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経営録

2025.07.20

家族ではない他人に事業承継する場合の10の注意点

「会社を継がせたいけど、子どもは別の道を選んだし、社内に適任者もいない…」

「長年育ててきた会社だから、誰かに引き継いでほしいけど、家族以外だと何に気を付ければいいんだろう?」

日本の中小企業経営者の多くが直面する**「後継者不足」**。この問題の解決策として、近年、**家族ではない他人に事業を承継する「第三者承継(M&A)」**が注目されています。これは、外部の企業や個人、あるいは社内の役員・従業員に会社や事業を任せる選択肢であり、事業の継続と発展、そして創業者のハッピーリタイアを実現する有効な手段となり得ます。

しかし、血縁関係のある家族への承継とは異なり、家族ではない他人に事業を託す場合には、特有の配慮や注意すべき点が数多く存在します。これらのポイントを見落としてしまうと、後々トラブルに発展したり、せっかくの承継がうまくいかなかったりするリスクもあります。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、家族ではない他人に事業承継を進める際に、特に注意すべき10のポイントを、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社を未来へつなぐために、この重要な情報をインプットし、安心して円滑なバトンタッチを実現するヒントとなれば幸いです。

1. なぜ家族ではない他人への承継(第三者承継)が増えているのか?

後継者不足が深刻化する日本において、家族ではない他人への承継、すなわちM&Aの件数が増加している背景には、以下のような要因があります。

  • 少子高齢化と核家族化: 事業を継ぐ親族(特に息子)がいない家庭が増加しています。
  • 若者の多様な価値観: 子どもが親の事業とは異なる分野でのキャリアを追求することを尊重する風潮が強まりました。
  • 経営者の引退意向: 経営者の高齢化が進み、早期の引退を考える方が増えています。
  • M&A市場の活性化: M&Aに対するネガティブなイメージが払拭され、中小企業が気軽にM&Aを検討できる環境が整ってきました。

このような背景から、家族ではない他人への承継は、もはや「最後の手段」ではなく、会社の未来を拓く**「戦略的な選択肢」**として定着しつつあります。

2. 家族ではない他人に事業承継する場合の10の注意点

それでは、具体的な注意点を一つずつ見ていきましょう。

注意点1:M&Aの「目的」と「希望条件」を明確にする

家族ではない他人に会社を譲る場合、まずは何のために承継するのか、承継によって何を達成したいのかを明確にすることが最も重要です。

  • 事業の継続、従業員の雇用維持、売却益の確保、創業者のハッピーリタイアなど、目的は多岐にわたります。
  • **譲れない条件(従業員の雇用形態、事業所の維持、会社名の存続など)**と、**譲歩できる条件(売却価格の幅、承継後の役職など)**を具体的にリストアップしておきましょう。目的や条件が曖昧だと、交渉の軸がぶれたり、後悔につながったりする可能性があります。

注意点2:会社の「強み」と「弱み」を客観的に把握し、磨き上げる

承継を検討する相手は、あなたの会社を客観的に評価します。

  • 事業内容、財務状況、組織体制、技術力、顧客基盤などを詳細に分析し、会社の魅力を最大限に引き出すための「磨き上げ」を行いましょう。
  • 不採算事業の整理や属人化している業務の標準化、DXの推進などは、買い手からの評価を高め、より良い条件での承継に繋がります。

注意点3:信頼できるM&A専門家を「早期」に選ぶ

家族ではない他人への承継、特にM&Aは、税務、法務、会計、交渉など多岐にわたる専門知識が必要です。

  • M&A仲介会社、M&Aアドバイザー、弁護士、税理士など、信頼できる専門家を早期に選び、パートナーとすることが成功の鍵です。
  • **複数の専門家から話を聞き、実績、料金体系、担当者の経験や相性などを徹底的に比較検討しましょう。**不透明な料金体系や、過剰な自信を見せる業者には注意が必要です。

注意点4:情報漏洩のリスクを徹底管理する

M&Aの検討は、会社の極めて機密性の高い情報を取り扱います。情報漏洩は、従業員の不安や取引先からの信用失墜に直結しかねません。

  • 信頼できる専門家と秘密保持契約(NDA)を締結し、情報の取り扱いについて厳しくルールを定めます。
  • 買い手候補に詳細情報を開示する際も、必ず事前にNDAを締結しましょう。
  • 従業員への開示は、M&Aがほぼ決まる最終段階まで行わないのが一般的です。

注意点5:企業価値を客観的に評価する

買い手候補との交渉の前に、自社の企業価値を客観的に把握しておくことが重要です。

  • 専門家による**企業価値評価(バリュエーション)**を行い、自社の適正な価値を把握しましょう。これにより、買い手からの提示価格が妥当かどうかを判断できます。
  • 売却価格だけでなく、従業員の雇用維持や事業の継続性など、非金銭的な条件も総合的に評価する視点を持つことが大切です。

注意点6:従業員への配慮と円滑なコミュニケーションを計画する

M&Aは、従業員にとって大きな不安要素です。「会社がどうなるのか」「自分の雇用は守られるのか」といった不安を抱かせないよう、細心の注意を払う必要があります。

  • 情報開示のタイミングと内容を慎重に検討します。一般的には、基本合意締結後など、M&Aの実現可能性が高まってから開示します。
  • 従業員の雇用継続や待遇について、買い手との間で明確な合意形成を図り、それを従業員に誠実に伝えることが重要です。
  • M&A後も、新旧経営者による丁寧なコミュニケーションを通じて、従業員の不安を払拭し、新たな体制へのスムーズな移行を促しましょう。

注意点7:税金と個人保証に関する対策を講じる

家族ではない他人に会社を譲る場合、税金や個人保証の取り扱いが大きく関わってきます。

  • 売却益にかかる税金: 株式譲渡であれば、譲渡益に対して約20%の所得税・住民税が発生します。税理士と相談し、事前に税額のシミュレーションを行いましょう。
  • 創業者の個人保証・担保の解除: M&Aが完了した後も、現経営者の会社に対する個人保証や提供した担保が残り続ける場合があります。これを**必ず解除してもらうよう、買い手との間で明確に合意形成し、実行の確約を取り付けましょう。**これは、創業者にとって非常に重要なポイントです。

注意点8:契約書の内容を徹底的に確認する

M&Aのプロセスで交わされる契約書は、法的拘束力を持つ非常に重要な書類です。

  • **秘密保持契約書、基本合意書、最終契約書(株式譲渡契約書など)**など、すべての契約書の内容を、必ず弁護士にレビューしてもらいましょう。
  • 特に、買収価格の支払い条件、表明保証(売り手が会社に関する情報が真実であることを保証する)や補償(表明保証違反時の賠償責任)の範囲、独占交渉権の有無と期間、契約解除に関する条項など、後々のトラブルに繋がりやすい箇所は厳しくチェックが必要です。

注意点9:創業者自身の「引き際」を明確にする

M&Aによって経営権を譲った後、創業者が会社にどう関わるかという「引き際」は、承継の成否に大きく影響します。

  • 顧問契約や役員としての残存: M&A後も一定期間、顧問や非常勤役員として会社に残り、円滑な移行をサポートする場合もあります。その際は、役割や報酬を明確に取り決めましょう。
  • 潔いバトンタッチ: 後継者が新たな経営者としてリーダーシップを発揮できるよう、過度な干渉を避け、最終的には潔く経営の第一線から退く覚悟を持つことが重要です。

注意点10:M&A後のPMI(統合プロセス)まで見据える

M&Aは、契約を締結して終わりではありません。承継後の統合プロセスである**PMI(Post Merger Integration)**がM&Aの成否を左右します。

  • 文化・風土の融合: 買い手企業と売り手企業の企業文化や社内ルールの違いを理解し、円滑に融合させるためのコミュニケーションや調整が必要です。
  • 新旧経営者と従業員の連携: 新社長と旧経営陣、従業員が協力し、新たな体制で事業を成長させていけるよう、創業者も必要に応じてアドバイスを行うなど、支援を惜しまない姿勢が大切です。

3. まとめ:家族ではない他人への承継は「計画とプロの知恵」で成功へ

家族ではない他人に事業承継を進める「第三者承継」は、後継者不足という現代の課題に対する強力な解決策であり、会社の新たな成長や創業者のハッピーリタイアを実現する大きなチャンスです。しかし、そのプロセスには、家族への承継とは異なる複雑さと、注意すべき点が数多く存在します。

  • 目的・条件の明確化と会社の磨き上げ: 承継の軸を明確にし、会社の魅力を最大限に高める。
  • 専門家の活用と情報管理: M&Aアドバイザー、弁護士、税理士など、信頼できるプロをパートナーとし、情報漏洩リスクを徹底管理する。
  • 従業員への配慮と丁寧なコミュニケーション: 従業員の不安を解消し、M&A後のスムーズな移行を促す。
  • 税金・個人保証の対策と契約書の確認: 自身の退職後の生活を守るため、これらを徹底的にクリアにする。
  • 創業者の「引き際」とPMIへの視点: 承継後まで見据えた計画を立て、円滑なバトンタッチを目指す。

これらの注意点を深く理解し、早期から計画的に準備を進め、M&Aの専門家と綿密に連携することで、あなたの会社は、信頼できる新たなパートナーと共に、未来へと力強く歩みを進めることができるでしょう。家族ではない他人に会社を託すことは、勇気のいる決断ですが、それは決してネガティブな選択ではありません。あなたの会社を、最も良い形で次世代へとつなぐための、戦略的な一歩となるはずです。