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経営録

2025.07.18

非同族社長への会社承継方法|第三者承継の手順や注意点を徹底解説

「会社の役員や従業員に、未来を託せる人材はいる。でも、親族じゃないからどうやって会社を継がせればいいんだろう?」

「非同族の社長にバトンタッチする際、税金や手続きで注意すべきことはあるの?」

日本の中小企業経営者の多くが後継者不足に頭を悩ませる中、親族以外に会社を承継する**「非同族承継」**が注目を集めています。特に、長年会社を支えてきた優秀な役員や従業員(いわゆる「番頭さん」)に経営を任せたいと考える経営者は少なくありません。しかし、親族間での承継とは異なり、非同族への承継には特有の手順や税務・法務上の注意点が存在します。

この非同族社長への承継は、広義の「第三者承継」の一種であり、社内の人材に会社を引き継いでもらうという意味では**「MBO(マネジメント・バイアウト)」**と呼ばれる手法が中心となります。これにより、会社の理念や文化を深く理解した人材に経営を任せることができ、従業員の安心感も高まるという大きなメリットがあります。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、非同族社長(役員・従業員)への会社承継の具体的な進め方、MBOの仕組み、そして各ステップで注意すべきポイントを、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社を、信頼する非同族の番頭さんへと円滑にバトンタッチしたいと願う経営者の方に、実践的なヒントを提供できれば幸いです。

1. なぜ「非同族社長への承継(MBO)」が注目されるのか?

後継者不在の解決策として、M&A(第三者への会社売却)も有力ですが、非同族社長への承継、特にMBOには独自のメリットがあります。

1-1. 会社の理念・文化の維持と従業員の安心感

長年社内で働いてきた役員や従業員は、会社の歴史、経営理念、企業文化を深く理解し、体現しています。彼らに承継することで、**事業の連続性が保たれ、企業文化が維持されやすくなります。**これは、外部の買い手(M&A)では得られにくい大きなメリットであり、従業員にとっても「見知らぬ人」ではなく「顔の見える上司」が社長になることで、雇用や働き方に対する安心感が格段に高まります。

1-2. 事業のノウハウ・顧客基盤の円滑な引継ぎ

非同族の社長候補は、すでに事業の中核を担っていることが多く、日々の業務や顧客との関係性を熟知しています。そのため、事業のノウハウや顧客基盤の引き継ぎがスムーズに進み、承継後の経営リスクを低減できます。

1-3. 創業者にとっても望ましい選択肢

「育てた会社を、よく知っている社員に託したい」と考える創業者は少なくありません。MBOは、創業者のこの想いを実現し、引退後も安心して会社の発展を見守れるという点で、心理的な満足度が高い選択肢となります。

2. 非同族社長への会社承継の具体的な進め方(MBOが中心)

非同族社長への承継は、基本的に**MBO(Management Buy-Out:マネジメント・バイアウト)**という手法が中心となります。これは、現経営者や株主から、会社の役員や従業員が自社株式を買い取る形で経営権を取得するものです。

MBOのプロセスは、M&Aの一種であるため、第三者承継(M&A)の一般的な手順と類似していますが、内部の人間が買い手であるため、特有の配慮や進め方が必要になります。

ステップ1:後継者候補の選定と育成計画

MBOの成否を分ける最も重要なステップです。

  • 候補者の選定と意思確認:経営者としての資質(リーダーシップ、判断力、問題解決能力など)、事業への熱意、周囲からの信頼度などを総合的に評価し、最適な候補者を選定します。選定後、本人と真摯に対話し、社長就任への意欲と覚悟があるかを確認します。
  • 経営者育成プログラムの策定:選定した候補者に対し、経営に必要な知識(財務、法務、マーケティングなど)やスキル(交渉、人材マネジメントなど)を習得させるための具体的な育成計画を立てます。社内OJT、外部研修、経営者交流会への参加などを組み合わせ、計画的かつ長期間にわたって育成を行います。
  • 権限委譲の開始:早期から経営会議に参加させたり、特定の部門や新規事業の責任者を任せたりするなど、段階的に権限を委譲し、経営者としての経験を積ませます。創業者自身も「バトンを渡す」覚悟を持ち、過度な干渉を避け、見守る姿勢が重要です。

ステップ2:MBOスキームの検討と資金調達計画

MBOの最大の特徴であり、難関となるのが「資金調達」です。

  • 企業価値評価(バリュエーション):自社株の売却価格の目安を算定するため、客観的な企業価値評価を行います。この際、売り手(現経営者)と買い手(後継者)双方にとって公平な評価を行うためにも、M&A専門家や税理士の介入が望ましいです。
  • MBOの資金調達方法の検討:後継者個人が自社株すべてを買い取る資金を持つことは稀なため、以下の方法を組み合わせることが一般的です。
    • 金融機関からの融資: 後継者個人や、MBOのために設立する新会社(SPC:特別目的会社)が、金融機関から融資を受ける。
    • M&Aファンド・投資会社からの出資: 後継者と共同で出資し、経営を支援する投資ファンドの活用も検討。
    • 創業者の支援: 売却代金を一括ではなく分割で支払う(オーナーローン)、あるいは一部を贈与・相続として引き継ぐ(事業承継税制の活用)など、創業者が資金面でサポートする。
  • 事業承継税制の活用検討:非同族社長への承継でも、法人版事業承継税制の特例措置を利用できる可能性があります。後継者が従業員である場合でも、要件を満たせば自社株の贈与税・相続税の納税猶予・免除が受けられます。これにより、後継者の資金負担を大幅に軽減できるため、必ず税理士と相談し、適用可能性と手続きを確認しましょう。

ステップ3:基本合意とデューデリジェンス(DD)

MBOとはいえ、会社を「買う」プロセスであるため、詳細な調査が必要です。

  • 基本合意書の締結:現経営者と後継者(またはMBOのための新会社)の間で、MBOの基本的な条件(対象株式数、買収価格の目安、資金調達の方向性、スケジュールなど)を記載した基本合意書を締結します。
  • デューデリジェンス(DD)の実施:後継者が会社を承継した後で思わぬリスクに直面しないよう、外部の専門家(会計士、弁護士、税理士など)を起用し、対象会社の事業、財務、法務、税務、人事などを詳細に調査します。これにより、簿外債務や訴訟リスクなど、隠れたリスクがないかを徹底的に確認します。現経営者側も、求められた資料を誠実に開示することが信頼関係を維持する上で重要です。

ステップ4:最終契約書の締結とクロージング

MBOの最終的な合意形成と実行の段階です。

  • 最終条件交渉:DDの結果を踏まえ、最終的な株式の売買価格、支払い条件、表明保証(売主が会社の情報が真実であることを保証する)の内容、MBO後の経営体制など、詳細な条件を交渉し、合意形成を図ります。
  • 最終契約書の締結:株式譲渡契約書など、MBOの全ての条件が明記された最終契約書を締結します。この契約書は法的拘束力を持つため、必ず弁護士によるリーガルチェックを受けるようにしましょう。
  • クロージング:契約書に基づき、株式の引渡しと買収代金の決済、代表取締役の変更登記など、MBOを完了するための最終手続きを行います。

ステップ5:PMI(Post Management Buy-out Integration)

MBOは経営権の移行であるため、承継後の組織運営が非常に重要です。

  • 円滑な権限移行:創業者から新社長への権限移行をスムーズに行い、従業員が新体制を自然に受け入れられるよう配慮します。創業者が会長や顧問として、しばらくサポートすることも有効です。
  • 理念の再共有と浸透:非同族社長が就任する際、改めて会社の理念やビジョンを全従業員と共有し、新体制での具体的な行動指針を示します。
  • 組織体制の刷新とコミュニケーション:必要に応じて組織体制の見直しを行い、新社長と従業員、各部署間のコミュニケーションを強化するための仕組みを構築します。

3. 非同族社長への承継における特に重要な注意点

非同族社長への承継では、特に以下の点に注意が必要です。

3-1. 資金調達の課題と創業者の支援のあり方

  • 後継者の資金力: 親族と異なり、後継者個人に多額の資金がないことがほとんどです。金融機関からの融資、外部ファンドの活用、そして創業者の「オーナーローン」など、複数の資金調達手段を検討し、最適な組み合わせを見つける必要があります。
  • オーナーローンのリスクと税務: 創業者によるオーナーローンは後継者の負担を軽減できますが、創業者側から見ると回収リスクや税務上の論点(貸付利息、回収不能時の処理など)が生じます。税理士と弁護士に相談し、適切な契約を締結しましょう。
  • 事業承継税制の活用: 従業員への承継でも適用可能な事業承継税制は、資金面での大きな助けとなります。要件を十分に理解し、活用を検討してください。

3-2. 社内外への丁寧な説明と情報開示

  • 従業員への配慮: 外部からの買収とは異なり、社内の人間が社長になるMBOは、従業員に安心感を与えやすいですが、それでも「なぜMBOなのか」「今後の会社の方向性は」といった不安はつきものです。適切なタイミングで、丁寧かつ誠実に説明を行い、従業員の理解と協力を得ることが重要です。
  • 取引先への信頼維持: 取引先に対しても、新体制への移行を丁寧に伝え、今後も変わらぬ関係性を築けるよう配慮が必要です。新社長が直接挨拶に回るなど、信頼維持に努めましょう。

3-3. 創業者自身の「引き際」と後継者への信頼

  • 潔いバトンタッチ: 承継後、創業者があまりに長く経営に関与しすぎると、後継者のリーダーシップが十分に発揮されない可能性があります。新社長が経営に専念できるよう、創業者は潔く経営の第一線から退く覚悟を持つことが重要です。
  • 信頼と見守り: 後継者を信頼し、成長を見守る姿勢が大切です。必要に応じて助言はするものの、過度な干渉は避け、新社長が自分の経営スタイルを確立できるようサポートしましょう。

4. まとめ:非同族社長への承継は、信頼と計画が鍵

非同族社長、すなわち会社の役員や従業員に事業を承継することは、後継者不足に悩む経営者にとって、会社を未来へつなぐ非常に魅力的な選択肢です。特に、会社の理念や文化を深く理解した人材にバトンタッチできる点で、M&A(第三者への会社売却)とは異なる大きなメリットがあります。

  • メリット: 理念・文化の維持、従業員の安心感、ノウハウの円滑な引継ぎ、創業者の想いの実現。
  • 主な手法: MBO(マネジメント・バイアウト)が中心。
  • プロセス: 候補者選定・育成 → スキーム検討・資金調達 → 基本合意・DD → 最終契約・クロージング → PMI。
  • 重要ポイント: 資金調達の課題(金融機関、ファンド、創業者支援)、事業承継税制の活用、丁寧な情報開示、創業者自身の潔い引き際と後継者への信頼。

MBOは、資金調達や複雑な手続きが伴うため、M&Aアドバイザー、税理士、弁護士などの専門家との綿密な連携が不可欠です。彼らのサポートを得ながら、信頼する非同族の番頭さんへと力強くバトンを渡し、会社の新たな歴史を刻んでいきましょう。