「子供は都会に出てしまって、会社を継ぐ気がない…」
「長年勤めてくれた幹部社員に任せたいけど、経営は未経験で不安だ…」
日本の多くの中小企業経営者が直面する「後継者不足問題」は、深刻さを増す一方です。親族内承継も社内承継も難しい場合、これまでは「廃業」という選択肢しか残されていないと考える経営者も少なくありませんでした。しかし、近年、この後継者不足の状況を打破し、事業の継続と発展を可能にする画期的な解決策として注目されているのが、**「事業承継マッチングサービス」**です。
インターネットの普及やM&A市場の拡大に伴い、事業を譲りたい企業(売り手)と、事業を譲り受けたい企業や個人(買い手)を効率的に結びつける様々なマッチングサービスが登場しています。これらのサービスを活用することで、これまで見つけることができなかった「未来の後継者」と出会い、大切な会社を次世代へとつなぐことが可能になります。
本記事では、後継者不足問題に悩む経営者の方に向けて、主要な事業承継マッチングサービスの種類と特徴、利用するメリット・デメリット、そしてサービス選びのポイントを、どこよりも分かりやすく解説します。あなたの会社の未来を諦めず、最適な事業承継を実現したいと願うすべての方に、実践的なヒントを提供できれば幸いです。
1. 事業承継マッチングサービスとは?
事業承継マッチングサービスとは、事業の譲渡(売却)を希望する企業・個人と、事業の譲り受け(買収)を希望する企業・個人をオンライン上で結びつけるプラットフォームや支援サービスの総称です。M&Aマッチングサイトと呼ばれることもあります。
従来のM&Aでは、仲介会社や金融機関のネットワークに限定されることが多かったですが、マッチングサービスの登場により、全国の幅広い候補者から最適な相手を探せるようになりました。これにより、後継者が見つからずに廃業を余儀なくされていた企業にも、事業継続の道が開ける可能性が飛躍的に高まっています。
1-1. 事業承継マッチングサービスの主な種類
事業承継マッチングサービスには、大きく分けて以下の2つのタイプがあります。
- オンラインM&Aマッチングプラットフォーム:Webサイト上で売り手企業が匿名で案件情報を登録し、買い手企業・個人が検索して直接交渉を申し込む形式が主流です。仲介会社を介さない「直接交渉型」に近い形式や、低コストで利用できる点が特徴です。専門家によるサポートをオプションで提供しているサービスもあります。
- 代表例: BATONZ(バトンズ)、TRANBI(トランビ)、M&Aサクシード、M&Aクラウドなど
- 公的機関・地域特化型マッチング支援:国や地方自治体、商工会議所などが運営する事業承継支援の一環として提供されるサービスです。地域に根ざした中小企業の承継に強みを持つことが多く、費用が比較的安価、または無料で利用できる点が特徴です。
- 代表例: 中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」、日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」、地方銀行や信用金庫の提携サービスなど
2. 事業承継マッチングサービスを利用するメリット
後継者不足に悩む経営者にとって、マッチングサービスは多くのメリットをもたらします。
2-1. 全国から幅広い後継者候補を探せる
従来の属人的なネットワークでは出会えなかった、全国各地の多様な買い手候補(企業、個人、投資家など)にアプローチできます。これにより、自社の事業や理念に共感してくれる「運命の相手」と出会える可能性が高まります。特に、地方企業にとっては、都市部の事業意欲の高い人材にリーチできる貴重な機会となります。
2-2. 比較的低コストでM&Aを進められる可能性がある
オンラインM&Aマッチングプラットフォームの中には、着手金や月額報酬が無料、あるいは低額で、成功報酬のみの料金体系を採用しているサービスが多くあります。これにより、M&Aにかかる総コストを抑えながら、事業承継を進めることが可能です。公的機関のサービスであれば、さらに費用を抑えられる場合もあります。
2-3. スピーディーなマッチングが期待できる
オンライン上で案件情報が公開され、買い手側もすぐに検索・アプローチできるため、従来のM&A仲介よりも短期間でマッチングが成立する可能性があります。急ぎで後継者を見つけたい場合に有効な選択肢となります。
2-4. 事業の継続と従業員の雇用を守れる
廃業を選択するしかなかった状況から一転、マッチングによって事業を継続し、長年共に働いてきた従業員の雇用を守れることは、経営者にとって最大のメリットと言えるでしょう。M&Aで新たな経営資源が加わることで、事業のさらなる発展も期待できます。
2-5. 匿名での情報開示が可能(ノンネームシート)
多くのマッチングサービスでは、企業を特定できない**「ノンネームシート」**という形式で、事業の概要や希望条件を公開できます。これにより、情報漏洩のリスクを最小限に抑えながら、潜在的な買い手候補の反応を探ることが可能です。興味を持った買い手に対してのみ、詳細な情報を開示するステップに進みます。
2-6. 経営者が自ら主体的にM&Aを進められる
オンラインプラットフォームの場合、経営者自身が案件情報の作成や買い手とのメッセージのやり取りを主導できます。これにより、仲介会社に任せきりにするのではなく、自身の意思を強く反映させたM&Aを実現しやすくなります。
3. 事業承継マッチングサービスを利用するデメリット・注意点
メリットが多い一方で、マッチングサービスには注意すべき点もあります。
3-1. 自社で交渉を進める「手間」と「専門性」
オンラインプラットフォームで直接交渉を行う場合、専門的な知識がないと、価格交渉、契約書の作成・確認、デューデリジェンスの対応などで戸惑う可能性があります。
- 対策: 必要に応じて、弁護士、税理士、M&Aアドバイザーなどの外部専門家と連携し、スポットで助言を求めることを検討しましょう。トラブル防止のためにも、専門家のサポートは不可欠です。
3-2. 情報漏洩のリスク
匿名とはいえ、詳細な情報を開示する段階では、自社の機密情報(財務データ、顧客リスト、技術情報など)が外部に漏洩するリスクが皆無ではありません。
- 対策: 信頼性の高いプラットフォームを選ぶ、秘密保持契約(NDA)を確実に締結する、開示する情報の範囲を慎重に判断する、などの対策が必要です。
3-3. 最適な相手が見つかるとは限らない
多数の案件が登録されていても、自社の条件に完璧に合致する買い手候補がすぐに見つかるとは限りません。また、買い手側から多くの打診があったとしても、そのすべてが真剣な検討であるとは限りません。
- 対策: 焦らず、長期的な視点で相手を探す覚悟が必要です。また、案件情報を魅力的に作り込んだり、複数のマッチングサービスを併用したりすることも有効です。
3-4. 交渉の途中で破談になる可能性
M&Aの交渉は、デューデリジェンスの結果や条件面で合意に至らず、途中で破談になることが少なくありません。
- 対策: 破談はM&Aでは一般的なことと割り切り、感情的にならないことが重要です。次の候補者への切り替えを速やかに行うための準備も必要です。
3-5. サポート体制の不足(サービスによる)
低コストで利用できるサービスの中には、手厚いサポートが含まれていない場合があります。
- 対策: 契約前に、提供されるサポート内容(専門家紹介、資料作成支援、交渉アドバイスなど)を詳細に確認しましょう。自社のリソースやM&Aに関する知識レベルに合わせて、適切なサポートを受けられるサービスを選ぶことが重要です。
4. 主要な事業承継マッチングサービス一覧と特徴
数ある事業承継マッチングサービスの中から、代表的なものをいくつかご紹介します。(※2025年7月現在の情報に基づきます)
4-1. オンラインM&Aマッチングプラットフォーム
- BATONZ(バトンズ):
- 特徴: 国内最大級の登録案件数と成約実績を誇るM&Aプラットフォーム。中小企業M&Aに強く、IT・Web系企業にも人気。専門家(士業、M&Aアドバイザー)のサポートも手厚く受けられる点が魅力。売り手は登録料・月額利用料が基本的に無料。
- 費用: 売り手は成功報酬のみ(無料〜取引金額の2%)。買い手は成功報酬型(取引金額の2〜5%)。
- TRANBI(トランビ):
- 特徴: 会員数、案件数ともに国内有数のM&Aプラットフォーム。幅広い業種に対応し、業務提携案件も多い。AIによるマッチング機能や、オンラインで交渉できるツールが充実している。
- 費用: 売り手は成約まで無料。買い手は登録無料、有料プランや成功報酬あり(金額の2〜5%)。
- M&Aサクシード(旧:ビズリーチ・サクシード):
- 特徴: 株式会社ビズリーチが運営する完全審査制のM&Aプラットフォーム。厳選された買い手企業が登録しており、質の高いマッチングが期待できる。実名でのオファーが基本で、マッチング後の交渉がスムーズ。
- 費用: 売り手は無料。買い手は月額料金制。
- M&Aクラウド:
- 特徴: IT・Web業界に特化したM&Aプラットフォーム。スタートアップやベンチャー企業のM&Aに強く、成長意欲の高い買い手が多く登録している。
- 費用: 売り手は無料。買い手は月額料金制。
4-2. 公的機関・地域特化型マッチング支援
- 中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」:
- 特徴: 国が運営する事業承継の公的相談窓口で、全国47都道府県に設置されています。M&Aマッチング支援も行っており、特に地域の中小企業の事業承継に力を入れています。専門家による助言も受けられる。
- 費用: 原則無料。
- 日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」:
- 特徴: 日本政策金融公庫が運営する、事業譲渡・譲り受けに関する情報提供とマッチング支援。公庫の融資先を中心に、信頼性の高い案件情報が集まりやすい。
- 費用: 基本的に無料。
- relay(リレイ):
- 特徴: 「後継者募集」というテーマに特化した地域密着型のマッチングプラットフォーム。事業のストーリーや経営者の想いを丁寧に伝え、共感する後継者を探すことに注力しています。地方創生を重視する視点が特徴。
- 費用: 掲載料、成約報酬などサービスによる。
5. まとめ:最適なマッチングサービスで後継者不足を打破しよう
後継者不足は、多くの経営者にとって切実な問題です。しかし、事業承継マッチングサービスの登場により、この根深い課題を解決し、大切な会社を未来へとつなぐ新たな道が開かれています。
- 多様なサービス: オンラインM&Aプラットフォームから公的機関の支援まで、様々なタイプのサービスが存在する。
- メリット: 全国からの候補者探し、低コスト、スピーディーなマッチング、事業継続・雇用確保、匿名での情報開示、経営者の主体性。
- デメリット・注意点: 専門知識の必要性、情報漏洩リスク、マッチングの不確実性、サポート体制の確認。
- サービス選びのポイント: 自社の事業規模や業種、希望するサポートレベル、予算に合わせて最適なサービスを選ぶ。
どのサービスを選ぶにしても、重要なのは、自社のM&Aや事業承継の目的を明確にし、慎重にサービスを選定することです。複数のサービスを比較検討し、必要であればM&Aアドバイザーや弁護士、税理士などの専門家の助言も得ながら、あなたの会社にとって最適な「未来の後継者」との出会いを実現してください。