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経営録

2026.01.28

評価制度が機能しない理由|KPI設定よりも大切な「納得感」の正体

「コンサルティング会社に頼んで立派な評価制度を作ったのに、社員のモチベーションが上がらない」

「KPI(重要業績評価指標)を細かく設定したが、数字合わせの報告ばかりが目立つようになった」

「結局、最後は社長の好き嫌いで決まっているのではないか、と不信感を持たれている」

多くの中小企業経営者が、評価制度の運用に頭を抱えています。公平な評価をしようと指標を増やし、基準を厳格にすればするほど、現場には「やらされ感」が漂い、組織の活気が失われていく。そんな皮肉な現象が至る所で起きています。

結論から申し上げます。評価制度が機能しない最大の原因は、指標(KPI)の不備ではなく、評価結果に対する「納得感」の欠如です。

納得感のない評価制度は、社員にとって単なる「監視と格付けの道具」でしかありません。一方で、納得感のある組織では、たとえ評価が厳しくとも、社員はそれを自身の成長の糧として受け入れます。

本記事では、評価制度を形骸化させる真犯人を特定し、数値目標よりも重要な「納得感」をどう醸成すべきか、その本質的な処方箋を解説します。

KPIを並べるだけでは人は動かない

多くの企業が陥る「評価制度の罠」は、すべてを数値化(定量化)すれば公平性が保たれるという思い込みです。

1. 数字に表れない「貢献」の切り捨て

KPIを厳格に運用すると、社員は「評価対象となる数字」にしか意識を向けなくなります。後輩の育成、チームの雰囲気作り、トラブルの未然防止といった、組織にとって極めて重要な「数字に表れにくい貢献」が軽視されるようになります。これを社員が目の当たりにしたとき、「正当に評価されていない」という強い不満が生まれます。

2. 「目標の形骸化」と「守りの姿勢」

高い目標を設定して未達であれば給与が下がる仕組みでは、社員は自然と「確実に達成できる低い目標」を立てるようになります。挑戦を促すはずの制度が、皮肉にも社員の挑戦意欲を削ぎ、組織を保守化させてしまうのです。

3. 指標の操作(ゲーミフィケーションの悪用)

「成約件数」をKPIにすれば、強引な手法で短期的な数字を追うようになり、「訪問件数」をKPIにすれば、中身のない面談を繰り返すようになります。人は指標に最適化して行動する生き物です。目的(顧客満足や利益)と手段(KPI)が入れ替わったとき、評価制度は組織を蝕み始めます。

「納得感」を左右する3つの心理的要素

社員が「この評価なら、次も頑張ろう」と思える納得感は、どこから生まれるのでしょうか。それは、単に「給与が上がったかどうか」だけではありません。

プロセスへの公正性(手続的正義)

結果そのものよりも、「どのようなプロセスでその結果が導き出されたか」が重視されます。

「自分の仕事ぶりが正しく観察されていたか」「評価の基準が事前に明確に示されていたか」「意見を言う機会があったか」。このプロセスが不透明であれば、どんなに高い評価をもらっても、社員は制度を信頼しません。

フィードバックの質(対人的正義)

評価を伝える際のコミュニケーションの質です。

「上司が自分の成長を願って伝えてくれているか」「良い点だけでなく、課題についても具体的な根拠を持って話してくれているか」。単なる結果の通達ではなく、対等な人間としての対話があるかどうかが、納得感の分かれ目となります。

期待のすり合わせ(未来への接続)

評価とは、過去を裁く儀式ではなく、未来を創るための確認作業です。「今回の評価を踏まえ、次はどのような役割を期待されているのか」「それを達成することで、自分はどう成長できるのか」。この未来への展望がセットになって初めて、評価は「意味」を持ちます。

評価制度に魂を吹き込む「3つの運用ハック」

制度(仕組み)を変える前に、運用の「当たり前」をアップデートする必要があります。

1. 「1on1」を評価の場から切り離す

月に一度の1on1ミーティングを「評価(査定)の場」にしてはいけません。1on1はあくまで「成長支援と障害の除去」の場です。

日常的にコミュニケーションをとり、期待値のズレを修正し続けていれば、期末の評価面談で「えっ、そんな評価なの?」というサプライズは起きません。納得感とは、日々の対話の積み重ねの結果なのです。

2. 理念(バリュー)評価を定量評価と同じ重さにする

売上目標などの「成果」と同じ重みで、理念に基づいた行動(バリュー)を評価項目に入れます。

「どれだけ稼いだか」だけでなく「どう稼いだか」を見る。これを徹底することで、組織の文化を守る行動が正当に評価され、社員は「この会社は自分たちの姿勢を見ている」と安心し、納得感を持ちます。

3. 「絶対評価」と「相対評価」の使い分け

原資の関係で最終的な処遇は相対評価(序列化)になるとしても、フィードバックの段階では徹底的に「絶対評価(個人の成長)」に焦点を当てます。

「他人と比べてどうか」ではなく「半年前の自分と比べてどうか」「設定した目標に対してどうだったか」。個人の努力と変化に光を当てることで、評価は「他人との競争」から「自己研鑽」のツールへと変わります。

経営者が評価の瞬間に「さらけ出すべき」こと

評価制度が機能しない組織では、経営者が「制度の影」に隠れています。

「これは制度で決まっているから」「点数がこうなったから」

こうした事務的な態度は、社員の心を離れさせます。経営者が評価において果たすべき役割は、制度を盾にすることではなく、自らの「意志」を伝えることです。

「私は君のこの行動に救われた。だから高く評価したい」

「数字は出ているが、今の君のやり方はチームを壊している。私はそれを良しとしない」

経営者自身の価値観や、会社がどこへ向かおうとしているのかという熱量を、評価というフィルターを通して伝える。この「生身の言葉」こそが、どんな精緻なKPIよりも社員の胸を打ち、納得感を生みます。

まとめ:評価制度は「愛」の通知表である

評価制度とは、社員を管理するための仕組みではありません。

「会社はあなたのことを見ている」「あなたの貢献を大切に思っている」「もっと高いステージへ行ってほしいと願っている」という、会社から社員への「愛と期待」を伝えるためのコミュニケーションツールです。

  1. 数字の裏側にある「プロセス」と「想い」に目を向ける
  2. 「裁く場」ではなく「育てる場」として面談を設計する
  3. 経営者自身の言葉で、評価の「意味」を語り続ける

KPIの設定に時間を費やす前に、まずは現場のリーダーたちが社員と「最近、仕事はどうだい?」という雑談から始められる関係性を作れているか、確認してみてください。

土壌が整っていない場所にどんなに高価な評価制度を植えても、実は根付くことはありません。社員が「この会社で、この人たちに評価されたい」と思える組織文化を耕すこと。それこそが、評価制度を機能させるための、遠回りに見えて最短の道なのです。