会社の相続において、後継者を最も苦しめる問題が、高額な「相続税」です。業績好調な会社ほど自社株の評価額は高くなり、後継者は到底払いきれないほどの相続税に直面することがあります。この税金問題が、事業承継を断念させ、黒字廃業へと追い込む最大の原因となってきました。
この絶望的な状況を打開するために創設された、まさに「切り札」とも言える制度が**「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例」、通称「事業承継税制」**です。
結論から言えば、この制度を正しく活用することで、後継者が負担するはずだった相続税が実質ゼロになる可能性があります。この記事では、この強力な制度の仕組みから、具体的な活用方法、そして注意すべき落とし穴まで、専門家の視点から分かりやすく完全解説します。
そもそも「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例」とは?
一言でいうと「会社の相続税の支払いを、実質チャラにしてくれる」制度
事業承継税制とは、後継者が先代経営者から相続によって会社の株式(非上場株式)を取得した際に、その株式にかかる相続税の納税が「猶予」され、一定の要件を満たすことで最終的にその納税が「免除」される制度です。
つまり、「本来払うべき相続税を、ひとまず待ってあげます。そして、あなたが経営を続けている限り、最終的には払わなくていいですよ」という、後継者にとっては夢のような制度なのです。
「一般措置」と「特例措置」の違い(特例措置が断然有利)
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類がありますが、現在、検討すべきは圧倒的に有利な「特例措置」です。特例措置は2018年度の税制改正で創設された時限的な制度で、以下のような大きなメリットがあります。
- 対象株式の上限なし: 相続した全ての自社株が対象となります。
- 納税猶予割合100%: 対象となる株式にかかる相続税の全額(100%)が猶予されます。
- 雇用確保要件の実質撤廃: かつては承継後5年間の雇用維持が厳しい要件でしたが、現在は大幅に緩和され、実質的に撤廃されています。
この特例措置を活用できるかどうかが、事業承継の成否を分けると言っても過言ではありません。
誰でも使えるわけじゃない!制度活用のための「3つのプレーヤー」のクリア条件
この強力な特例措置は、誰でも無条件に使えるわけではありません。「会社」「先代経営者」「後継者」という3者のそれぞれが、定められた要件をクリアする必要があります。
【会社】の条件
- 中小企業者であること。
- 上場会社、風俗営業会社でないこと。
- 資産管理会社(不動産や有価証券の保有がメインの会社)に該当しないこと。
【先代経営者(被相続人)】の条件
- 会社の代表者であったこと。
- 相続開始の直前に、会社の議決権の過半数を保有し、かつ、後継者と合わせて筆頭株主であったこと。
【後継者(相続人)】の条件
- 相続開始時に18歳以上であること。
- 相続の直前に会社の役員であり、相続開始から5ヶ月後に会社の代表者に就任すること。
これらの要件は一部の抜粋であり、実際にはさらに細かい規定があります。自社が対象となるかどうかは、必ず専門家にご確認ください。
【制度活用のロードマップ】相続発生前から承継後までの流れ
事業承継税制の活用は、相続が発生してから考えるのでは手遅れです。生前の準備から承継後の報告まで、長期にわたる計画的な取り組みが求められます。
第1フェーズ(生前):最重要!「特例承継計画」を都道府県に提出する
この制度を利用するための絶対的な第一歩が**「特例承継計画」**の策定と提出です。これは、「誰に、いつ、どのように事業を引き継ぐのか」という会社の事業承継計画書であり、都道府県の認定を受ける必要があります。
この**計画の提出期限は【2026年3月31日】**です。この期限を過ぎると、特例措置は二度と利用できません。会社の相続がまだ先の話だと思っていても、この計画だけは期限内に必ず提出しておく必要があります。まさに、特例措置活用のための「入場券」と言えるでしょう。
第2フェーズ(相続発生~申告):税務署へ申告し、納税を猶予してもらう
相続が発生したら、相続税の申告期限(相続開始後10ヶ月)内に、事業承継税制の適用を受ける旨を記載した申告書を税務署に提出します。この際、猶予される税額に見合う担保(相続した自社株や不動産など)を提供する必要があります。
第3フェーズ(承継後5年間):事業継続に関する報告義務
納税猶予が開始されてから5年間は、いわば「お試し期間」です。この間、後継者は会社の代表者であり続けるなど、一定の要件を維持し、毎年1回、都道府県と税務署に「ちゃんと事業を継続しています」という報告書(継続届出書)を提出する義務があります。
第4フェーズ(5年経過後):継続的な報告と「免除」への道
承継後5年が経過すれば、いくつかの厳しい要件(代表者の継続など)は緩和されます。しかし、納税が免除されるまでは、3年に1回の報告義務は続きます。
ゴールはどこ?「納税猶予」が「納税免除」に変わる2つの瞬間
長期間にわたって猶予されてきた相続税は、いつ、どのようにして「免除」されるのでしょうか。そのゴールとなる瞬間は、主に2つです。
ケース1:後継者が亡くなった場合
後継者が亡くなった時点で、猶予されていた相続税は全額免除されます。そして、その後継者の相続人が新たに事業承継税制を適用して事業を引き継ぐことも可能です。
ケース2:後継者が、次の世代へ事業承継税制を使って株式を贈与・相続した場合
後継者が引退し、次の世代の新たな後継者に、再び事業承継税制(贈与税または相続税)を使って株式を承継させた場合、先代から引き継いだ際に猶予されていた相続税は免除されます。こうして、税負担を次世代へ先送りし続けることが可能になります。
【落とし穴】たった一つのミスで全てが水の泡に!猶予打ち切りの恐怖
この制度で最も恐ろしいのが、納税猶予の「打ち切り」です。特定の事由に該当すると、猶予されていた相続税の全額と、高額な利子税を、一括で納付しなければならなくなります。まさに天国から地獄へ突き落とされる事態です。
主な打ち切り事由
- 承継した株式を売却・譲渡してしまった
- 後継者が代表者を辞めてしまった(承継後5年間)
- 会社が資産管理会社になってしまった
- 会社の事業を廃止した
- 毎年の報告(継続届出書)を怠った
ほんの少しの油断やミスが、会社の存続を揺るがす事態に直結します。だからこそ、制度の継続的な管理が不可欠なのです。
まとめ:事業承継税制は、計画性と専門家のナビゲートが成功のすべて
「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例」は、後継者を相続税の重圧から解放し、円滑な事業承継を可能にする、非常に強力で価値のある制度です。
しかし、その活用には、
1.2026年3月31日という厳格な期限がある「特例承継計画」の提出
2.複雑な要件の正確な理解
3.承継後の長期にわたる継続的な報告と管理
が不可欠です。
これらを経営者や後継者だけで完璧に実行するのは、極めて困難と言わざるを得ません。計画性と、制度に精通した専門家のナビゲートこそが、この制度を成功に導く唯一の道筋です。
制度の複雑さに挫折する前に、事業承継税制のプロ「株式会社勝継屋」へご相談を
「自社が制度の対象になるのか、正確に知りたい」
「特例承継計画の提出期限が迫っているが、何から手をつけていいか分からない」
「制度を利用した後の、長期的な管理が不安だ」
事業承継税制は、メリットが大きい分、その仕組みは複雑怪奇であり、長期にわたる管理を要する「諸刃の剣」でもあります。一つのボタンの掛け違いが、取り返しのつかない事態を招きかねません。
そんな複雑な制度の活用でお悩みなら、事業承継税制の申請から管理まで、豊富な実績を持つ専門家集団**「株式会社勝継屋」**にぜひご相談ください。
私たちは、貴社が制度の適用要件を満たすかどうかを的確に診断し、2026年3月31日の期限を見据えた「特例承継計画」の策定を強力にサポートいたします。さらに、制度適用後の煩雑な報告義務や継続管理まで、長期にわたって貴社に寄り添い、納税免除というゴールまで責任をもってナビゲートいたします。
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