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経営録

2025.07.27

株式譲渡における相続税の生前贈与とは?その手順や注意点を解説

「会社を元気なうちに息子に継がせたいけど、相続まで待つと税金が心配…」
「生前贈与で自社株を譲りたいけど、贈与税やその後の手続きはどうなるの?」

中小企業の経営者にとって、後継者への事業承継は避けて通れない課題です。特に、自社株(非上場株式)の引き継ぎにかかる相続税の負担は大きく、その対策として注目されるのが**「生前贈与」**です。生前贈与は、計画的に株式を後継者に移転することで、相続発生時の納税資金不足や遺産分割のトラブルを回避し、円滑な事業承継を実現するための有効な手段です。

しかし、「生前贈与」と一口に言っても、単に株式を渡すだけでは多額の贈与税が発生したり、思わぬ落とし穴にはまったりする可能性があります。また、最も強力な優遇策である「事業承継税制」を適用するためには、特定の要件と手順を理解しておく必要があります。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、株式譲渡における相続税対策としての生前贈与の具体的な仕組み、その手順、そして利用する上でのメリット・デメリット、注意点を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社を未来へつなぎ、後継者が税金で苦労しないための知識を、ぜひインプットしてください。

1. 株式譲渡における生前贈与とは?相続税対策の基本

1-1. 生前贈与の基本的な考え方

生前贈与とは、生きている間に財産を贈与することを指します。相続税対策としての生前贈与の主な目的は、将来発生する相続財産を減らし、相続税の負担を軽減することです。

株式の生前贈与の場合、現経営者から後継者へ、生前に自社株を無償で譲渡します。この際、贈与税が課税されますが、将来の相続税対策として有効な手段となり得ます。

1-2. なぜ生前贈与が相続税対策になるのか?

  • 相続財産の分散: 生前に財産を贈与することで、死亡時の相続財産を減らすことができます。相続税は累進課税であるため、財産が集中していると税率が高くなる傾向があります。生前贈与で財産を分散させることで、全体の税負担を軽減できる可能性があります。
  • 株価変動リスクの回避: 生前贈与は、贈与時の株価で評価されます。もし将来的に会社の業績が向上し、株価が上昇する見込みがある場合、株価が比較的低い段階で贈与を行うことで、贈与税の負担を抑えることができます。
  • 計画的な納税準備: 贈与の時期や金額をコントロールできるため、後継者が計画的に納税資金を準備する時間を確保できます。
  • 後継者育成期間の確保: 早期に株式を譲渡することで、後継者が名実ともに会社のオーナーとなり、経営者としての自覚を持ち、育成期間を十分に確保できるという事業承継上のメリットも大きいです。

1-3. 生前贈与における贈与税の基本

贈与税は、**贈与を受けた側(受贈者)**に課される税金です。

  • 課税対象: 贈与によって取得した財産の価額。自社株の場合、税務上の「株価評価額」が基準になります。
  • 税率: 贈与税は累進課税で、贈与額が増えるほど税率も高くなります。
    • 暦年贈与: 1年間に110万円までの贈与は非課税。これを超える部分に課税されます。
    • 相続時精算課税制度: 2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となり、贈与者が亡くなった時に相続財産に加算して相続税を計算する制度。
    • 特例贈与: 直系尊属(父母・祖父母)から20歳以上の子・孫への贈与に適用され、一般贈与よりも税率が優遇されています。

2. 株式の生前贈与の具体的な手順

株式の生前贈与は、税務上の注意点が多いため、以下の手順で慎重に進める必要があります。

ステップ1:事業承継計画の策定と専門家への相談

生前贈与を行う前に、まず事業承継全体の計画を立てることが重要です。

  • 事業承継の目的明確化: 「なぜ生前贈与をするのか」「誰に、いつまでに、どのくらいの株式を譲りたいのか」「承継後の経営体制はどうしたいのか」などを具体的に検討します。
  • 自社株の評価: 贈与税額を把握するため、現在の自社株の評価額を算定します。非上場株式の評価は複雑なため、必ず税理士に依頼しましょう。
  • 専門家への相談: 事業承継税制に詳しい税理士、M&Aアドバイザー、必要に応じて弁護士などの専門家に相談し、最適な贈与スキームや税金対策についてアドバイスを受けます。この段階で「事業承継税制」の適用を検討することも非常に重要です。

ステップ2:事業承継税制「特例承継計画」の提出(最重要)

株式の生前贈与において、最も強力な税金対策となるのが**「事業承継税制(法人版・特例措置)」**です。

  • 特例承継計画の策定: 都道府県知事の確認を受けるための「特例承継計画」を作成します。これには、後継者の氏名、経営状況、承継後の経営計画などを記載します。
  • 提出期限: 令和8年(2026年)3月31日までに、会社の所在地を管轄する都道府県に提出し、確認を受ける必要があります。この計画がなければ、原則として特例措置の適用は受けられません。
  • 目的: この計画が認定されることで、後継者が受け取る自社株にかかる贈与税が100%猶予され、最終的には免除される可能性があります。これにより、後継者の税負担を大幅に軽減できます。

ステップ3:株式贈与契約書の作成と株式の引き渡し

特例承継計画の確認を受けたら、実際に株式の贈与を行います。

  • 贈与契約書の作成:株式の贈与は口頭でも成立しますが、後々のトラブルを防ぎ、贈与の事実を明確にするためにも、必ず**「株式贈与契約書」**を作成しましょう。贈与者(社長)と受贈者(後継者)の氏名、贈与する株式の種類と数、贈与日などを明記します。
  • 株式の引き渡し:贈与契約書に基づき、後継者に株券を交付するか、株券不発行会社の場合は株主名簿の書換えを行います。
  • 取締役会議事録などへの記載:会社法上の手続きとして、株主名簿の書換えを行うには、取締役会(取締役会がない場合は代表取締役など)の承認が必要となる場合があります。議事録などにも記録を残しましょう。

ステップ4:都道府県知事への「認定申請」と税務署への「贈与税申告」

株式の贈与が完了したら、制度の適用と納税のための手続きを行います。

  • 都道府県知事への認定申請:株式の贈与が完了したら、その贈与が特例承継計画に基づいていることを都道府県に認定してもらうための申請を行います。
  • 税務署への贈与税申告:株式の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、税務署へ贈与税の申告書を提出します。この申告書の中で、事業承継税制の納税猶予の適用を受けたい旨を記載し、必要書類(都道府県知事の認定書など)を添付します。
  • 担保の提供:納税が猶予される贈与税額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。通常は、贈与によって取得した自社株式自体を担保とすることで問題ありません。

3. 株式の生前贈与における注意点とリスク

生前贈与は強力な相続税対策となりますが、以下のような注意点とリスクが存在します。

注意点1:納税猶予の「取消リスク」と「継続要件」

事業承継税制(特例措置)を利用して贈与税の納税猶予を受けた場合でも、承継後に以下の要件を満たし続けなければ、猶予が取り消され、多額の贈与税に加えて利子税も一括で支払うことになります。

  • 後継者の代表権維持: 後継者が原則として、会社の代表権(代表取締役など)を持ち続けること。
  • 株式保有の継続: 猶予対象の株式を売却しないこと。
  • 事業の継続: 会社が事業活動を継続すること(資産管理会社化など、事業実態のない状態にならないこと)。
  • 雇用要件: 承継後5年間は、平均で承継時の雇用者数の8割以上を維持する努力が求められます(ただし、やむを得ない事情がある場合は柔軟化)。
  • 報告義務: 毎年、都道府県や税務署に継続状況を報告する義務があります。

注意点2:創業者の「支配権」喪失のリスク

生前贈与は、創業者が株式を減らすことになるため、贈与が進むにつれて会社の議決権割合が低下し、経営権を喪失するリスクがあります。

  • 対策: 承継後の経営体制を十分に検討し、株式の移動計画を慎重に立てましょう。贈与後も、創業者自身が会長などの立場で一定期間経営に関わる場合でも、後継者(新社長)が円滑にリーダーシップを発揮できるよう、役割分担を明確にすることが重要です。

注意点3:他の相続人との関係性

後継者へ生前贈与を行うことで、将来、他の相続人から遺産分割に関する不満が生じる可能性があります。

  • 対策: 生前中に、他の相続人に対して事業承継の必要性や、生前贈与を行う理由、そして将来の遺産分割に関する自身の考えなどを丁寧に説明し、理解を得ておくことが望ましいです。

注意点4:会社の株価変動リスク

贈与税は贈与時点の株価で評価されます。もし、贈与後に株価が大幅に下落した場合でも、贈与時点の株価で評価されるため、結果的に高すぎる税金を支払うことになるリスクがあります。

  • 対策: 会社の業績が安定している時期や、株価が比較的低い時期に贈与を行うのが理想的です。

4. まとめ:株式の生前贈与は「計画」と「プロのサポート」で成功へ

株式譲渡における相続税対策としての生前贈与は、後継者育成の早期化や、相続税の負担軽減に大きな効果を発揮する強力な手段です。特に、**事業承継税制(特例措置)**を組み合わせることで、後継者の税負担を劇的に軽減し、円滑な事業承継を実現することが可能になります。

  • 生前贈与のメリット: 相続財産の分散、株価変動リスク回避、計画的な納税準備、後継者育成期間の確保。
  • 最重要手続きは「特例承継計画の提出(2026年3月31日まで)」
  • 税金の落とし穴: 納税猶予の取消リスク、創業者の支配権喪失リスク、他の相続人との関係性など。
  • 成功の鍵: 早期からの計画策定、自社株評価、そして専門家(税理士、M&Aアドバイザー、弁護士など)との綿密な連携。

しかし、その適用には複雑な要件や手続き、そして承継後の継続的な義務が伴います。これらの点を十分に理解し、必ず税理士をはじめとするM&A・事業承継の専門家と綿密に連携し、自社の状況に合わせた最適な承継スキームを構築してもらうことが何よりも重要です。

専門家の知見を最大限に活用し、予期せぬトラブルを避けながら、あなたの大切な会社を、安心して次の世代へと力強くバトンタッチしてください。