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経営録

2026.01.11

内定辞退が止まらない理由|学生が最終的に選ぶのは「給与」か「未来」か

「最終面接ではあんなに熱意を語っていたのに、なぜ……」

「他社は辞退しますと言ってくれた翌日に、辞退のメールが届いた」

「初任給も上げた。福利厚生も整えた。それでも逃げられるのはなぜなのか」

採用担当者様にとって、最も胃が痛くなる季節。それは内定解禁後の「辞退連絡」が鳴り止まない時期ではないでしょうか。

売り手市場が加速する現在、学生一人あたりの平均内定保有数は2社以上と言われています。つまり、内定を出した瞬間から、貴社は「選ぶ側」から「選ばれる側(比較される側)」へと立場が逆転するのです。

多くの企業が、この辞退ラッシュを止めるために「初任給の引き上げ」や「待遇改善」に走っています。しかし、それでも辞退は止まりません。

結論から申し上げます。学生が最後に選ぶのは、目先の「給与」の高さではありません。その会社で自分が生き残っていけるかという「未来への解像度」です。

彼らが恐れているのは、ブラック企業に入ることだけではありません。「成長できない環境で飼い殺しにされること(キャリアの死)」を何よりも恐れています。

本記事では、内定辞退が止まらない構造的な理由を解き明かし、学生が最後の瞬間に「この会社だ」と決断する決定打(決め手)について、心理学的な側面と実務的な対策の両面から解説します。


「給与」は参加チケット、「未来」は合格証書

まず、「給与か未来か」という問いに対する答えを明確にしておきましょう。

Z世代を中心とする現代の学生にとって、**給与は「衛生要因(不満の種)」であり、未来は「動機付け要因(満足の種)」**です。

給与は「足切りライン」に過ぎない

ハーズバーグの二要因理論をご存知でしょうか。給与や労働条件は、不足していれば不満を感じますが、満たされていても「やる気(入社意欲)」が無限に高まるわけではないという理論です。

現代の学生にとって、一定水準の給与は「エントリーするための足切りライン(参加チケット)」に過ぎません。初任給が高い企業には確かに人は集まりますが、それは「選択肢の一つ」に入っただけです。

最終的な二択、三択になった時、彼らは「給与が1万円高い方」を選ぶのではありません。「どちらが後悔しないか」というリスク回避の視点で選びます。

彼らが見ている「未来」の正体

では、彼らが重視する「未来」とは何か。それは「会社が成長するかどうか」というマクロな話ではありません。

**「自分がこの会社に入って、3年後にどうなっているかが具体的にイメージできるか」**という、極めて個人的な未来予想図です。

「配属ガチャ」という言葉が流行するように、彼らは不確実性を嫌います。

「どんな仕事をさせられるかわからない」「誰と働くかわからない」。このブラックボックス(不透明さ)が残っている限り、どれだけ給与が高くても、彼らは不安で内定承諾書にハンコを押せません。

内定辞退を引き起こす「3つの不安」

学生が内定を辞退する時、表向きの理由は「他社との兼ね合い」や「適性」など無難な言葉を選びます。しかし、本音の部分には、企業側がケアしきれていない「3つの不安」が渦巻いています。

1. 「リアリティ・ショック」の予感

選考中は、企業も学生も「お見合い」状態です。企業は良い面(キラキラした部分)ばかりをアピールしがちです。

しかし、内定が出た後、学生は冷静になります。口コミサイト(OpenWorkなど)を見たり、OB訪問をしたりして、「本当の姿」を探ろうとします。

そこで「説明会で聞いた話と違う」というギャップを感じた瞬間、信頼は崩壊します。

「残業は少ないと言っていたのに、口コミでは激務と書かれている」

「風通しが良いと言っていたのに、面接官の態度が高圧的だった」

この「嘘をつかれているかもしれない」という疑念こそが、辞退の最大のトリガーです。

2. 「放置」による熱量の低下

採用担当者にとって、内定出しは「ゴール」に近い感覚かもしれません。しかし、学生にとっては「スタート」です。

内定を出した後、「入社まで待っています」と放置していませんか?

学生の心理は揺れ動いています。「本当にこの会社でいいのか」というマリッジブルーならぬ「内定ブルー」に陥ります。この時期に、他社から熱烈なオファー(面談や懇親会)があれば、人の心は容易に移ろいます。

「釣った魚に餌をやらない」企業は、餌をくれる他社にあっさりと魚を奪われるのです。

3. 「成長環境」への不信感

「とりあえず現場で揉まれてこい」

「配属は入社後の適性を見て決める(総合職採用)」

企業側としては合理的なこの方針も、学生にとっては恐怖でしかありません。「もし、希望しない部署に配属されたら?」「もし、スキルが身につかない単純作業ばかりやらされたら?」

終身雇用が崩壊した今、彼らは「会社に守ってもらう」とは考えていません。「自分のスキルで生きていく」ための力をつけたいと考えています。そのため、「ジョブ型雇用」や「確約配属」を提示してくれる(キャリアの道筋が見える)企業に流れていくのは必然の流れです。

辞退を食い止める「クロージング」の鉄則

では、これらの不安を解消し、最終的に「御社に行きます」と言わせるためにはどうすればよいのでしょうか。給与アップ競争に参加する前にできる、効果的なクロージング(承諾獲得)の手法があります。

1. RJP(Realistic Job Preview)の実践

RJPとは、「現実的な仕事情報の事前開示」のことです。

良いことばかりではなく、仕事の厳しさ、泥臭さ、大変な部分も正直に伝えます。

「うちは給料はそこそこだけど、仕事はきついよ。でも、3年でどこでも通用するスキルは絶対に身につく」

「残業はある。でも、サービス残業は絶対にさせない」

このようにネガティブな情報も含めて誠実に開示することで、「この会社は嘘をつかない」「自分を対等なパートナーとして扱ってくれている」という信頼(トラスト)が生まれます。

「覚悟」を決めて入社した学生は、入社後の定着率も圧倒的に高くなります。

2. 「タテ」ではなく「ヨコ・ナナメ」の接点を作る

内定者フォローにおいて、人事担当者(タテの関係)だけが出ていくのは得策ではありません。学生は「人事はいいことしか言わない」と警戒しているからです。

効果的なのは、現場の若手社員(ナナメの関係)や、内定者同士(ヨコの関係)の接点を作ることです。

「実際に働いている先輩の生の声を聞きたい」

「同期にどんな人がいるのか知りたい」

懇親会や座談会を通じて、「この人たちとなら一緒に頑張れそうだ」という人間関係のアンカー(錨)を打つことが、物理的な辞退防止策となります。

3. 個別の「キャリア・ロードマップ」を提示する

「総合職」という大きな括りではなく、その学生個人の強みや適性に合わせた「未来の提案」を行います。

「君のこの強みは、当社のこの事業部でこう活かせると思う」

「君が将来〇〇になりたいなら、最初の3年はこんな経験を積んでもらう予定だ」

このように、会社主語ではなく「あなた主語」でキャリアプランを提示された時、学生は「自分のことを真剣に考えてくれている」と感じます。未来の解像度が一気に上がり、「ここで働く自分」を具体的にイメージできるようになるのです。

「オヤカク」への対応も忘れずに

近年、無視できないのが「親の意向」です。本人は入社したくても、親が「その会社は聞いたことがない」「もっと安定した公務員になってほしい」と反対し、辞退に至るケース(オヤカク落ち)が増えています。

これを防ぐには、学生だけでなく、その背後にいる保護者への安心材料提供も必要です。

内定通知書と一緒に、社長からの手紙や、会社の安定性・成長性を示したパンフレットを実家に送る企業も増えています。「あなたの息子さん・娘さんを責任持ってお預かりします」という誠意あるメッセージは、最後の障壁を取り除く鍵となります。

まとめ:学生は「正直な会社」に未来を賭ける

内定辞退が止まらない理由は、学生がわがままだからでも、御社の給与が低いからでもありません。

彼らが、御社での未来を「信じきれていない」からです。

「給与」か「未来」か。

その答えは、**「納得感のある未来」**です。

給与などの条件は、他社と比較が容易な「数字」です。数字の競争には終わりがありません。

しかし、「ここでなら成長できる」「この人たちと働きたい」「嘘のない会社だ」という「感情・信頼」は、他社と比較できない唯一無二の価値になります。

採用活動のラストワンマイル。

それは、美辞麗句で飾り立てることではありません。

会社のありのままの姿をさらし、一人ひとりの学生の不安に向き合い、「一緒に未来を作ろう」と正直に口説くこと。

その泥臭いコミュニケーションだけが、迷える学生の背中を押し、内定承諾というゴールへと導くことができるのです。