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経営録

2025.07.11

事業承継税制にデメリットはあるのか?

「事業承継税制を使えば、自社株の税金がタダになるって聞いたけど、本当にそんなうまい話があるのかな?」

「もしデメリットがあるなら、事前にしっかり知っておきたい」

M&Aや事業承継を検討している多くの経営者が、自社株の引き継ぎにかかる相続税や贈与税の重い負担に頭を悩ませています。そんな中で、国が設けている「事業承継税制」は、その税負担を大幅に軽減できる画期的な制度として注目を集めています。特に、近年要件が緩和された「特例措置」の登場により、利用を検討する企業が増えました。

確かに、事業承継税制は税負担の軽減という強力なメリットを持っています。しかし、どんな制度にも光と影があるように、事業承継税制にも知っておくべきデメリットや注意点が確実に存在します。これらのデメリットを軽視してしまうと、将来的に予期せぬトラブルや追加の負担が発生し、制度を利用したことを後悔する可能性もゼロではありません。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、事業承継税制の**「影の部分」であるデメリットや、利用する上で注意すべきポイント**を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。メリットだけでなくデメリットも深く理解することで、自社にとって本当に最適な事業承継の道を判断する一助となれば幸いです。

1. 事業承継税制の「強力なメリット」を再確認

デメリットを理解する前に、まずは事業承継税制(特に法人版・特例措置)が持つ強力なメリットを改めて確認しておきましょう。これこそが、多くの経営者がこの制度に魅力を感じる理由だからです。

  • 贈与税・相続税100%の納税猶予(最終的に免除): 通常、数千万~億単位になることもある自社株の承継税額が、全額猶予され、将来的には免除される可能性がある点が最大の魅力です。これにより、後継者は納税資金の確保に奔走することなく、経営に専念できます。
  • 全株式が対象: 発行済株式のすべてが納税猶予の対象となり、親族外の後継者(従業員など)も利用可能です。
  • 雇用要件の柔軟化: 承継後5年間の雇用維持要件(平均8割維持)が、やむを得ない事情があれば猶予が継続できるなど、実質的に緩和されました。
  • 売却・廃業時の減免: 将来、M&Aや廃業によって猶予対象の株式を売却・処分する場合でも、その時の株価が下落していれば、猶予されていた税額が減免される可能性があります。

これらのメリットは非常に大きいため、一見すると「完璧な制度」に見えるかもしれません。しかし、その裏には、制度を利用するがゆえのデメリットや制約も存在します。

2. 事業承継税制の主なデメリットと注意点

事業承継税制の適用を受けることには、以下のようなデメリットや、利用後に注意すべきリスクがあります。

デメリット1:納税猶予が「取り消し」になるリスクがある

最も注意すべき点が、一度適用された納税猶予が、将来的な状況変化によって取り消される可能性があることです。猶予が取り消されると、その時点で猶予されていた税金全額に加えて、**多額の利子税(利息)も一括で支払わなければなりません。**これは、後継者にとって非常に大きな財務的負担となり得ます。

  • 主な取消事由の例:
    • 後継者が代表権を喪失した場合: 後継者が会社の代表権(代表取締役など)を失った場合、原則として納税猶予が取り消されます。
    • 後継者が株式を売却・譲渡した場合: 納税猶予の対象となっている株式を、後継者が第三者に売却したり、贈与したりした場合も原則として取り消しとなります。
    • 会社が廃業・解散した場合: 事業を継続しないと判断された場合、猶予は取り消されます。
    • 会社が資産管理会社等に該当した場合: 事業承継税制は「事業を行う会社」を対象としているため、不動産や有価証券などの資産保有割合が高い「資産管理会社」に該当すると、猶予が取り消されます。事業内容や資産構成の変化には注意が必要です。
    • 報告義務を怠った場合: 納税猶予を受け続けるためには、承継後も毎年、都道府県や税務署に対し、事業の継続状況や雇用状況などを報告する義務があります。この報告を怠ると、猶予が取り消されてしまいます。

これらのリスクを回避するためには、承継後も継続的に要件を満たしているかを厳しくチェックし、適切な管理を行う必要があります。

デメリット2:適用要件が複雑で、手続きに多大な手間と費用がかかる

事業承継税制の適用を受けるためには、非常に複雑で多岐にわたる要件を満たし、煩雑な手続きを正確に進める必要があります。

  • 「特例承継計画」の策定と提出:特例措置の適用を受けるには、まず都道府県に「特例承継計画」を提出し、認定を受ける必要があります。この計画書は、会社の現状や後継者の育成計画、事業の将来性などを詳細に記載する必要があり、作成には専門知識と時間が必要です。
  • 複数の機関との連携:都道府県、税務署、そして「認定経営革新等支援機関(認定支援機関)」との連携が必須となります。特に認定支援機関とは、計画策定から実行、さらには猶予期間中の継続的な指導助言を受ける関係になるため、信頼できる相手選びが重要です。
  • 専門家への費用:複雑な要件の確認、計画書の作成、税務申告、継続的な報告など、一連の手続きには税理士、行政書士、弁護士などの専門家のサポートが不可欠です。これらの専門家へ支払う報酬も、決して安価ではありません。

デメリット3:経営の自由度が制約される可能性がある

納税猶予を受け続けるための要件を満たすため、承継後の会社の経営判断に一定の制約が生じる可能性があります。

  • M&A(売却)の制約:将来的にM&Aによって会社を第三者に売却する場合、原則として猶予が取り消され、その時点で猶予されていた税金を支払うことになります。M&Aによる売却益と猶予されていた税額を比較し、どちらが有利かを慎重に判断する必要があるため、安易な売却は難しくなります。
  • 事業内容・資産構成の変更への制約:会社が資産管理会社等に該当しないよう、保有資産の構成や、事業内容の大きな変更が制限される場合があります。例えば、本業以外の不動産投資や、新規事業への大規模な投資を行う際に、税制の要件を満たせなくなるリスクを考慮する必要があります。
  • 雇用維持要件への配慮:特例措置で緩和されたとはいえ、5年間は平均8割の雇用を維持する努力が求められます。大幅なリストラや事業の縮小が必要になった場合、この要件が足かせとなる可能性があります。

デメリット4:株価が下落した場合の猶予税額の減免について

特例措置では、M&Aや廃業時に株価が下落していた場合の減免制度が導入されましたが、**減免されるのは「猶予されている税額」であって、売却益に対する課税が無くなるわけではありません。**また、減免の計算も複雑です。

デメリット5:創業者自身の退職後の資金計画への影響

事業承継税制を利用して自社株を贈与・相続する場合、創業者は会社を現金で売却するわけではないため、退職後のまとまった現金をすぐに手にすることはできません。

  • 創業者個人の資金計画:創業者は、自社株以外の資産で退職後の生活資金を賄う必要があります。 M&Aによる売却であれば、その対価でまとまった資金が得られますが、事業承継税制ではそれが得られないため、引退後の資金計画を別途慎重に立てる必要があります。

3. まとめ:メリット・デメリットを理解し、最適な事業承継を

事業承継税制は、中小企業にとって非常に強力な事業承継のツールですが、決して「万能薬」ではありません。その複雑な要件と、利用後に伴うリスク(特に納税猶予の取り消しリスク)を十分に理解しておくことが、制度を成功裏に活用するための鍵となります。

  • 強力な税負担軽減のメリットと引き換えに、以下のデメリットが存在する。
  • 最大のデメリットは「納税猶予の取り消しリスク」であり、多額の税金と利子税の一括払いが生じる可能性。
  • 適用要件は複雑で、手続きには専門知識と時間、そして専門家費用がかかる。
  • 承継後の経営の自由度が一部制約される可能性がある。

事業承継税制の利用を検討する際は、これらのメリットとデメリットを天秤にかけ、自社の状況や将来の経営戦略に照らして、本当に最適な選択であるかを慎重に判断する必要があります。

必ず税理士をはじめとするM&A・事業承継の専門家と綿密に連携し、複雑な要件のクリア、リスクの管理、そして最適な承継スキームの策定をサポートしてもらいましょう。 専門家の知見を借りることで、事業承継税制のメリットを最大限に享受しつつ、デメリットを最小限に抑え、あなたの会社を未来へと力強くつなぐことができるはずです。