株式会社勝継屋
MENU
Home » 経営コラム » スタートアップに経営企画室は必要か。成長フェーズ別の考え方

全ての記事

スタートアップに経営企画室は必要か。成長フェーズ別の考え方

「経営企画室って、スタートアップにも必要なのか」。資金調達やプロダクト開発に追われる日々の中で、ふとそんな疑問が頭をよぎったことはないでしょうか。特にアトツギとして既存事業を引き継ぎながら新規事業を立ち上げている方にとって、この問いは切実です。

結論から言えば、スタートアップに「よくある経営企画室」は不要です。ただし、経営企画室が果たすべき”機能”は、早い段階から必要になります。箱をつくるかどうかではなく、機能をどう持つかが問題の本質です。

本記事では、スタートアップや新規事業の成長フェーズごとに、経営企画の機能をどう設計すべきかを整理します。教科書的な組織論ではなく、現場で実際に起きる問題から逆算した考え方をお伝えします。

スタートアップに経営企画室が「不要」と言われる理由

スタートアップの初期フェーズでは、全員がプレイヤーです。社長自身が営業し、開発し、資金繰りを見る。そこに「企画だけする人」を置く余裕はありません。人件費の問題だけではなく、意思決定のスピードが落ちるリスクもあります。少人数で走っている組織に会議体や報告ラインを増やせば、それだけで動きが鈍くなる。だから「経営企画室は不要」と言われるのです。

ただ、ここには見落とされがちな前提があります。この「不要論」は、経営企画室を”部署”として捉えた場合の話です。あなたの会社では、事業計画の数字を誰がつくっていますか。部門間の調整は誰がやっていますか。社長がすべて一人でやっているなら、それは経営企画室がないのではなく、社長が経営企画室を兼任しているだけです。

問題は、その兼任がいつまで持つかという点にあります。社長の頭の中にだけ戦略がある状態は、組織が10人を超えたあたりから綻びが出始めます。「言ったはずなのに伝わっていない」「現場が勝手に動いている」。その違和感こそが、経営企画機能の不在を示すサインです。

成長フェーズ別に見る経営企画機能の持ち方

創業期・立ち上げ期(1〜10人規模)

このフェーズで経営企画室という箱をつくる必要はありません。ただし、「数字の見える化」と「意思決定の記録」だけは仕組み化しておくべきです。具体的には、月次のPLを誰かが整理すること、経営会議の決定事項をテキストで残すこと。地味な作業ですが、これがないまま走ると、後から振り返ることができません。

アトツギ企業の場合、既存事業の管理部門がすでに存在するケースもあります。しかし、既存の管理部門に新規事業の企画機能を兼務させると、ほぼ確実に既存業務が優先されます。新規事業の数字は後回しにされ、気づけば誰も全体像を把握していない。この「兼務の罠」は、アトツギ企業特有の落とし穴です。

拡大期(10〜50人規模)

人が増え、部門が分かれ始めるこのフェーズで、経営企画の機能は急激に必要になります。営業と製造の間で情報が断絶する。新しく入った社員に会社の方向性が伝わらない。社長の言葉が現場に届くまでに、意味が変わってしまう。こうした「横串の不在」が日常的に起き始めます。

一般論では「中期経営計画を策定せよ」と言われます。しかし、計画書を作成する前にやるべきことがあります。それは、現場の各部門が何に困っていて、何を諦めているかを聞き出すことです。経営企画の最初の仕事は、美しい資料づくりではなく、社長と現場の間に立って”翻訳”することです。社長の想いを現場の言葉に変換し、現場の本音を社長に届ける。その泥臭い往復運動こそが、この時期の経営企画機能の核になります。

経営企画室を「部署」にすべきタイミングの見極め方

では、機能ではなく正式な部署として経営企画室を設置すべきタイミングはいつか。明確な基準があります。「社長が週の半分以上を調整業務に使っている」と感じたら、それが設置のサインです。本来、社長の時間は未来に向けた意思決定に使われるべきです。社内調整に忙殺されている状態は、組織として健全ではありません。

もう一つの判断基準は、「古参社員と新規メンバーの間に見えない壁ができているかどうか」です。アトツギ企業では、先代から続く社員と、新社長が連れてきた人材の間に温度差が生まれやすい。この壁を壊すのは、どちらの側にも属さない第三者的な立場の人間です。経営企画室は、そのポジションを担えます。あなたの会社に、両方の言い分を聞ける人はいますか。

ただし、注意すべき点があります。経営企画室を設置して、そこに「優秀な若手」をポンと配置するだけでは機能しません。権限の範囲、報告ライン、他部門との関係性を設計しなければ、孤立した企画担当者が一人増えるだけです。大手企業の経営企画室をそのまま真似ても、中小企業では動きません。規模と文化に合わせた設計が必要です。

まとめ:スタートアップと経営企画室の正しい距離感

本記事のポイントを整理します。

  1. スタートアップに経営企画室という「箱」は急がなくていい。ただし、数字の見える化と意思決定の記録という「機能」は初期から必要になる。
  2. 組織が10人を超え、部門間の断絶が見え始めたら、経営企画の機能を誰かに持たせる判断を先送りしない。社長の兼任には限界がある。
  3. 経営企画室を正式に設置する際は、大手のコピーではなく、自社の規模・文化・人間関係に合わせた設計をする。翻訳者としての役割を最優先に据える。

経営企画室は、戦略をつくる場所ではありません。社長の孤独と現場の本音をつなぐ、組織の結び目です。その結び目を、いつ、どうやってつくるか。正解は会社ごとに違います。

迷ったら、まずは社長が今週何に時間を使ったかを書き出してみてください。そこに答えがあります。

無料相談はこちら