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経営録

2025.08.03

株の相続税はいくらからかかるのか?|会社承継で知っておきたい大切なこと

「親から会社を継ぐことになったけど、自社株の相続税ってどれくらいかかるんだろう…」

「株の評価方法が複雑で、どうやって計算すればいいのか分からない」

中小企業の経営者の方や、これから会社の株式を相続することになった方にとって、自社株(非上場株式)の相続税は、会社の未来を左右する非常に大きな問題です。上場株式と異なり、自社株は市場で売買できないため、換金性が低く、多額の相続税が発生しても「納税資金がない」という事態に陥りやすいのが現実です。

しかし、「相続税って、そもそもいくらからかかるの?」という基本的な疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。相続税は、すべての相続財産にかかるわけではありません。国が定める**「基礎控除額」**という非課税枠があり、この金額を超えた場合に初めて相続税が課税されます。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者や、自社株の相続税の支払いに不安を感じている方に向けて、相続税がいくらからかかるのか、その基準となる「基礎控除額」の仕組み、株式の評価・計算方法、そして会社承継における税金の注意点を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社と事業を守り、円滑な事業承継を実現するための知識を、ぜひインプットしてください。

1. 相続税は「いくらから」かかるのか?非課税枠「基礎控除額」の仕組み

相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を、相続人や受遺者が受け取った場合に課される税金です。しかし、相続財産のすべてに税金がかかるわけではありません。

1-1. 相続税の「基礎控除額」とは?

相続税には、**「基礎控除額」**という非課税枠が設けられています。これは、「相続財産の総額がこの金額以下であれば相続税はかからない」という基準となる金額です。

相続財産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税は発生せず、原則として相続税の申告も不要です。

1-2. 基礎控除額の計算式

基礎控除額は、以下の計算式で算出されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

「法定相続人」とは、民法で定められた相続人のことです。亡くなった人に配偶者がいれば常に法定相続人となり、次に子、孫、父母、祖父母、兄弟姉妹の順で法定相続人となります。

【基礎控除額の早見表(例)】

法定相続人の数基礎控除額
1人(配偶者のみ、または子1人のみの場合など)3,600万円
2人(配偶者と子1人など)4,200万円
3人(配偶者と子2人など)4,800万円
4人(配偶者と子3人など)5,400万円
5人(配偶者と子4人など)6,000万円

このように、法定相続人の数が多いほど、基礎控除額も増えていきます。

1-3. 相続税がかかるかどうかの判断基準

相続税がかかるかどうかは、故人の残した「相続財産の総額(課税価格)」が、この「基礎控除額」を超えているかどうかで判断します。

  • 相続財産の総額 ≦ 基礎控除額 ⇒ 相続税はかからない(申告も不要な場合が多い)
  • 相続財産の総額 > 基礎控除額 ⇒ 相続税がかかる可能性がある(申告が必要)

ここでいう「相続財産の総額」には、現金、預貯金、不動産、有価証券(株式など)、そして自社株といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金といったマイナスの財産も考慮され、さらに死亡保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」も含まれます。

2. 株式の相続税評価方法:上場株式と非上場株式の違い

相続財産に株式が含まれる場合、その株式の「評価額」を正確に算定する必要があります。株式の評価方法は、その株式が「上場株式」か「非上場株式」かによって大きく異なります。

2-1. 上場株式の相続税評価方法

上場株式は、証券取引所で日々取引されているため、比較的評価が容易です。

  • 評価の原則: 以下の4つの株価のうち、最も低い価格に保有株式数を掛けて評価額を算出します。
    1. 相続があった日の終値(最終価格)
    2. 相続があった月の毎日の終値の月平均額
    3. 相続があった月の前月の毎日の終値の月平均額
    4. 相続があった月の前々月の毎日の終値の月平均額
  • メリット: 株価が日々変動するため、相続人に有利な(最も低い)株価を選べるようになっています。

2-2. 非上場株式(自社株)の相続税評価方法

中小企業が発行する**非上場株式(自社株)は、市場で取引されていないため「時価」がありません。そのため、相続税の申告では、国税庁が定める「財産評価基本通達」**に基づいて、複雑な評価方法で価値を算定します。

非上場株式の評価方法は、主に会社の規模や株主の状況によって、以下の3つの方式に分類されます。

  1. 類似業種比準方式: 評価対象会社と類似する業種の上場企業の株価(配当金額、利益金額、純資産価額)を参考に評価する方法。主に**規模の大きな非上場会社(大会社・中会社の一部)**に適用されます。会社の収益性が高いほど評価額が高くなります。
  2. 純資産価額方式: 会社が解散した場合に株主に分配される純資産の額を基に評価する方法。具体的には、会社の総資産を相続税評価額に直し、そこから負債などを差し引いて算出します。主に規模の小さな非上場会社(小会社)や、不動産保有会社などに適用されます。含み益のある不動産などを多く持つ会社は評価額が高くなる傾向があります。
  3. 配当還元方式: 株式を所有することで将来受け取るであろう配当金額を基に評価する方法。主に、その株式を取得しても会社の経営権に影響を与えない少数株主の評価に用いられ、他の方式よりも評価額が低くなる傾向があります。

どの評価方法が適用されるかは、会社の規模(総資産、従業員数、取引金額)や、株式を取得する株主が「同族株主」かどうか、取得後の議決権割合などによって複雑に判定されます。

非上場株式の評価は非常に専門的で複雑です。正確な評価額を知り、適切な相続税申告を行うためには、必ずM&Aや事業承継に詳しい税理士に依頼しましょう。

3. 株の相続税の計算方法と納税の注意点

株式の評価額が確定したら、相続財産全体の課税価格を算出し、相続税の計算へと進みます。

3-1. 相続税の計算の基本的な流れ

  1. 相続財産全体の課税価格を算出:すべての相続財産(現金、預貯金、不動産、株式の評価額など)の合計額から、借金などのマイナスの財産と葬式費用を差し引きます。
  2. 課税遺産総額の算出:上記で算出した相続財産全体の課税価格から、基礎控除額を差し引いた金額が「課税遺産総額」となります。
  3. 相続税の総額を算出:課税遺産総額を法定相続分で分配したと仮定し、それぞれの仮の取得額に相続税率(累進課税)を適用して、相続税の総額を計算します。
  4. 各相続人の実際の納税額を算出:相続税の総額を、実際の遺産分割割合に応じて各相続人に按分し、配偶者の税額軽減や未成年者控除などの各種税額控除を適用して、最終的な各相続人の納税額を算出します。

3-2. 相続税の税率(速算表)

相続税の税率は、課税遺産総額に応じて以下の速算表が用いられます。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%0万円
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

(※この税率は法定相続分で取得した場合の仮の税額計算に用いるものです。実際の納税額は個別の控除などを考慮します。)

3-3. 納税における注意点

  • 納税期限は10ヶ月以内: 相続税の申告と納税は、相続開始の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。この短期間で、複雑な自社株評価や遺産分割、納税資金の確保まで行うのは非常に大変です。
  • 納税資金の準備: 特に非上場株式は換金性が低いため、多額の相続税が発生しても、納税資金(現金)を別途用意できないという事態に陥りやすいです。

4. 会社承継で知っておきたい税金対策のあれこれ

自社株の相続税の負担を軽減し、「払えない」という事態を避けるためには、以下の対策を検討することが重要です。

4-1. 事業承継税制(特例措置)の活用(最優先で検討)

  • 納税猶予・免除の特例: 自社株にかかる相続税(贈与税)を100%猶予し、最終的に免除できる最も強力な制度です。これにより、後継者は納税資金の心配なく会社を継ぐことができます。
  • 相続発生後でも適用可能: 原則として「特例承継計画」の提出が必要ですが、相続発生後に手続きを急げば間に合う特例もあります。ただし、非常にタイトなスケジュールとなります。
  • 専門家必須: 複雑な要件や継続要件があるため、必ず税理士などの専門家と連携して進めましょう。

4-2. 自社株の評価額対策(株価対策)

生前から株価そのものを引き下げておくことで、将来の相続税・贈与税の負担を軽減できます。

  • 役員退職金の支給: 経営者への退職金を支給することで、会社の利益を圧縮し、株価評価の基準となる利益や純資産を減らすことができます。退職金は税制優遇が大きいため効果的です。
  • 配当の実施: 会社の内部留保を配当として株主に還元することで、株価を引き下げる効果が期待できます。
  • 不要資産の売却: 事業に直接関係のない遊休資産や含み益の大きい不動産などを売却し、会社の資産をスリム化することで、純資産価額方式による株価を下げられる場合があります。

4-3. 納税資金の計画的な準備

  • 生命保険の活用: 生命保険の死亡保険金は、一定額まで相続税の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)があります。この非課税枠を活用することで、納税資金を確保しつつ、相続税を軽減できる場合があります。
  • 現預金の確保: 相続発生後すぐに納税できるよう、相続財産に占める現預金の割合を高めておくことも重要です。

4-4. M&A(第三者への売却)の検討

親族承継が難しい場合や、納税資金の確保が最優先の場合、会社を外部の第三者に売却するM&Aも有力な選択肢です。現経営者はまとまった売却益を得て納税資金を確保できます。

5. まとめ:株の相続税は「基礎控除」を理解し、「早めの対策」が鍵

株の相続税は、特に非上場株式の場合、その評価や計算が複雑で、多額の税負担が発生する可能性があります。しかし、その基本となる「基礎控除額」を理解し、早期から計画的に対策を講じることで、税負担を最小限に抑え、円滑な会社承継を実現することは十分に可能です。

  • 相続税がかかるのは「基礎控除額」を超えた部分から。
    • 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
  • 株式評価は「上場」と「非上場」で大きく異なる。
    • 非上場株式の評価は複雑なため、必ず税理士に依頼が必要。
  • 納税期限は10ヶ月以内。 納税資金の準備が重要。
  • 最も強力な対策は「事業承継税制」の活用。
  • その他対策: 株価対策、生命保険活用、M&A検討など。

何よりも重要なのは、「相続が発生する前」、あるいは**「事業承継を検討し始めた段階」**から、税理士をはじめとするM&A・事業承継の専門家に相談することです。専門家は、あなたの会社の状況を正確に把握し、法的に有効かつ最も効果的な対策を提案してくれます。

早めにプロのサポートを得ることで、予期せぬ税負担に慌てることなく、あなたの大切な会社を、安心して次の世代へとバトンタッチできるでしょう。