1. はじめに ― M&Aって、難しそうですよね?
「M&Aって言葉は聞いたことあるけど、実際はよくわからない」
「大企業や上場企業だけの話でしょ?」
「地方の中小企業には関係ないのでは?」
こうした声を、私たちは日々の経営支援の中で何度も聞いてきました。
確かに、「企業買収」「合併」「企業価値」「デューデリジェンス」「株式譲渡」……と専門用語が多く、M&Aに対して“とっつきにくさ”を感じる方も多いでしょう。
ですが、実は今、中小企業や地方企業こそM&Aを活用する時代に入ってきています。
後継者不足の解消、新規事業の立ち上げ、人材確保、業務効率化、地域経済の活性化――そのどれにも有効な手段になり得るのが、M&Aなのです。
このブログでは、できる限り専門用語を使わずに、M&Aの基本と実践的な使い方を、日本で一番わかりやすくお伝えしていきます。
2. M&Aとは?超シンプルに言うと…
まず、M&Aとは何か?
一言で言うと、
**「会社を売ること・買うこと」「会社同士がくっつくこと」**です。
M&Aという言葉は、次の2つの英語の略です。
- M = Merger(合併)
- A = Acquisition(買収)
つまり、「合併」や「買収」を意味し、企業と企業が何らかのかたちでひとつになる、あるいはどちらかがどちらかの傘下に入る、ということを指します。
ただし、現実のM&Aでは、“吸収合併”のような完全統合”よりも、“株式を譲渡して経営権を渡す”というケースのほうが圧倒的に多いです。
そのため、中小企業でM&Aと言うと、以下のような形が主流になります。
- 会社の株を全部売却 → 買い手が新しいオーナーになる
- 株の一部を売却 → 買い手が共同経営に入る
- 事業の一部を切り出して売却 → 店舗、ブランド、従業員だけを引き継ぐ
このように、“会社そのもの”を手放す以外にも、さまざまな形でM&Aは活用されているのです。
3. M&Aで売る側(=譲渡側)のメリット
M&Aというと、どうしても「買う話」がクローズアップされがちですが、実は今の日本では、“売るためのM&A”のほうがニーズが高まっている状況です。
なぜなら、後継者不足が深刻だから。
売る側のメリットは主に5つあります。
1. 会社をたたまずに残せる
家族や社員に継ぐ人がいないからといって、廃業するのはあまりにももったいない。技術や顧客基盤、社員の雇用など、すべてが途絶えてしまいます。M&Aで別の会社に引き継げば、事業を継続でき、会社の価値を次代に残すことができます。
2. 創業者利益を得られる
M&Aで株式を売却すれば、その対価として売却益(いわゆる“キャピタルゲイン”)を得ることができます。老後の資金や次のチャレンジ資金として活用できます。
3. 社員の雇用が守られる
M&Aでは、事業や取引先だけでなく、社員も一緒に引き継がれるのが一般的です。廃業よりもはるかに社員の生活を守れる手段です。
4. 地域や取引先との関係性を保てる
地域に根ざした企業であればこそ、M&Aは“会社を地域に残す”方法にもなります。得意先や仕入れ先に迷惑をかけることなく、スムーズな承継が可能です。
5. 事業成長のチャンスにもなる
新しいオーナーが経営ノウハウや資本力を持っていれば、M&A後に会社がさらに成長する可能性も十分あります。
4. M&Aで買う側(=譲受側)のメリット
一方、買う側にとってM&Aは「スピードと確実性のある事業拡大手段」として非常に魅力的です。
買い手側のメリットは以下の通り。
1. 一気に売上・人材・顧客を獲得できる
新規事業をゼロから立ち上げるには時間もお金もかかります。M&Aなら、すでに回っているビジネスをそのまま引き継げるため、最短距離で事業を拡大できます。
2. ノウハウやブランドも引き継げる
M&Aでは、技術やブランド、社内の文化、職人の技術まで受け継ぐことができます。これは地方の老舗企業や専門メーカーに多いメリットです。
3. 地域や新規市場に参入しやすくなる
たとえば「関東で事業をしている会社が、九州にある会社を買う」ことで、一気にエリア展開が可能になります。
4. 優秀な人材を確保できる
特に人手不足に悩む企業にとって、社員ごと引き継げるM&Aは非常に魅力的。採用よりも確実な方法です。
5. 他社と協業・シナジーが生まれる
買収した会社と自社との**“掛け算”で新しい価値が生まれる**こともあります。BtoC事業者がBtoB事業者を買って販路を広げるなど、相互補完ができます。
5. M&Aの代表的な手法
M&Aにはいくつかの代表的なやり方があります。ここでは中小企業でも使われる主要な手法を、わかりやすく紹介します。
① 株式譲渡
- 最も一般的なM&Aの手法
- 売り手が持っている会社の株を、買い手に譲ることで会社のオーナーが変わる
- 社名、契約、社員、取引先などは基本的にそのまま引き継がれる
② 事業譲渡
- 会社そのものではなく、「この事業部門だけ」「この店舗だけ」など、特定の事業を売買する方法
- 不採算部門の整理や、会社全体を残したままの売却が可能
③ 合併(Merger)
- 複数の会社が一体化してひとつの会社になる
- 対等合併/吸収合併などのパターンがあるが、中小企業ではあまり一般的ではない
④ 会社分割
- 一部の事業を別会社として切り離し、それを売却する手法
- 不採算部門を外す、あるいは別の形で成長させる目的などで使われる
6. M&Aの流れ(中小企業版)
「M&Aって、どこに相談して、どう進めればいいの?」
という方のために、ざっくりとした流れを紹介します。
Step 1:相談・マッチング
- M&A専門会社や金融機関に相談
- 売り手・買い手のニーズをヒアリングし、マッチング
Step 2:意向表明・交渉
- 「買いたい」「売りたい」という意志確認(LOIと呼ばれる)
- 価格、条件、引き継ぎ方などの話し合い
Step 3:デューデリジェンス(精査)
- 売り手の会社の財務・法務・人事などをチェックする
- 隠れたリスクがないかを洗い出す作業
Step 4:最終契約(成約)
- 両者の合意が取れれば、最終契約書を締結
- 引き継ぎや社員説明、取引先への周知などを実施
Step 5:PMI(統合プロセス)
- 統合後の運営をスムーズに行うための施策(制度・文化・チームづくりなど)
- 成功の可否はここにかかっていると言っても過言ではありません
7. よくある疑問・誤解
「M&Aって乗っ取られることじゃないの?」
→ いいえ。乗っ取りのような強制ではなく、**双方の合意のもとに行われる“契約”**です。むしろ丁寧な交渉が必要なプロセスです。
「小さい会社でもM&Aできるの?」
→ できます。むしろ今は年商5,000万円〜1億円程度の会社が多数M&Aされている時代です。
「会社を売ったら社員はどうなる?」
→ 一般的に、M&Aでは社員の雇用継続を前提に交渉されることがほとんどです。
8. まとめ:M&Aは、企業の“終わり”ではなく“次の章”
M&Aという言葉に「怖い」「遠い」「難しい」というイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし実際には、会社を守り、次の時代にバトンをつなぐための有効な選択肢です。
- 「廃業するしかない」と諦める前に
- 「新しい事業を始めたい」と考えるときに
- 「後継者がいない」と悩んでいるときに
M&Aという選択肢が、あなたの会社に“もう一つの未来”を与えてくれるかもしれません。
そしてその判断は、理念やビジョンに沿った経営の延長線上にこそあるべきです。「誰に、何を、なぜ引き継ぎたいのか?」を明確にすることで、M&Aもあなたらしい“経営の一部”となります。
「M&Aとは何なのか?」
その答えは、単に「会社の売買」ではなく、「志をつなぐ手段」だと、私たちは信じています。