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経営録

2026.02.09

組織図の書き換え方|アトツギ体制に移行するための役割分担と権限委譲

「後継者にそろそろ実務を任せたいが、結局自分が口を出してしまう」

「組織図上はアトツギを専務にしたが、現場の社員はまだ社長の顔色を伺っている」

「世代交代を機に組織を若返らせたいが、どこから手を付ければいいのかわからない」

事業承継は、単なる「代表者の名義変更」ではありません。それは、創業者が築き上げた「社長一人に情報と権限が集中するピラミッド」を解体し、アトツギがリーダーシップを発揮できる「新しい組織のOS」をインストールする作業です。

結論から申し上げます。アトツギ体制への移行を成功させる鍵は、箱を並べ替えるだけの組織図作りではなく、目に見えない「意思決定のルール」と「責任の境界線」を書き換えることにあります。

本記事では、事業承継の過渡期にある中小企業が取り組むべき、役割分担と権限委譲の具体的な手順を解説します。

なぜアトツギ体制になると「これまでの組織図」が機能しないのか

創業期から成長期にかけて、多くの中小企業は「社長がすべてを決める」ことでスピードと柔軟性を保ってきました。しかし、この体制のままアトツギへバトンを渡そうとすると、必ず大きな壁にぶつかります。

二頭政治による現場の混乱

組織図上、社長の下にアトツギ(専務など)が配置されていても、現場の社員が「最終的なYESを言うのはどっちだ?」と迷っている状態では、アトツギの権威は育ちません。社長とアトツギの指示が食い違う「二頭政治」は、組織の停滞を招く最大の原因です。

「社長の背中」がマニュアルになっている弊害

創業社長の意思決定は、長年の勘や経験に基づいた「暗黙知」です。組織図に「営業部」「製造部」と書いてあっても、実態は社長の頭の中にすべての指示系統がある場合、アトツギは何を基準に判断していいのかわからず、結果として社長の許可を仰ぐだけの存在になってしまいます。

古参社員とアトツギの感情的な摩擦

「アトツギの指示よりも、創業社長の意向」を優先する古参社員との関係性は、組織図の書き換えだけでは解決しません。役割分担が明確でないと、アトツギは「自分の居場所がない」と感じ、組織改革への意欲を失ってしまいます。

ステップ1:現状の「社長依存度」を棚卸しする

組織図を書き換える前に、現在「社長が何をしているか」をすべて書き出す必要があります。これが権限委譲の出発点です。

業務を「社長しかできないこと」と「任せられること」に分ける

資金繰りや重要顧客のトップ交渉など、現時点では社長にしかできない業務を特定します。それ以外の「見積もりの承認」「採用の最終判断」「日々の工程管理」などは、すべて権限委譲の候補リストに入れます。

意思決定の「ブラックボックス」を開く

「なぜその判断をしたのか」という基準を言語化します。「理念に沿っているか」「利益率は確保できているか」「リスクは許容範囲か」。この判断基準をアトツギと共有し、組織図の各レイヤーに「どのような判断を任せるか」のルールを付与していきます。

ステップ2:アトツギが「全権」を持つ領域を作る

事業承継の初期段階で最も有効なのは、組織全体を一気に変えるのではなく、特定の部門や新規事業において「アトツギが最終決定権者」となる領域を作ることです。

「出島」としての新規プロジェクト

既存事業の組織図はいじらず、アトツギをリーダーとする「新規事業開発室」や「DX推進プロジェクト」を立ち上げます。ここでは社長は一切口を出さず、予算の範囲内でアトツギがすべての決定を下す。この「成功も失敗も自分の責任」という経験が、経営者としての視座を育てます。

特定部門の「完全委譲」

例えば「営業部」や「管理部」など、一つの部門のトップにアトツギを据えます。この際、重要なのは「社長の飛び越し指示」を禁止することです。社員が社長に相談に来ても、「それは専務に聞いてくれ」と突き放す。この徹底が、組織図上の役割を実態へと変えていきます。

ステップ3:次世代リーダーを巻き込んだ「チーム型経営」への移行

アトツギ一人にすべてを任せるのではなく、アトツギを支える「次世代幹部」を組織図に組み込みます。アトツギが「若きワンマン」になるのではなく、チームで経営する体制を作ることが、承継後の安定に繋がります。

「番頭役」ではなく「パートナー」の育成

創業社長時代の「忠実な部下(番頭)」とは別に、アトツギと同じ目線で議論ができる若手・中堅のリーダーを選抜します。組織図に「経営企画」などの役割を設け、アトツギと共に未来の戦略を練る場を作ります。

権限規定の「見える化」

「30万円までは課長判断、100万円までは部長判断、それ以上はアトツギ判断」。このように、組織図の役職に紐づく決定権限をルール化します。これにより、社長の「その場の気分」による介入を防ぎ、アトツギが正当なプロセスで組織を動かせるようになります。

承継プロセスにおける社長とアトツギの役割変化

体制移行期において、社長とアトツギの役割は時間の経過とともにグラデーションのように変化していかなければなりません。

  • 前半:社長(主導)× アトツギ(伴走)社長が先頭に立ち、アトツギは社長の背中を見ながら実務を支えます。この時期は「背中を見せる」期間です。
  • 中盤:社長(助言)× アトツギ(執行)実務の決定権をアトツギに移し、社長は相談役に回ります。ここで社長が「我慢」できるかどうかが、移行の成否を分けます。アトツギが失敗しそうになっても、致命傷でない限りは見守る器が求められます。
  • 後半:社長(監修)× アトツギ(経営)アトツギが完全に舵を握ります。社長は組織図の外(会長や名誉職)へ退き、アトツギが築く新しい組織文化を側面から支援する立場に徹します。

まとめ:組織図は「アトツギの決意」の表明である

組織図を書き換えるという行為は、単なる事務作業ではありません。それは、アトツギが「これから私がこの責任を背負い、このチームで新しい時代を創る」という決意を内外に示す宣言です。

  1. 社長依存の業務を棚卸しし、判断基準を言語化する。
  2. **アトツギが全権を持つ「領域」**から着手し、成功体験を積ませる。
  3. 職務権限をルール化し、社長の介入を防ぐ仕組みを作る。
  4. アトツギを支える次世代チームを組織図に組み込む。

新しい組織図が機能し始めるとき、会社には新しい風が吹き込みます。創業社長が築いた「個の力」が、アトツギが率いる「組織の力」へと進化する。その瞬間こそが、事業承継が真に完了する時なのです。