経営コラム
社長の右腕としての経営企画室。雇うな、立ち上げろという選択肢
「経営企画室の右腕がほしい」——深夜の社長室で、あるいは移動中のスマホで、そう検索したことがあるかもしれません。会議で決めたはずのことが現場で動かない。数字を見ているのは自分だけ。古参社員には言いにくいことが溜まっている。その孤独は、あなただけのものではありません。
結論から申し上げます。社長の右腕は「雇う」のではなく「立ち上げる」ものです。一人の優秀な人材を探し続けるより、経営企画室という”機能”を社内につくるほうが、はるかに早く、確実に経営は前に進みます。
本記事では、なぜ「右腕人材の採用」がうまくいかないのか、経営企画室を立ち上げるとは具体的に何をすることなのか、そしてアトツギ企業にこそこの選択肢が合う理由を解説します。
「右腕がほしい」と思ったとき、採用には2つの落とし穴がある
社長の右腕となる人材を中途で採用しようとすると、ほぼ必ず2つの壁にぶつかります。1つ目は「来ない」。地方の中小企業で、経営企画や社長室のポジションを即戦力で担える人材は、そもそも転職市場にほとんど出てきません。仮に見つかっても、年収・勤務地・企業規模の条件で大手に流れるのが現実です。
2つ目は「馴染まない」。運よく採用できたとしても、既存の組織に入った瞬間から摩擦が始まります。古参社員から見れば「外からいきなり来た人間」です。現場の文脈を知らないまま正論を振りかざせば、抵抗はさらに硬くなる。結果、半年もたずに辞めていくケースを、私たちは何度も見てきました。
あなたが本当にほしいのは「優秀な一人」ではなく、経営の意思を現場に届け、現場の実態を経営に返す”回路”ではないでしょうか。その回路こそが、経営企画室という機能です。
経営企画室は「部署」ではなく「横串の機能」である
教科書的には、経営企画室とは中期経営計画を策定し、予算管理を行い、新規事業を企画する部署とされています。しかし、地方の中小企業にいきなりその型を持ち込んでも機能しません。社員30人の会社に中期経営計画のスライドを100枚つくっても、朝礼で共有されなければ意味がないからです。
私たちが考える経営企画室の本質は、部門間に横串を刺す「翻訳機能」です。営業が感じている受注の変化、製造が抱えている人手不足、経理だけが見ている資金繰りの綱渡り。それぞれの部門は自分の持ち場しか見えていません。その断片をつなぎ合わせ、社長の判断材料に変換し、決まったことを現場の言葉に翻訳して届ける。地味で泥臭い仕事ですが、これがなければ経営判断は宙に浮いたままです。
あなたの会社で、部門をまたいで情報を整理し、社長に「今、何が起きているか」を30秒で伝えられる人はいますか。いないなら、それは人の問題ではなく、仕組みの不在です。
「雇うな、立ち上げろ」が地方アトツギ企業に合う理由
社内の人材を「右腕」に育てる設計図
経営企画室の立ち上げとは、外から完成品を持ってくることではありません。社内にいる「少し視座の高い人」——たとえば部門間の調整を自然とやっている人、数字に強い若手、社長の意図を汲める番頭的存在——を見つけ、役割と権限を与え、動ける仕組みを整えることです。
この方法の最大の利点は、現場との信頼関係がすでにあることです。外部人材にはない「この会社の文脈を知っている」という資産を活かせます。足りないのはスキルではなく、何をすべきかという設計図と、社長のお墨付きです。
アトツギだからこそ使える「承継の文脈」
2代目・3代目の経営者には、先代から引き継いだ歴史と人間関係があります。それを重荷に感じることもあるでしょう。しかし、経営企画室を立ち上げるとき、この歴史はむしろ武器になります。「先代がつくった土台を、次の10年に合う形に進化させる」という文脈は、古参社員にとっても納得しやすい。変革ではなく進化。その言い換え一つで、現場の空気は変わります。
あなたが引き継いだものは、縛りではなく土台です。その土台の上に経営企画室という機能を載せることで、組織は初めて「社長一人の属人経営」から脱却し始めます。
まとめ:社長の右腕は「人」ではなく「仕組み」でつくる
本記事の要点を3つに絞ります。
- 右腕人材の採用には「来ない」「馴染まない」という構造的な壁がある。一人の人材に頼るより、経営企画室という機能を立ち上げるほうが現実的である。
- 経営企画室の本質は、中期計画の策定ではなく、部門間の情報を翻訳し、経営と現場をつなぐ横串の機能である。
- 地方アトツギ企業には、社内人材の信頼関係と承継の文脈という、外部採用にはない強みがある。それを活かす設計図があれば、右腕は社内から育てられる。
完璧な右腕が現れるのを待つ必要はありません。仕組みは、今日から立ち上げられます。
まずは一歩、動いてみてください。