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経営録

2025.07.24

後継者を募集しがちな業界10選

「うちの会社も、後継ぎが見つからなくて困っている…」
「若い人は都会に行ってしまうし、この技術も継承できないまま終わるのか」

日本全国の中小企業で深刻化する**「後継者不足」**問題。帝国データバンクの調査では、中小企業の約半数で後継者が不在という状況が続いています。この問題は、単に一企業の存続にとどまらず、地域経済の衰退、雇用喪失、そして長年培われてきた技術や文化の消失に直結する、日本の根深い社会課題です。

後継者不足は、すべての業界で一律に起きているわけではありません。特定の業界においては、その構造的な特性や労働環境、社会情勢の変化が複合的に絡み合い、後継者探しが極めて困難になっています。これらの業界では、M&Aや事業承継を目的とした「後継者募集」が特に活発に行われがちです。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、後継者不足が特に深刻な業界を10選ピックアップし、それぞれの業界が抱える具体的な課題と原因を詳しく解説します。あなたの会社の業界がリストに含まれていなくても、共通する課題や対策のヒントを見つけることができるでしょう。

1. なぜ特定の業界で後継者不足が深刻化するのか?

後継者不足は、日本の「人口減少」「少子高齢化」というマクロな問題が根底にありますが、特定の業界でより深刻化するのには、以下のような要因が複雑に絡み合っています。

  • 労働環境の厳しさ: 長時間労働、不規則な勤務、危険を伴う作業など、若者が敬遠しがちな労働環境が常態化している。
  • 賃金水準の低さ: 専門性や重労働、あるいは事業規模の小ささにもかかわらず、給与水準が低い傾向にある。
  • 技術・ノウハウ継承の難しさ: 熟練した技術や長年の経験に基づくノウハウが属人化しており、習得に時間がかかり、体系的な教育が難しい。
  • 市場の縮小・将来性への不安: 業界全体の市場規模が縮小傾向にあり、今後の成長や収益性が見込みにくいと感じられる。
  • 多額の設備投資や資金調達の負担: 後継者が事業を承継する際に、老朽化した設備の更新や、新たな投資のための資金調達が大きな負担となる。
  • デジタル化・DXの遅れ: 業務効率化や生産性向上が進まず、旧態依然とした働き方や非効率な業務プロセスが残っている。

これらの要因が重なることで、後継者候補が見つかりにくくなり、M&Aや廃業を検討せざるを得ない企業が増加しているのです。

2. 後継者を募集しがちな業界10選

それでは、具体的に後継者不足が深刻で、積極的に後継者募集を行っている(行わざるを得ない)業界を10選ご紹介します。

2-1. 建設業

建設業は、後継者不足が最も深刻な業界の一つとして、常に上位に挙げられます。

  • 「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージ: 長時間の屋外作業、体力的な負担、危険な作業環境が、若者にとって魅力的とは言えない大きな理由です。
  • 高齢化の進行と技術継承の困難さ: 熟練の職人や経営者が高齢化し、引退が進む一方で、若年層の入職者が少ないため、高度な技術やノウハウの継承が滞っています。
  • 一人親方の多さ: 個人事業主や家族経営の事業者が多く、組織的な後継者育成の仕組みが十分でないケースも散見されます。

2-2. 製造業(特に中小零細の町工場)

日本の産業を支えてきた製造業、特に多品種少量生産や特定の部品製造を担う中小の町工場では、後継者不足が深刻です。

  • 熟練技術の属人化: 長年の経験で培われた職人技や特定の加工ノウハウが、特定の個人に強く依存しており、これを短期間で継承することは極めて困難です。
  • デジタル化・自動化の遅れ: 最新のIT技術や自動化設備の導入が遅れている工場も多く、非効率な作業や旧態依然とした労働環境が敬遠される要因となっています。
  • 景気変動や国際競争の影響: 経済状況や国際的なサプライチェーンの変化に左右されやすく、安定した事業運営や収益確保が難しい時期があることも、後継者候補の不安材料となります。

2-3. 宿泊業・飲食サービス業(特に個人経営の旅館・飲食店)

地域経済の重要な担い手である個人経営の旅館や飲食店も、後継者不足に苦しんでいます。

  • 長時間労働と不規則な勤務: 顧客に合わせて営業するため、早朝から深夜までの長時間労働や、土日祝日の勤務が避けられず、ワークライフバランスを重視する若者には敬遠されます。
  • 体力的な負担: 立ち仕事や重いものを運ぶ作業が多く、体力的な負担が大きいことも、高齢の経営者にとって引退を考えるきっかけとなります。
  • 収益性の不安定さ: 流行や競合の影響を受けやすく、安定した利益を出しにくい状況にあります。

2-4. 運輸・倉庫業

物流インフラを支える運輸・倉庫業は、ドライバー不足とも相まって、深刻な人手不足と後継者不足に直面しています。

  • 長時間労働と低賃金: トラックドライバーなどは長距離移動や待機時間により長時間労働を強いられることが多く、労働時間に見合った賃金が得られないという不満が根強くあります。
  • 運転免許・資格の必要性: 大型免許やフォークリフト操作など、特定の専門資格が必須であり、取得に時間と費用がかかることが参入障壁となります。
  • 高齢化の進行: ドライバーの高齢化が顕著で、若年層の入職者が少ないため、次世代の担い手不足が深刻です。

2-5. 医療業・介護福祉業(特に個人経営の診療所・介護施設)

少子高齢化が進む日本社会において、需要が拡大し続ける医療・介護福祉分野でも、後継者不足は大きな課題です。

  • 専門資格の必須性: 医師、看護師、理学療法士、介護福祉士など、専門性の高い国家資格が必須であり、その取得には長期間の教育と多大な費用が必要です。
  • 多額の開業資金と経営の専門性: 医療機器や介護設備、施設の改修など、開業や承継には多額の資金が必要であり、医療・介護の知識だけでなく、人事、経理、集患といった経営スキルも求められます。
  • 身体的・精神的負担: 医療や介護の現場は、身体的・精神的な負担が大きく、責任も重いため、若者が敬遠する要因にもなります。

2-6. 小売業(特に個人経営の商店・専門店)

地域社会の生活を支える個人商店や専門小売店も、後継者不足に悩んでいます。

  • 大手チェーンやECサイトとの競争激化: 大手スーパー、ドラッグストア、そしてAmazonなどのECサイトとの価格競争や利便性競争が激しく、売上や利益を維持するのが困難な状況です。
  • 長時間営業と不規則な勤務: 顧客のニーズに合わせて長時間営業を行う必要があり、ワークライフバランスを確保しにくい傾向にあります。
  • デジタル化の遅れ: ECサイトの構築やキャッシュレス決済導入など、デジタル化への対応が遅れると、顧客獲得や効率化が困難になります。

2-7. 農業・林業・漁業

日本の食料供給や国土保全を担う一次産業は、特に高齢化と後継者不足が深刻です。

  • 重労働と自然環境への依存: 体力的にきつく、天候や自然災害の影響を受けやすい不安定な側面があります。
  • 低い初期所得と高額な初期投資: 収穫が安定するまで時間がかかったり、農地や機械の初期投資がかかったりするため、若者にとって経済的なハードルが高いです。
  • ノウハウの属人化: 長年の経験と勘が必要な作業が多く、技術やノウハウの継承が難しいと感じられています。

2-8. クリーニング業

地域の生活に密着したクリーニング業も、後継者不足が顕著な業界です。

  • 重労働と危険を伴う作業: 大量の洗濯物や重い機械の運搬、高温多湿な環境での作業など、体力的にきつい側面があります。
  • 低い収益性: 単価が低く、薄利多売の傾向があるため、安定した高収入を得にくい場合があります。
  • 新規参入の少なさ: 若者にとって「憧れの仕事」というイメージが薄く、新たな入職者が少ないです。

2-9. 理美容業(特に個人経営の理髪店・美容室)

長年地域に愛されてきた個人経営の理髪店や美容室も、後継者探しに苦労しています。

  • 国家資格の必須性: 理容師・美容師の国家資格が必須であり、取得に時間と費用がかかります。
  • 高齢化と体力的な限界: 経営者自身の高齢化が進み、長時間の立ち仕事や細かい作業が体力的に厳しくなるケースがあります。
  • 大型チェーン店との競争: 低価格や新しいトレンドを売りにする大型チェーン店との競争が激しく、顧客獲得や人材確保が困難になる場合があります。

2-10. 専門サービス業(特定の士業事務所、コンサルティング会社など)

特定の士業(例:行政書士、弁理士など)の事務所や、創業者個人のスキル・人脈に大きく依存するコンサルティング会社、デザイン事務所なども後継者問題に直面します。

  • 個人のスキル・経験に大きく依存: 創業者の個人的な信頼関係や専門スキル、人脈に事業が成り立っている場合、後継者にその全てを円滑に引き継ぐのが非常に困難です。
  • 顧客基盤の引継ぎの難しさ: 顧客が個人に紐づいているため、事業を承継しても顧客が離れてしまうリスクがあります。
  • 資格必須の業務: 資格が必須の士業の場合、後継者が資格を持つ人材に限定されるため、候補者がさらに限られます。

3. まとめ:後継者募集は「業界の未来」を左右する課題

ここに挙げた業界は、いずれも私たちの生活や社会を支える上で不可欠な存在です。しかし、それぞれの業界が抱える構造的な課題が、後継者不足という形で顕在化し、積極的に後継者募集をせざるを得ない状況にあります。

これらの業界が後継者不足を解決し、未来へと事業を繋ぐためには、以下のような多角的なアプローチが求められます。

  • 労働環境の改善: 労働時間、賃金体系、福利厚生を見直し、若者が魅力を感じる職場環境を整備する。
  • 情報発信の強化: 業界のやりがい、社会貢献性、技術の面白さ、地方での豊かな暮らしなどを積極的に発信する。
  • 育成制度の改革: 従来の徒弟制度に代わる、短期間・段階的な育成プログラムや、経営スキル教育を導入する。
  • デジタル化・DXの推進: 業務効率化や生産性向上、新たな価値創造につながるIT技術を積極的に導入する。
  • M&A・事業承継の積極的活用: 親族や社内承継が難しい場合でも、外部の買い手(第三者承継)を見つけることで事業を継続・発展させる。

これらの業界が抱える後継者不足は、まさに「業界の未来」そのものに関わる問題です。個々の企業の努力はもちろん、業界全体、そして国や地方自治体レベルでの複合的な支援策が、日本の大切な産業と文化を守り、次世代へとつなぐために不可欠です。M&Aや事業承継は、そのための強力なツールの一つとして、今後ますます活用が期待されるでしょう。