「親が会社を経営していたが、自分は全く関わっておらず、事業を継ぐ気もない」
「会社の経営状態が悪そうで、株式を相続すると借金まで背負うのではないかと不安だ」
「他の財産は欲しいけれど、価値があるかどうかも分からない会社の株だけはいらない…」
親が会社を経営していた場合、このように悩む相続人の方は少なくありません。会社の経営に関わるつもりがなければ、非上場株式は持っていても意味がなく、むしろリスクですらあります。
では、この「いらない株式」だけを相続放棄することはできるのでしょうか?
結論から申し上げます。特定の財産(この場合は株式)だけを選んで相続放棄することは、法律上「できません」。
しかし、実質的に株式を相続せずに済ませる方法は存在します。この記事では、なぜ株式だけの放棄ができないのかという基本ルールから、株式を手放すための具体的な方法、そして安易な判断で後悔しないための注意点まで、網羅的に解説していきます。
まず知るべき大原則:株式だけを選んで放棄することは不可能
相続は「全財産セット」が基本ルール
日本の民法では、相続は「包括承継」という考え方が基本です。これは、亡くなった方(被相続人)が持っていた財産のすべてを、プラスの財産(預貯金、不動産、株式など)もマイナスの財産(借金、ローンなど)も、一つのパッケージとして丸ごと引き継ぐことを意味します。
「いらないものだけ捨てる」が通用しない理由
このルールがあるため、「預貯金や自宅不動産は相続するけれど、価値が不明な自社株や借金は相続しない」といった、相続人にとって都合の良い「つまみ食い」のような相続は認められていません。株式を相続したくないのであれば、原則として他のすべての財産も手放す覚悟が必要になるのです。
会社の株式を相続したくない場合に取れる3つの公式ルート
では、株式を相続したくない場合、具体的にどのような選択肢があるのでしょうか。大きく分けて3つの公式なルートが存在します。
ルート1:【全てを捨てる】相続放棄
文字通り、相続に関する一切の権利と義務を放棄する方法です。相続放棄をすれば、プラスの財産を一切受け取れない代わりに、親の会社の株式はもちろん、会社の負債や個人としての借金の返済義務からも完全に解放されます。あなたは法的に「初めから相続人ではなかった」ことになります。
ルート2:【プラスの範囲で相続】限定承認
「相続したプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産を引き継ぐ」という特殊な方法です。例えば、プラスの財産が合計3,000万円、マイナスの財産が5,000万円あった場合、3,000万円分だけ返済義務を負い、残りの2,000万円は支払う必要がありません。財産調査をしても負債額がはっきりしない場合に有効ですが、手続きが非常に複雑で、相続人全員で共同して行う必要があるため、実務上利用されるケースは稀です。
ルート3:【一度受け取り手放す】遺産分割協議と株式譲渡
相続自体は行う(単純承認する)ものの、その後の手続きで株式を手放す方法です。具体的には、相続人全員で行う「遺産分割協議」において、自分は株式を相続しない代わりに、他の相続人(事業を継ぐ兄弟など)から相応の代償金を受け取る、といった方法が考えられます。これが最も現実的な解決策となることが多いです。
【ルート1:相続放棄】完全撤退するための手続きと最大の注意点
会社の経営状況が悪く、明らかに債務超過である場合など、「相続放棄」は非常に有効な手段です。しかし、手続きには厳格なルールがあり、それを破ると取り返しのつかないことになります。
いつまでに?:自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内
相続放棄の意思決定と手続きには、「3ヶ月」という非常に短い期間制限(熟慮期間)があります。この期間内に、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」という手続きを行わなければなりません。
どこで?:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
手続きは、亡くなった親が最後に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所で行います。必要書類を揃えて申述書を提出し、それが受理されれば相続放棄が認められます。
絶対NG!:相続財産に手をつけると放棄できなくなる「法定単純承認」とは
3ヶ月の期限内に、絶対にやってはいけないことがあります。それは、相続財産の一部でも処分したり、使ってしまったりすることです。例えば、親の預貯金口座からお金を引き出して自分のために使ったり、不動産の名義を変更したりすると、相続する意思があるとみなされ(法定単純承認)、後から相続放棄ができなくなってしまいます。
見落としがちな罠:放棄すると、相続権が次の順位の人(叔父・叔母など)に移る
あなたが相続放棄をすると、あなたは「初めから相続人ではなかった」ことになります。その結果、法律で定められた次の順位の相続人に権利と義務が移ります。例えば、子供であるあなたが放棄すれば、親の親(祖父母)へ、祖父母も亡くなっていれば親の兄弟姉妹(あなたにとっての叔父・叔母)へと相続権がスライドしていくのです。親族に迷惑をかけないためにも、相続放棄をする際は、その旨を関係者に伝えておく配慮が必要です。
【ルート3:遺産分割協議と株式譲渡】最も現実的な解決策とその手順
親の会社に価値があり、自分以外の兄弟などが事業を継ぐ意思がある場合は、このルートが最も円満な解決につながります。
ステップ1:遺産分割協議で、株式を他の相続人(後継者)に相続してもらう
相続人全員で話し合い、「事業を継ぐ長男が株式をすべて相続する」といった内容の遺産分割協議を成立させ、その証として「遺産分割協議書」を作成します。
ステップ2:その代わりとして「代償金」を受け取る
長男が全株式を取得する代わりに、あなたは不公平にならないよう、その株式の価値に見合った現金(代償金)を長男から受け取ります。これにより、あなたは株式を相続することなく、公平な財産分与を受けることができます。
もし買い手がいなければ?:会社による自己株式取得や第三者へのM&A
他の相続人に買い取る資力がない場合、一度あなたが株式を相続した上で、会社自身に買い取ってもらう(自己株式の取得)という方法もあります。また、後継者がいない場合は、会社ごと第三者に売却(M&A)し、その売却代金を相続人間で分けるという選択肢も考えられます。
「相続放棄」を選ぶべきか?判断を誤らないための3つのチェックポイント
最終的に相続放棄という重大な決断を下す前に、最低でも以下の3点は必ず確認してください。
チェック1:会社は債務超過に陥っていないか?
税理士などの専門家に依頼し、会社の決算書を分析してもらいます。会社の資産よりも負債が明らかに多い「債務超過」の状態であれば、相続放棄が有力な選択肢となります。
チェック2:親の個人資産と負債のバランスはどうか?
会社の財産だけでなく、親個人の預貯金や不動産、そして住宅ローンなどの借入金をすべてリストアップし、トータルでプラスになるかマイナスになるかを正確に把握することが重要です。
チェック3:自分が会社の借入の「連帯保証人」になっていないか?
これが最大の盲点です。もしあなたが、親が会社の資金を借り入れる際に「連帯保証人」になっていた場合、相続放棄をしても、この連帯保証人としての返済義務はなくなりません。連帯保証契約は、相続とは全く別の個人としての契約だからです。この場合は相続放棄をしても意味がないため、他の解決策を模索する必要があります。
まとめ:株式の相続は「いらない」では済まない。正しい知識と専門家の判断が未来を救う
親の会社の株式相続は、「いる・いらない」という単純な感情で判断できる問題ではありません。「株式だけ放棄」はできず、その裏には相続全体の複雑なルールと、3ヶ月という厳しい時間制限が存在します。
安易に相続放棄を選んで価値ある財産を手放してしまったり、逆にリスクを知らずに相続して多額の負債を抱えてしまったりする前に、必ず立ち止まってください。
正しい判断を下すためには、財産状況の正確な調査と、法的なルールの深い理解が不可欠です。そして、そのためには専門家のサポートが絶対に必要だと断言できます。
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「3ヶ月の期限が迫っていて、どうすればいいか焦っている」
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