「そろそろM&Aを検討してみようか…」そう考え始めた経営者の皆さん、M&Aは事業を大きく飛躍させるチャンスであると同時に、様々な法律が関係する複雑なプロセスでもあります。特に、会社の合併や買収を規定する**「会社法」**は、M&Aを安全かつスムーズに進める上で避けて通れない重要な法律です。
「難しそう…」「どこから手を付けていいか分からない」そう感じている方もご安心ください。本記事では、M&Aを検討する際に**「これだけは押さえておきたい!」という会社法の基本ポイント**を、どこよりも分かりやすく解説します。
M&Aの検討段階から実行、そしてその後の統合まで、各ステップでどのような会社法の規定が関わってくるのかを知ることは、予期せぬトラブルを防ぎ、成功確率を高めるための重要な第一歩です。会社の未来を考え、M&Aを成功させたい経営者の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
1. M&Aと会社法の関係性とは?
M&Aは、株式の譲渡や事業の譲渡、合併、会社分割など、多岐にわたる手法を含んでいます。これらの手法の多くは、会社の組織や財産、株主の権利などに大きな影響を与えるため、会社法によって厳格なルールが定められています。
会社法は、会社の設立から運営、解散、そしてM&Aのような組織再編行為に至るまで、会社に関するあらゆる事項を規定する法律です。M&Aの各局面で会社法を遵守することは、取引の有効性を確保し、関与するすべての当事者(株主、債権者、従業員など)の保護を図る上で極めて重要になります。
たとえば、株主総会での承認が必要なケースや、債権者保護手続きを行わなければならないケースなど、会社法が定める手続きを怠ると、M&A自体が無効になったり、損害賠償を請求されたりするリスクがあるのです。
2. M&Aの主要手法と会社法が定める重要ポイント
M&Aの主要な手法ごとに、会社法で特に押さえておくべきポイントを見ていきましょう。
2-1. 株式譲渡と会社法
株式譲渡は、M&Aで最も多く用いられる手法です。会社の株式を売買することで経営権を移転します。
会社法上、株式譲渡で特に重要なのは以下の点です。
- 譲渡制限株式に関する規定(会社法第136条、第137条など): 多くの中小企業では、会社の株式に「譲渡制限」を設けています。これは、会社の承認がなければ株式を譲渡できないという規定です。M&Aで株式譲渡を行う際は、この譲渡制限があるかどうかを確認し、もしあれば会社(通常は取締役会または株主総会)の承認を得る手続きが必要となります。この承認がなければ、株式譲渡は無効となってしまう可能性があります。
- 株主名簿の書換え(会社法第133条): 株式譲渡が行われたら、会社は株主名簿の書換えを行う義務があります。これにより、新たな株主が株主としての権利を行使できるようになります。
- 取締役会の承認(会社法第362条など): 買収側から見れば、M&Aは重要な経営判断となるため、取締役会設置会社であれば、取締役会の承認が必要となるのが一般的です。
2-2. 事業譲渡と会社法
事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を、他の会社に売買する手法です。
事業譲渡において会社法で押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- 株主総会の特別決議(会社法第467条): 事業の全部または重要な一部を譲渡する、あるいは他の会社から事業の全部を譲り受ける場合、原則として株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。これは、事業譲渡が会社の事業内容に大きな影響を与えるため、株主の意思を尊重するためです。
- 債権者保護手続きの不要性: 合併や会社分割と異なり、事業譲渡は原則として債権者保護手続きは不要です。これは、事業を譲渡しても、譲渡会社自身の法人格は存続し、債務は譲渡会社に残るためです。ただし、特約で債務を承継させる場合は注意が必要です。
- 個別の契約承継の必要性: 事業譲渡では、譲渡される事業に関連する個々の契約(顧客との契約、従業員との雇用契約、許認可など)について、原則として個別に譲受会社へ承継の手続きを行う必要があります。包括承継が可能な会社分割との大きな違いです。
2-3. 合併と会社法
合併は、複数の会社が一つになる組織再編手法です。合併には、既存の会社が他の会社を吸収する「吸収合併」と、新しい会社を設立して既存の会社をすべて消滅させる「新設合併」があります。
合併において特に重要な会社法上のポイントは以下の通りです。
- 株主総会の特別決議(会社法第783条、第795条など): 合併を行う会社では、原則として株主総会の特別決議が必要です。これは、株主にとって大きな影響があるため、株主の承認を厳格に求めるものです。
- 債権者保護手続き(会社法第789条、第799条など): 合併により会社の組織や債務の承継関係が大きく変わるため、債権者に対して合併の事実を知らせ、異議を述べる機会を与える「債権者保護手続き」が義務付けられています。具体的には、官報への公告や個別通知などが必要です。この手続きを怠ると、合併が無効となる可能性があります。
- 合併契約の締結: 合併を行う各会社間で合併契約を締結し、合併の条件(合併比率、存続会社・消滅会社など)を定める必要があります。
2-4. 会社分割と会社法
会社分割は、会社の一部または全部の事業を他の会社に承継させる組織再編手法です。合併と同様に「吸収分割」と「新設分割」があります。
会社分割における会社法上の重要ポイントは以下の通りです。
- 株主総会の特別決議(会社法第783条、第795条など): 原則として、分割会社および承継会社(吸収分割の場合)で株主総会の特別決議が必要です。合併と同様に、会社の事業構造に大きな影響を与えるため、厳格な承認が求められます。
- 債権者保護手続き(会社法第789条、第799条など): 会社分割によっても債務の承継関係が変わるため、合併と同様に債権者保護手続きが義務付けられています。公告や個別通知などを適切に行う必要があります。
- 会社分割計画または契約の作成: 会社分割を行う際には、分割の条件(承継する事業の範囲、対価など)を定めた会社分割計画または契約を作成します。
- 包括承継の原則: 事業譲渡とは異なり、会社分割では事業に関する権利義務が包括的に承継されます。これにより、個別の契約承継の手間を省けるのが大きなメリットです。
3. M&A全体で押さえておきたい会社法の共通事項
上記の手法以外にも、M&A全般に共通して会社法が関係するポイントがあります。
- 情報開示義務: 上場企業の場合、M&Aに関する重要な決定をした際には、会社法だけでなく金融商品取引法などに基づき、適時開示が求められます。
- 取締役の善管注意義務・忠実義務: M&Aの交渉や実行において、取締役は会社のために最大の利益を追求する「善管注意義務」や「忠実義務」を負っています。不適切な取引や、一部の株主・役員に不当に有利なM&Aは、後に責任追及される可能性があります。
- 株主の権利: M&Aは株主の権利に大きな影響を与えるため、会社法は株主の保護を重視しています。例えば、不利益を被る株主には株式買取請求権が認められる場合があります。
4. 会社法違反のリスクと専門家の重要性
M&Aにおいて会社法の規定に違反した場合、以下のようなリスクが生じます。
- M&A取引の無効: 必要な株主総会決議や債権者保護手続きを怠ると、そのM&A自体が無効と判断される可能性があります。
- 損害賠償責任: 法令違反によって会社や株主、債権者などに損害を与えた場合、取締役などが損害賠償責任を負うことがあります。
- 刑事罰: 会社法には罰則規定もあり、悪質な違反の場合には刑事罰が科される可能性もあります。
これらのリスクを回避し、M&Aを安全かつ確実に進めるためには、会社法をはじめとするM&A関連法規に精通した専門家のサポートが不可欠です。 弁護士、公認会計士、税理士、M&Aアドバイザーなど、各分野の専門家と連携し、法的なリスクを適切に管理することがM&A成功の鍵となります。
5. まとめ:会社法を理解し、成功するM&Aを
M&Aは、企業にとって大きなチャンスとなる一方で、多くの法律的側面が絡む複雑なプロセスです。特に会社法は、M&Aの合法性と有効性を担保する上で最も重要な法律の一つであり、その基本的なポイントを理解しておくことは、経営者として必須の知識と言えるでしょう。
- M&Aの各手法(株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割など)には、それぞれ会社法が定める固有の要件や手続きがあることを理解する。
- 特に株主総会の決議や債権者保護手続きは、多くの組織再編行為で必須となるため、その重要性を認識する。
- 会社法違反は、取引の無効化や損害賠償といった重大なリスクにつながるため、決して軽視しない。
M&Aの検討段階から、信頼できる専門家(M&Aアドバイザー、弁護士、会計士など)に相談し、適切なアドバイスを受けながら進めることで、会社法上のリスクを最小限に抑え、あなたのM&Aを成功へと導くことができるはずです。