠くにいるのではなく、今あなたのすぐそばで働いています。その人に気づき、信じて任せ、一緒に泥をかぶる。それが地方アトツギ企業の育成の正解です。
まずは、あなたの隣にいる「あの社員」の顔を思い浮かべるところから始めてみてください。