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経営録

2026.01.02

不況や危機に強い会社はなぜ理念が厚いのか|コロナ禍で分かれた明暗

「なぜ、あの会社はコロナ禍でも過去最高益を叩き出したのか?」

「なぜ、同じ業界なのに、一方は倒産し、一方はV字回復したのか?」

未曾有の危機となった新型コロナウイルスのパンデミックは、世界中の企業に対して、ある残酷な「踏み絵」を迫りました。それは、資金力でも、ITスキルでもありません。**「あなたの会社は、何のために存在しているのか?」**という、経営の根源的な問いです。

結論から申し上げます。不況や危機に強い会社とは、資金が潤沢な会社ではありません。「分厚い経営理念」を持ち、それを全社員が判断基準として使いこなしている会社です。

平時において、理念は「飾り」に見えるかもしれません。しかし、有事において理念は、組織の崩壊を防ぎ、迷走を断ち切り、新たな活路を開くための「最強の実務ツール」へと変貌します。

本記事では、コロナ禍で明暗を分けた決定的な要因である「理念の機能」に焦点を当て、なぜ理念が厚い会社ほど危機に強いのか、その構造的・心理的なメカニズムを解説します。

危機において「理念」が最強の武器になる理由

ビジネス環境が安定している時、企業は「計画(地図)」に従って進めば利益を出すことができます。「前年比110%」といった過去の延長線上の目標で十分機能します。

しかし、コロナ禍のような突発的な危機は、その「地図」を一瞬で無効化します。道が塞がり、景色が一変し、どこへ進めばいいのか誰にもわからない状況。いわゆる「視界ゼロ」の状態です。

この時、地図(計画)しか持っていない組織は立ち尽くします。「マニュアルにない」「社長の指示がない」と思考停止に陥り、座して死を待つことになります。

一方で、地図が役に立たない時、唯一頼りになるのが**「コンパス(理念)」**です。

「我々の使命は〇〇だ。ならば、北へ進むべきだ」

「今のやり方は通用しない。だが、我々の価値観(バリュー)に照らし合わせれば、この新しい方法に挑戦すべきだ」

理念が厚い会社は、外部環境がどれほど激変しても、「自分たちが進むべき方角(North Star)」を見失いません。この**「迷いがない」ことによる初動の速さ**こそが、生存確率を劇的に高めるのです。

コロナ禍で露呈した「判断軸」の有無

コロナ禍は、経営者と社員から「考える時間」を奪いました。即断即決が求められる局面で、理念の有無がどのような差を生んだのか。具体的なシーンで比較してみましょう。

ケース1:売上が蒸発した時の対応

  • 理念がない会社(売上至上主義):「売上がないならコストを削れ」と、即座に非正規雇用の解雇や、取引先への支払遅延を行いました。結果、一時的にキャッシュは守れましたが、社員の信頼と社会的信用を失い、需要が回復した後も人が戻らず、倒産に追い込まれました。
  • 理念がある会社(人本主義・三方よし):「我々の理念は『従業員の幸せ』だ。雇用は死守する」と宣言し、役員報酬をカットしてでも現場を守りました。あるいは「取引先も運命共同体だ」と、苦しい中で支払いを継続しました。この姿勢が強固な信頼関係を生み、アフターコロナにおいて圧倒的な競争力となって返ってきました。

ケース2:事業転換(ピボット)のスピード

  • 理念がない会社(手段の目的化):例えば「美味しい料理を店で出すこと」だけを仕事だと思っていた飲食店は、営業自粛と共に機能不全に陥りました。「店を開けるか、閉めるか」の二択で悩み続け、時間を浪費しました。
  • 理念がある会社(目的の追求):「我々の使命は『食を通じて家庭に笑顔を届けること』だ」と定義していた会社は、「店が開けられないなら、別の方法で笑顔を届ければいい」と即座に発想を転換しました。キッチンカー、冷凍通販、レシピの公開。手段(How)に固執せず、目的(Why)のために柔軟に業態を変えることができたのです。これが「理念によるピボット」です。

強い理念がもたらす3つの「実利」

危機において理念が機能すると、精神論ではない具体的な「実利」が生まれます。不況に強い会社が共通して持っている3つの強みを紹介します。

1. 現場への「権限委譲」とスピード

有事の際、社長一人がすべての現場指示を出すことは不可能です。情報は錯綜し、状況は刻一刻と変わります。

理念(判断基準)が浸透している組織では、現場の社員が「理念に照らせば、今はお客様にこう対応すべきだ」と自律的に判断できます。いちいち上司の決裁を仰ぐ必要がないため、対応スピードが格段に上がります。この「現場の自走力」が、混乱期における企業の生命線となります。

2. 組織の「結束力」と火事場の馬鹿力

危機的状況では、給与カットや配置転換など、社員に痛みを伴うお願いをしなければならない場面もあります。

この時、「金(給料)」だけで繋がっていた組織は脆くも崩壊します。「条件が悪いなら辞めます」と、優秀な人から去っていきます。

しかし、「志(理念)」で繋がっていた組織は違います。「この苦難を乗り越えて、必ずビジョンを実現しよう」という求心力が働き、むしろ結束が強まります。

「会社を潰したくない」「この仲間とまだ働きたい」。この感情的なエネルギーが、平時にはあり得ないほどの「火事場の馬鹿力」を引き出し、イノベーションを生む原動力となります。

3. 顧客からの「応援消費」

不況下では、消費者は財布の紐を固くします。「必要なもの」しか買わなくなります。しかし、もう一つ例外的に財布を開く理由があります。それが「応援」です。

「あのお店は、苦しい時でも地域のために尽くしていた」

「あの会社の理念が好きだから、なくなってほしくない」

理念を一貫して体現し続けてきた企業には、必ずファンがいます。危機に瀕した時、ファンは「買い支え」という行動に出ます。理念経営は、平時のファン作りであると同時に、有事のセーフティネット(命綱)でもあるのです。

形を変えても、魂は変えない(事例から学ぶ)

ここで、実際に危機を理念で乗り越えた典型的なアプローチを紹介します。キーワードは**「不易流行(ふえきりゅうこう)」**です。

ある老舗のイベント会社の話です。

コロナ禍でイベントは全て中止。売上はゼロになりました。社員たちは絶望しましたが、社長は理念に立ち返りました。

彼らの理念は「イベントをやること」ではなく、「人と人を繋ぎ、感動を創造すること」でした。

社長は言いました。

「リアルで集まることは禁止されたが、人と人を繋ぐことが禁止されたわけではない。我々の使命を果たせる方法は他にないか?」

社員たちは必死に考え、オンラインイベントのプラットフォーム構築や、バーチャル空間での交流事業を立ち上げました。未経験の領域でしたが、「感動を創造する」という軸があったため、サービスの質は高く、またたく間に新規顧客を獲得しました。

結果として、彼らはコロナ前よりも利益率の高いビジネスモデルへと変貌を遂げました。「魂(理念)」を守るために、「形(事業内容)」を大胆に変えた好例です。

平時の今こそ、有事の「羅針盤」を磨け

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉があります。コロナ禍が落ち着き、日常が戻りつつある今、多くの企業が再び「売上至上主義」や「前例踏襲」に戻ろうとしています。

しかし、次の危機は必ずやってきます。それは新たなウイルスかもしれないし、戦争、金融危機、あるいはAIによる産業構造の激変かもしれません。予測不可能な未来において、唯一確実な準備。それが「理念の構築と浸透」です。

あなたの会社の理念は、絶体絶命のピンチにおいて、社員を奮い立たせる言葉になっていますか?

あなたの会社の理念は、売上がゼロになっても守り抜きたいと思える価値観ですか?

不況や危機に強い会社が理念を厚くするのは、それが「きれいごと」だからではありません。それが、荒波を乗り越え、企業を永続させるための最も合理的で、強靭な「生存戦略」であることを知っているからです。

平和な今こそ、錆びついたコンパスを磨き直す時です。次の嵐が来る前に、組織の芯となる理念を、誰よりも強く、厚く育てておくこと。それこそが、経営者が果たすべき最大のリスクマネジメントです。