「親から会社を継ぐことになったけど、株の名義変更って後回しでも大丈夫?」
「手続きが面倒だから、しばらくそのままにしておきたいんだけど、何か問題あるのかな?」
中小企業の事業承継において、親から子へ会社を譲り受ける際、最も重要な手続きの一つが**「株式の名義変更」**です。しかし、相続手続きの煩雑さや日々の業務に追われる中で、「名義変更は後でいいか」と安易に考えてしまうケースも少なくありません。
しかし、株式の名義変更を怠ると、後継者が会社を経営していく上で、あるいは将来的に会社を売却する際に、想像以上に大きなトラブルや不利益に直面する可能性があります。最悪の場合、会社の経営権が不安定になったり、多額の税金が発生したりするリスクも潜んでいます。
本記事では、親から会社を譲り受ける方に向けて、株式の名義変更をしない場合にどのような問題が起こるのか、そして円滑な事業承継のために知っておくべき注意点を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社と事業を守り、安心して経営に専念するための知識を、ぜひインプットしてください。
1. 株式の名義変更をしないとどうなる?起こりうる問題
株式の名義変更を怠ると、以下のような様々な問題が発生する可能性があります。
1-1. 株主としての権利が行使できない
最も直接的な問題は、株主としての権利が行使できないことです。
- 議決権の行使不可: 株主総会で議決権を行使し、役員の選任・解任、定款変更、重要な事業譲渡などの会社経営に関する意思決定に参加できません。形式的には故人が株主として扱われるため、後継者が実質的なオーナーであっても、会社法上の権利は認められません。
- 配当金の受領不可: 会社が配当を出す場合、その配当金は故人の名義で支払われることになります。故人の口座が凍結されている場合、配当金を受け取ることができません。
- 株主優待の受領不可: 株主優待がある場合も、故人名義のため受け取れません。
1-2. 会社の経営権が不安定になるリスク
名義変更をしないまま放置すると、会社の経営権が不安定になるリスクがあります。
- 株主の特定が困難: 故人の名義のままでは、実質的な株主が誰なのか外部から分かりにくくなります。これは、会社の信用問題にもつながりかねません。
- 他の相続人とのトラブル: 遺産分割協議が未了のまま名義変更を放置すると、後々他の相続人から「なぜ自分の名義になっていないのか」「勝手に経営を進めている」といった不満や異議申し立てが生じ、遺産分割をめぐる紛争に発展する可能性があります。
- 事業承継税制の適用不可: 後述しますが、事業承継税制の適用を受けるためには、原則として相続開始から10ヶ月以内に名義変更を含めた相続税申告を完了させる必要があります。名義変更をしないと、この重要な税制優遇が受けられなくなります。
1-3. 株式の売却や担保設定ができない
- 換金性の喪失: 株式を売却して納税資金を捻出したり、事業資金の担保にしたりすることができません。故人名義のままでは、証券会社も買い手も取引に応じません。
1-4. 税務上の問題が発生する可能性
- 相続税の申告・納税の遅延: 株式の名義変更は、相続税申告の前提となる手続きです。名義変更をしないまま放置すると、相続税の申告・納税が遅延し、延滞税や加算税といったペナルティが発生する可能性があります。
- 事業承継税制の適用外: 最も重要な問題の一つです。自社株の相続税を大幅に軽減できる事業承継税制(納税猶予・免除)は、名義変更を含めた厳格な要件と期限が定められています。これを怠ると、多額の相続税を全額支払うことになり、納税資金不足に陥るリスクが高まります。
1-5. 会社の信用問題につながる
- 金融機関からの評価: 金融機関が融資を検討する際、会社の株主構成や経営体制の安定性を重視します。名義変更がされていない状態では、経営体制が不透明と判断され、融資を受けにくくなる可能性があります。
- 取引先からの評価: 取引先も、会社の安定性を重視します。経営権が不安定な会社と取引することに躊躇する可能性も否定できません。
2. 親から会社を譲り受ける際の「名義変更の注意点」
これらの問題を避けるため、親から会社を譲り受ける際には、以下の点に特に注意して名義変更を進めましょう。
2-1. 早期に「遺言書」の有無を確認し、「相続人」を確定する
- 遺言書の確認: 故人が遺言書を残しているか、まずは確認しましょう。遺言書があれば、それに従って株式を相続できます。自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での「検認」が必要です。
- 相続人の確定: 遺言書がない場合、法定相続人が誰であるかを戸籍謄本等で確認し、確定させます。
2-2. 「遺産分割協議」を速やかに実施し、「遺産分割協議書」を作成する
- 相続人全員の合意: 遺言書がない場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、誰がどの株式を相続するかを決定します。
- 遺産分割協議書の作成: 合意内容を明記した「遺産分割協議書」を必ず作成し、相続人全員が署名・実印を押印します。これは、株式の名義変更だけでなく、相続税申告などあらゆる相続手続きの基本となる重要書類です。
2-3. 「自社株の評価」を正確に行う(税理士に依頼)
- 相続税額の把握: 自社株の評価額は、相続税額を計算する上で不可欠です。非上場株式の評価は非常に複雑なため、必ずM&Aや事業承継に詳しい税理士に依頼しましょう。
- 評価額の引き下げ対策: 生前から株価対策を行っていなかった場合でも、相続発生後の評価額を適切に計算し、納税資金を把握することが重要です。
2-4. 「事業承継税制」の適用を最優先で検討する
- 納税猶予・免除の特例: 自社株の相続税が払えない事態を回避する最も強力な手段です。相続開始の翌日から10ヶ月以内(相続税申告期限まで)に、必要書類を揃えて税務署へ申請する必要があります。
- 専門家への相談: 要件が複雑で、継続要件も厳しいため、必ず税理士などの専門家と連携して手続きを進めましょう。
2-5. 「会社の定款」で譲渡制限の有無を確認する
- 譲渡制限株式: 中小企業のほとんどの株式には「譲渡制限」が付いています。これは、株式の譲渡に会社の承認が必要という規定です。相続による取得であっても、名義変更には原則として会社の承認(取締役会決議など)が必要です。
- 手続きの確認: 定款を確認し、譲渡制限の有無と、承認手続きについて把握しましょう。
2-6. 専門家へ相談・依頼する
- 税理士: 自社株評価、相続税申告、事業承継税制の適用支援。
- 司法書士: 相続関係書類の収集、遺産分割協議書の作成、株式の名義変更手続きの助言・代行。
- 弁護士: 遺産分割協議が難航した場合の調停・交渉、譲渡制限株式の承認に関する法的助言。
これらの専門家と連携することで、手続きの漏れやミスを防ぎ、税務上のリスクを最小限に抑えながら、スムーズに株式の名義変更を完了させることができます。
3. まとめ:名義変更は「後回しにしない」が鉄則
親から会社を譲り受ける際、株式の名義変更は、単なる事務手続きではなく、会社の経営権の安定、将来の納税、そして他の相続人との関係性など、事業承継の成否を左右する極めて重要なプロセスです。
- 名義変更しないと: 議決権行使不可、配当受領不可、経営権不安定化、他の相続人とのトラブル、売却・担保設定不可、相続税のペナルティ、事業承継税制の適用外、会社の信用低下など、多くの問題が発生。
- 注意点: 遺言書の確認、相続人の確定、遺産分割協議書の作成、自社株評価、事業承継税制の検討、定款の確認。
- 最重要: 「後回しにしない」こと。そして、「専門家」に相談し、サポートを得ること。
「忙しいから」「面倒だから」といった理由で名義変更を放置することは、将来の大きなリスクにつながります。相続発生後、あるいは事業承継の検討を始めたら、できるだけ早く専門家に相談し、計画的に名義変更手続きを進めることが、あなたの大切な会社と事業を守り、次世代へと円滑に引き継ぐための最も賢明な選択と言えるでしょう。