「親から会社を継ぐことになったけど、自社株の相続税ってどれくらいかかるんだろう…」
「株の評価方法が複雑で、どうやって計算すればいいのか分からない」
会社の株式を相続することは、事業の未来を左右する非常に重要な出来事です。しかし、その際に発生する相続税の仕組みや、株式の評価方法が複雑なため、多くの後継者やご家族が不安を感じているのではないでしょうか。特に、市場で取引されていない**非上場株式(中小企業の自社株)**の評価は、専門知識が必要となるため、税額の予測が難しいと感じるかもしれません。
相続税の計算を誤ると、後々追徴課税が発生したり、納税資金の確保に困ったりするリスクも生じます。また、安易な株式の譲渡は、思わぬ税金問題を引き起こす可能性もあります。
本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者や、相続で会社の株式を取得することになった方に向けて、株式の相続税が一体いくらかかるのか、その評価・計算方法、そして株式譲渡における注意点を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な財産と会社を守り、円滑な事業承継を実現するための正しい知識を、ぜひインプットしてください。
1. 相続税の基本と、株式が課税対象となる理由
相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を、相続人や受遺者が受け取った場合に課される税金です。株式も、その会社に資産価値がある限り、相続税の課税対象となります。
1-1. 相続税の計算の基本的な流れ
相続税の計算は、以下のステップで進められます。
- 相続財産全体の評価: 亡くなった方が残したすべての財産(現金、預貯金、不動産、有価証券などプラスの財産)と、負債(借入金、未払金などマイナスの財産)をすべて洗い出し、評価額を算出します。株式もこの段階で評価されます。
- 正味の遺産額の算出: プラスの財産からマイナスの財産を差し引き、葬式費用などを加味して「正味の遺産額」を算出します。
- 課税遺産総額の算出: 正味の遺産額から、相続税の「基礎控除額」を差し引きます。
- 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
- 課税遺産総額がゼロ以下であれば、相続税はかかりません。
- 各相続人の取得割合に応じた税額の算出: 課税遺産総額を法定相続分で分配したと仮定し、それぞれの相続人の仮の取得額に相続税率(累進課税)を適用して、相続税の総額を計算します。
- 各相続人の実際の納税額の計算: 相続税の総額を、実際の遺産分割割合に応じて各相続人に按分し、各種税額控除(配偶者の税額軽減、未成年者控除など)を適用して、最終的な各相続人の納税額を算出します。
この中で、**「株式の評価」**が相続税額に大きく影響するため、非常に重要なポイントとなります。
2. 株式の評価方法:上場株式と非上場株式の違い
株式の評価方法は、その株式が「上場株式」か「非上場株式」かによって大きく異なります。
2-1. 上場株式の相続税評価方法
上場株式は、証券取引所で日々取引されているため、比較的評価が簡単です。
- 原則的な評価方法: 以下の4つの株価のうち、最も低い価格に保有株式数を掛けて評価額を算出します。
- 相続があった日の終値(最終価格)
- 相続があった月の毎日の終値の月平均額
- 相続があった月の前月の毎日の終値の月平均額
- 相続があった月の前々月の毎日の終値の月平均額
- 配当期待権・未収配当金: 評価額に加えて、未払いとなっている配当金や、これから受け取る予定の配当金(配当期待権)も相続財産に含めて評価します。
上場株式は市場価格があるため、比較的明確に評価できますが、それでも変動リスクを考慮した評価方法が採用されています。
2-2. 非上場株式(自社株)の相続税評価方法
中小企業が発行する**非上場株式(自社株、未公開株とも呼ばれます)は、市場で取引されていないため「時価」がありません。そのため、相続税の申告では、国税庁が定める「財産評価基本通達」**に基づいて、複雑な評価方法で価値を算定します。
非上場株式の評価方法は、主に会社の規模や株主の状況によって、以下の3つの方式に分類されます。
(1) 類似業種比準方式
- 概要: 評価対象の非上場会社と、業種や規模が類似する上場企業の株価(配当金額、利益金額、純資産価額)を参考に、比較して評価額を決定する方法です。主に、**規模の大きな非上場会社(大会社・中会社の一部)**の評価に用いられます。
- 計算のポイント: 評価対象会社の「配当金額」「利益金額」「純資産価額」を、類似する上場企業の同項目と比較し、比準します。最終的には、会社の規模に応じた斟酌率(しんしゃくりつ)を乗じて調整します。会社の業績が良いほど、評価額が高くなる傾向があります。
(2) 純資産価額方式
- 概要: 評価対象の非上場会社が解散した場合に、株主に分配される純資産の額を基に評価する方法です。具体的には、会社の総資産を相続税評価額に直し、そこから負債と法人税等相当額を差し引いて評価額を算出します。主に、**規模の小さな非上場会社(小会社)や、特殊な会社(不動産保有会社など)**の評価に用いられます。
- 計算のポイント: 土地や建物などの固定資産、有価証券といった含み益のある資産が時価で評価されるため、これらの資産を多く保有している会社は評価額が高くなる傾向があります。評価差額に対する法人税等相当額を控除できる点は、実務上の重要なポイントです。
(3) 配当還元方式
- 概要: 株式を所有することで将来受け取るであろう1年間の配当金額を基に評価する方法です。主に、その株式を取得しても会社の経営権に影響を与えない少数株主(同族株主以外の株主で、取得後の議決権割合が50%未満の株主など)の評価に用いられます。
- 計算のポイント: 一般的に、他の方式よりも評価額が低くなる傾向があります。
どの評価方法が適用されるかは、会社の規模(総資産、従業員数、取引金額)や、株式を取得する株主が「同族株主」かどうか、取得後の議決権割合などによって複雑に判定されます。
非上場株式の評価は非常に複雑で、専門知識が不可欠です。必ず税理士などの専門家に依頼しましょう。
3. 相続税の計算例(簡略版)
それでは、簡略化した例で相続税の計算の流れを見てみましょう。
【相続財産の内訳】
- 預貯金:5,000万円
- 不動産:5,000万円
- 非上場株式(評価額):1億円
- 負債(借入金):2,000万円
- 法定相続人:配偶者1人、子供2人(合計3人)
【計算ステップ】
- 正味の遺産額の算出(5,000万円 + 5,000万円 + 1億円) - 2,000万円 = 1億8,000万円
- 基礎控除額の算出3,000万円 + (600万円 × 3人) = 3,000万円 + 1,800万円 = 4,800万円
- 課税遺産総額の算出1億8,000万円 - 4,800万円 = 1億3,200万円
- 相続税の総額の算出課税遺産総額1億3,200万円を、法定相続分(配偶者1/2、子供各1/4)で仮に分けたとします。
- 配偶者:1億3,200万円 × 1/2 = 6,600万円
- 子供1:1億3,200万円 × 1/4 = 3,300万円
- 子供2:1億3,200万円 × 1/4 = 3,300万円
- 配偶者(6,600万円):税率30% - 控除額700万円 = 1,280万円
- 子供1(3,300万円):税率20% - 控除額200万円 = 460万円
- 子供2(3,300万円):税率20% - 控除額200万円 = 460万円相続税の総額 = 1,280万円 + 460万円 + 460万円 = 2,200万円
- 各相続人の実際の納税額相続税の総額を実際の遺産分割割合で按分し、各控除を適用します。(今回は、株式1億円を子供1が、残りを配偶者と子供2が取得したと仮定します。)
- 配偶者の税額軽減: 配偶者には「配偶者の税額軽減」という特例があり、一定の範囲内で相続税が非課税になります。今回のケースでは、配偶者の納税額はゼロになります。
- 子供1(株式を相続): 460万円(ただし、配偶者の税額軽減分を考慮した按分が必要)。
- 子供2: 460万円。
4. 株式譲渡の注意点:相続と生前贈与、M&Aによる売却
株式を誰に、どのように引き継ぐかによって、発生する税金の種類や金額、注意点が異なります。
4-1. 相続による承継
- メリット: 特別な手続きなしに承継が始まる。
- デメリット: 相続税の納税資金確保が課題となることが多い。急な相続だと、対策が間に合わない可能性がある。
- 注意点:
- 納税資金の準備: 自社株は換金しにくいため、納税資金は別途現金で用意しておく必要があります。
- 遺産分割協議: 他の相続人がいる場合、自社株の評価や取得を巡って遺産分割協議が難航する可能性があります。遺言書で明確な意思表示をしておくことがトラブル防止に繋がります。
- 事業承継税制: **事業承継税制(特例措置)**を適用すれば、自社株にかかる相続税の納税を100%猶予し、最終的に免除できる可能性があります。相続発生後でも、一定の条件を満たせば適用可能ですが、迅速な手続きが必要です。
4-2. 生前贈与による承継
- メリット: 計画的に承継を進められるため、後継者の育成期間を確保しやすい。贈与税の税額を抑えるための対策(暦年贈与、相続時精算課税制度など)を講じやすい。
- デメリット: 贈与税は、贈与額が高額になると相続税よりも税率が高くなる場合がある。
- 注意点:
- 贈与税の負担: 自社株の評価額が高い場合、多額の贈与税が発生する可能性があります。
- 贈与者の「支配権」喪失: 生前贈与を進めることで、現経営者の株式保有割合が低下し、経営権を失う可能性があります。
- 事業承継税制: **事業承継税制(特例措置)**を適用すれば、自社株の贈与税の納税を100%猶予し、最終的に免除できる可能性があります。計画的に進めることで、この制度のメリットを最大限に享受できます。
4-3. M&A(第三者への売却)による承継
親族や従業員への承継が難しい場合、会社を外部の第三者に売却するM&Aも有効な選択肢です。
- メリット: 現経営者は会社を売却することで、まとまった売却益(現金)を手にすることができます。これにより、引退後の生活資金の確保や、残りの事業への投資などが可能になります。後継者不足の根本的な解決にもなります。
- デメリット: 会社の経営権や企業文化が、全く異なる外部の手に渡る可能性がある。従業員が不安を感じる場合がある。
- 注意点:
- 売却益への課税: 株式譲渡の場合、売却益に対して**所得税・住民税(合計約20.315%)**が課されます。事業譲渡の場合は法人税や消費税も発生する可能性があります。
- 個人保証の解除: 現経営者が会社の借入金に対する個人保証をしている場合、M&A契約でその解除を明確に盛り込むことが非常に重要です。
5. 相続税の負担を軽減するための対策
相続税の負担を軽減するためには、早期からの計画と専門家との連携が不可欠です。
5-1. 事業承継税制の活用(最優先で検討)
前述の通り、自社株の承継税額を劇的に軽減できる最も強力な制度です。要件が複雑なため、必ず税理士などの専門家と連携し、計画的に適用を目指しましょう。
5-2. 自社株の評価額対策(株価対策)
相続発生前に、自社株の評価額そのものを引き下げておくことで、将来的な相続税・贈与税の負担を軽減できます。
- 役員退職金の支給: 経営者への退職金を支給することで、会社の利益を圧縮し、株価評価の基準となる利益や純資産を減らすことができます。退職金は税制優遇が大きいため、効果的な対策です。
- 配当の実施: 会社の内部留保を配当として株主に還元することで、株価を引き下げる効果が期待できます。
- 不要資産の売却: 事業に直接関係のない遊休資産や含み益の大きい不動産などを売却し、会社の資産をスリム化することで、純資産価額方式による株価を下げられる場合があります。
5-3. 生命保険の活用
生命保険の死亡保険金は、一定額まで相続税の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)があります。この非課税枠を活用することで、納税資金を確保しつつ、相続税を軽減できる場合があります。
6. まとめ:株の相続税は「知って」「備える」ことが重要
株の相続税、特に非上場株式の評価や計算は非常に複雑であり、経営者や後継者にとっては大きな不安要素となるでしょう。しかし、その仕組みを正しく理解し、早期から計画的に対策を講じることで、税負担を最小限に抑え、円滑な事業承継を実現することは十分に可能です。
- 株式評価の複雑性: 上場株式と非上場株式で評価方法が大きく異なり、非上場株式の評価は専門知識が必要。
- 相続税の計算ステップ: 遺産全体の評価から基礎控除、税率適用、各種控除を経て納税額を算出。
- 株式譲渡の注意点: 相続、生前贈与、M&Aそれぞれの税金とリスクを理解し、適切な方法を選択する。
- 最有力対策は「事業承継税制」: 自社株の相続税・贈与税を大幅に軽減できる強力な制度。
- その他対策: 株価対策(退職金、配当など)、生命保険の活用なども有効。
何よりも重要なのは、「相続が発生する前」、あるいは**「事業承継を検討し始めた段階」**から、税理士をはじめとするM&A・事業承継の専門家に相談することです。専門家は、あなたの会社の状況に合わせた最適な株式評価と相続税額のシミュレーションを行い、事業承継税制の適用支援や、その他の効果的な税金対策を提案してくれます。
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