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経営録

2025.07.17

第三者承継の具体的な進め方について

「親族にも社員にも、会社を継ぐ人が見つからない…」
「でも、長年育ててきた会社を自分の代で終わらせたくない」

日本の中小企業が直面する「後継者不足問題」は深刻さを増す一方です。親族内承継や社内承継が難しい場合、「廃業しかないのか…」と諦めかけてしまう経営者も少なくありません。しかし、そのような状況を打開し、事業と雇用を守り、会社の未来を切り拓く有力な選択肢として、近年注目されているのが**「第三者承継(M&A)」**です。

第三者承継とは、親族や社内の従業員ではなく、外部の企業や個人に会社や事業を引き継いでもらうことを指します。これにより、後継者問題を根本的に解決できるだけでなく、売却益を得て創業者のハッピーリタイアを実現したり、買い手の経営資源(資金、ノウハウ、人材など)を活用して事業をさらに発展させたりする可能性も生まれます。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、第三者承継を具体的にどのように進めていくのか、そのプロセスと各ステップで押さえるべきポイントを、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社を未来へつなぐために、第三者承継という選択肢を真剣に検討する際の具体的なヒントとなれば幸いです。

1. なぜ今、第三者承継(M&A)が注目されるのか?

かつて「身売り」といったネガティブなイメージを持たれることもあったM&Aですが、今は「戦略的アライアンス」として、ポジティブなイメージが広がりつつあります。

1-1. 後継者不足の最終的な解決策として

親族にも社内にも後継者がいない場合、事業の継続は極めて困難になります。第三者承継は、外部に広く承継先を求めることで、後継者不在問題を根本的に解決できる最も現実的な手段です。

1-2. 会社の新たな成長戦略として

買い手となる企業は、特定の目的を持ってM&Aを行います。それは、自社の事業拡大、新規事業への参入、技術・人材の獲得、地域進出など様々です。売り手側も、買い手の持つ経営資源(資金力、販売チャネル、技術、人材)を活用することで、単独では難しかった事業の発展や成長を実現できる可能性があります。

1-3. 創業者のハッピーリタイアの実現

会社を売却することで、創業者は事業の継続に目処を立てた上で、まとまった売却益を手にすることができます。これにより、引退後の生活資金の確保や、新たな人生設計の実現が可能になります。個人保証の解除や、相続税対策にも繋がり得ます。

2. 第三者承継の具体的な進め方:M&Aプロセスの7つのステップ

第三者承継は、一般的にM&Aアドバイザーなどの専門家の支援を受けながら、以下のステップで進められます。

ステップ1:M&Aの検討・準備と専門家との契約

M&Aは長期戦であり、専門知識が必須です。まずはこの第一歩を慎重に進めましょう。

  • M&Aの目的・意向の明確化:「なぜM&Aをするのか?(後継者問題、事業拡大、ハッピーリタイアなど)」「M&Aによって何を達成したいのか?(事業の継続、従業員の雇用維持、売却益の確保、買い手の条件など)」といった目的や希望条件を明確にします。
  • 自社の現状分析と磨き上げ:財務状況、事業内容、組織体制、強み・弱みなどを客観的に分析します。買い手にとって魅力的な会社にするために、不採算事業の整理や業務の効率化など、「磨き上げ」ができる点がないか検討します。
  • M&A専門家への相談と契約:M&Aは税務・法務・会計など多岐にわたる専門知識が必要です。M&A仲介会社、M&Aアドバイザー、金融機関など、信頼できる専門家を選び、相談・契約をします。この際、複数の専門家から話を聞き、実績、料金体系、担当者の相性などを比較検討することが重要です。秘密保持契約(NDA)を締結し、自社の情報が外部に漏れないよう注意しましょう。

ステップ2:企業価値評価(バリュエーション)と条件設定

自社の価値を客観的に把握し、譲渡条件の目安を設定します。

  • 企業価値の算定:専門家が、類似企業の事例や、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)、純資産法、収益還元法など、複数の評価手法を用いて客観的な企業価値を算定します。これはあくまで目安であり、最終的な売却価格は交渉によって決まります。
  • 譲渡条件のすり合わせ:希望する売却価格の範囲、従業員の雇用継続、役員の処遇、事業所の維持、M&Aのスキーム(株式譲渡、事業譲渡など)について、専門家と詳細にすり合わせを行います。この段階で、「譲れない条件」と「譲歩できる条件」を明確にしておくと、その後の交渉がスムーズに進みます。

ステップ3:買い手候補の探索とノンネームシートの作成

水面下で買い手候補を探し、アプローチを開始します。

  • ノンネームシートの作成:会社名が特定できないように、業界、事業内容、売上高、利益などの概略情報のみを記載した「ノンネームシート」を作成します。これにより、情報漏洩のリスクを抑えつつ、多くの潜在的な買い手候補にアプローチできます。
  • 買い手候補の選定と打診:M&A専門家のネットワークやM&Aマッチングプラットフォームなどを活用し、ノンネームシートに基づいて買い手候補を探索します。候補が絞られたら、専門家を通じてノンネームで打診を行います。
  • 秘密保持契約(NDA)の締結:ノンネームシートに興味を持った買い手候補には、機密性の高い詳細情報を開示する前に、必ず秘密保持契約(NDA)を締結します。

ステップ4:トップ面談と基本合意書の締結

具体的な交渉へと進み、M&Aの方向性を確認します。

  • 企業概要書の開示:NDAを締結した買い手候補には、会社の実名や詳細な事業内容、財務情報などを記載した「企業概要書(インフォメーションメモランダム)」を開示します。
  • トップ面談:買い手候補が詳細情報に興味を持ったら、売り手企業の経営者と買い手企業の経営者による「トップ面談」を行います。この場で、お互いの経営理念やビジョン、M&Aへの想いなどを直接話し合い、お互いの相性や信頼関係を築くことが非常に重要です。
  • 意向表明書・基本合意書の締結:トップ面談後、買い手候補がM&Aを進める意向を示す「意向表明書」を提出します。その内容をもとに、売り手と買い手の間で、現時点でのM&Aの基本的な合意事項(買収価格の目安、M&Aスキーム、独占交渉権の付与期間など)を記載した**「基本合意書」**を締結します。この段階では法的拘束力のない項目も多いですが、今後のプロセスを進める上での重要な一里塚となります。

ステップ5:デューデリジェンス(DD)の実施

買い手が売り手企業を詳細に調査する、最も重要なプロセスの一つです。

  • デューデリジェンスの目的:基本合意書に基づき、買い手は自社(または外部の専門家)を使い、売り手企業の事業、財務、法務、税務、人事、ITなど、あらゆる側面を詳細に調査します。これは、売り手企業に潜むリスク(簿外債務、訴訟リスクなど)や、企業価値の再評価を行うために不可欠な作業です。
  • 売り手側の協力:売り手企業は、買い手から求められた資料(財務諸表、契約書、組織図など)を正確かつ迅速に提供し、質問に誠実に答える必要があります。この段階での不誠実な対応は、買い手の不信感を招き、M&Aが破談になる原因となり得ます。
  • 最終的な価格・条件の調整:DDの結果、当初想定していなかったリスクや問題点が発見された場合、買収価格の減額交渉や、契約条件の見直しが行われることがあります。

ステップ6:最終契約書(株式譲渡契約書等)の締結

DDを経て、全ての条件に合意できれば、いよいよ最終契約です。

  • 最終交渉と条件調整:DDの結果を踏まえ、売却価格、M&Aスキーム、表明保証・補償の内容、役員・従業員の処遇、今後の経営体制など、M&Aの最終的な条件を交渉し、合意形成を図ります。
  • 最終契約書の締結:売買の対象となる株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などを締結します。この契約書は法的拘束力を持ち、M&Aの全ての条件が詳細に記載されます。弁護士などの専門家によるリーガルチェックは必須です。

ステップ7:クロージング(M&Aの実行)

最終契約書に基づいて、M&Aを実際に実行します。

  • 株式の引き渡しと代金の決済:買い手から売り手(株主)へ買収代金が支払われ、売り手から買い手へ株式が引き渡されます。
  • 登記変更など:代表取締役の変更登記、事業用資産の名義変更登記など、M&Aのスキームに応じて必要な手続きを行います。
  • PMI(Post Merger Integration)の開始:M&Aの完了後、買い手と売り手の組織・事業・システム・文化などを統合するプロセス(PMI)が始まります。M&Aの成功は、このPMIが円滑に進むかどうかにかかっています。創業者も、必要であればM&A後の顧問契約などでPMIに協力することが、事業の安定と従業員の安心に繋がります。

4. 第三者承継を成功させるためのポイント

第三者承継のプロセスは複雑ですが、以下のポイントを押さえることで成功確率を高めることができます。

  • M&Aの目的を明確にする: 「何のためにM&Aをするのか」という軸がブレなければ、最適な相手を見つけ、交渉を有利に進めることができます。
  • 早期の準備と情報開示: 会社の財務状況や事業内容を正確に把握し、開示可能な情報を整理しておくことで、DDをスムーズに進められます。
  • 専門家を信頼し、徹底的に活用する: M&Aアドバイザー、税理士、弁護士など、各分野の専門家との連携は不可欠です。費用を惜しまず、彼らの知見を最大限に活用しましょう。
  • 従業員への配慮: M&Aは従業員にとって大きな不安材料となります。情報開示のタイミングや内容を慎重に検討し、雇用や待遇について誠実に対応することが重要です。
  • 「相性」を重視する: 売却価格だけでなく、買い手企業の経営理念や企業文化が自社と合うかどうかも非常に重要です。M&A後の事業継続、従業員のモチベーションに大きく影響します。
  • 焦らない姿勢: 最適な相手や条件が見つかるまで、焦らずに交渉を進める姿勢が大切です。

5. まとめ:第三者承継は、未来を拓く「戦略的選択」

後継者不足に悩む中小企業の経営者にとって、第三者承継(M&A)は、事業の継続、雇用の維持、そして創業者のハッピーリタイアを実現するための強力な解決策です。もはや「最後の手段」ではなく、「未来を拓く戦略的選択」として捉えるべきでしょう。

  • M&Aの7つのステップ: 検討・準備からクロージングまで、各段階で慎重かつ計画的に進める。
  • 専門家の活用: 複雑なプロセスを乗り切るために、M&Aアドバイザー、税理士、弁護士などの専門家は不可欠。
  • 目的の明確化と相性: 価格だけでなく、会社の未来や従業員のことを考え、理念や文化の合う買い手を探す。
  • 情報開示と誠実な対応: DDに協力し、正確な情報を提供することで信頼関係を築く。

第三者承継は、決して簡単な道のりではありません。しかし、適切な準備と信頼できる専門家のサポートがあれば、あなたの会社は新たなパートナーと共に、さらに大きく発展する可能性を秘めています。後継者問題で諦める前に、ぜひ第三者承継という選択肢を真剣に検討してみてください。