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経営録

2025.07.06

後継者がいない業界10選

「うちの会社も、後継者が見つからなくて困っているんだ…」

「廃業するしかないのかと、毎日悩んでいる」

日本の中小企業の多くが直面する、深刻な「後継者不足問題」。これは、単に一企業の存続に関わるだけでなく、日本の経済や社会の活力を蝕む根深い課題です。特に地方では、その影響がより顕著に現れています。帝国データバンクの調査によると、全国の中小企業の約半数で後継者が不在という状況が続いています。

この後継者不足は、すべての業界で一律に起きているわけではありません。特定の業界においては、その構造的な特性や労働環境、社会情勢の変化などが複合的に絡み合い、後継者探しが極めて困難になっているのが現状です。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、後継者不足が特に深刻な業界を10選ピックアップし、それぞれの業界が抱える具体的な課題と原因を詳しく解説します。自社の業界がリストに含まれていなくても、共通する課題や対策のヒントを見つけることができるでしょう。

1. なぜ特定の業界で後継者不足が深刻化するのか?

後継者不足は、日本の「人口減少」と「少子高齢化」というマクロな問題が根底にありますが、特定の業界でより深刻化するのには、以下のような要因が絡んでいます。

  • 労働環境の厳しさ: 長時間労働、不規則な勤務、危険を伴う作業など、若者が敬遠しがちな労働環境。
  • 低賃金: 専門性や重労働にもかかわらず、給与水準が低い。
  • 専門性・技術継承の難しさ: 熟練した技術やノウハウの習得に時間がかかり、属人化している。
  • 市場の縮小・将来性への不安: 業界全体の市場が縮小傾向にあり、今後の成長が見込みにくい。
  • 多額の設備投資や資金調達の難しさ: 後継者にとって事業を承継する際の初期投資や運転資金の負担が大きい。
  • デジタル化の遅れ: 業務効率化や生産性向上が進まず、旧態依然とした働き方が残っている。

これらの要因が重なることで、後継者候補が見つかりにくくなり、廃業の危機に瀕する企業が増加しているのです。

2. 後継者がいない業界10選

それでは、具体的に後継者不足が深刻な業界を10選ご紹介します。

2-1. 建設業

建設業は、後継者不足が最も深刻な業界の一つとして常に上位に挙げられます。

  • 「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージ: 若者にとって魅力的とは言えない労働環境が敬遠される最大の理由です。
  • 高齢化の進行: 熟練の職人が高齢化し、引退が進む一方で、若年層の入職者が少ないため、技術継承が滞っています。
  • 一人親方の多さ: 個人事業主や家族経営が多く、そもそも「組織として後継者を育成する」という意識が希薄な場合も少なくありません。
  • 景気変動への脆弱性: 景気に左右されやすく、安定した事業運営が難しい時期があることも、後継者候補の不安材料となります。

2-2. 製造業(特に中小零細の町工場)

日本の産業を支えてきた製造業、特に中小の町工場では、後継者不足が深刻です。

  • 熟練技術の属人化: 長年の経験で培われた技術やノウハウが、特定の職人に属人化しており、継承に多大な時間と労力がかかります。
  • デジタル化・自動化の遅れ: 最新の技術導入が進まず、手作業や古い設備に頼ることで、生産性が上がりにくく、若者の関心が薄い傾向があります。
  • 厳しい国際競争: 新興国の台頭により、価格競争が激化し、安定した利益を出しにくい状況にあります。
  • 高額な設備投資: 事業承継時に多額の設備投資が必要となるケースが多く、後継者にとって大きな負担となります。

2-3. 宿泊業・飲食サービス業(特に個人経営の旅館・飲食店)

地域経済の担い手である個人経営の旅館や飲食店も、後継者不足に苦しんでいます。

  • 長時間労働と不規則な勤務: 顧客に合わせて営業するため、長時間労働や土日祝日の勤務が避けられず、ワークライフバランスを重視する若者には敬遠されます。
  • 体力勝負の仕事: 立ち仕事や力仕事が多く、高齢の経営者にとって体力的な限界が来ることも要因です。
  • 多額の運転資金と初期投資: 店舗の改修費や食材の仕入れなど、日々の運転資金や初期投資が大きく、後継者への負担が大きいです。
  • 収益性の不安定さ: 流行や競合の影響を受けやすく、収益が不安定になりがちです。

2-4. 運輸・倉庫業

物流を支える運輸・倉庫業も、深刻な人手不足と後継者不足に直面しています。

  • 運転免許・資格の必要性: 大型免許やフォークリフトなど、特定の運転免許や資格が必須であり、取得に時間と費用がかかります。
  • 長時間労働と低賃金: トラックドライバーなどは長時間運転を強いられることが多く、労働時間に見合った賃金が得られないという不満も聞かれます。
  • 高齢化: ドライバーの高齢化が進んでおり、若年層の入職者が少ないため、労働力確保が喫緊の課題です。
  • 事故のリスク: 常に事故のリスクと隣り合わせであることも、敬遠される一因です。

2-5. 医療業(特に個人経営の診療所・病院)

医師や看護師といった専門職の医療機関も、後継者が見つからないケースが増えています。

  • 医師免許・専門性の高さ: 医師として開業するには、長年の修業と医師免許が必須であり、誰もが簡単に引き継げるわけではありません。
  • 多額の開業資金: 医療機器や設備、施設の賃貸など、開業には多額の資金が必要です。
  • 経営の専門性: 医療知識だけでなく、人事、経理、集患といった経営スキルも求められますが、専門教育を受ける機会は限られています。
  • 地方での医師不足: 地方では医師の確保自体が難しく、承継候補を見つけるのがさらに困難です。

2-6. 小売業(特に個人経営の商店・専門店)

地域の生活を支える個人商店や専門店も、後継者不足に悩んでいます。

  • 大手チェーンとの競争激化: 大手スーパーやECサイトとの価格競争が激しく、売上を維持するのが困難な状況です。
  • 長時間営業と不規則な勤務: 営業時間に合わせて早朝から深夜まで働く必要があり、休日も少ない傾向があります。
  • デジタル化の遅れ: ECサイトの構築やキャッシュレス決済導入など、デジタル化への対応が遅れると、顧客離れが進むリスクがあります。
  • 低い収益性: 薄利多売になりがちな業態で、安定した利益を出すのが難しい場合があります。

2-7. 農業・林業・漁業

日本の食料供給を支える一次産業は、特に高齢化と後継者不足が深刻です。

  • 重労働と自然環境への依存: 体力的にきつく、天候や自然災害の影響を受けやすい不安定な側面があります。
  • 低い初期所得: 収穫が安定するまで時間がかかったり、初期投資がかかったりするため、収入が不安定になりがちです。
  • 若者の都会志向: 都市部での就職や生活を希望する若者が多く、地方の一次産業への関心が低い。
  • ノウハウの属人化: 長年の経験と勘が必要な作業が多く、技術やノウハウの継承が難しい。

2-8. 専門サービス業(特定の士業、デザイン事務所など)

特定の士業(例:行政書士、弁理士など)や、個人のスキルに依存するデザイン事務所、コンサルティング会社なども後継者問題に直面します。

  • 個人のスキル・経験に大きく依存: 創業者の個人的な信頼関係や専門スキルに事業が成り立っている場合、後継者にその全てを引き継ぐのが困難です。
  • 顧客基盤の引継ぎの難しさ: 顧客が個人に紐づいているため、事業を承継しても顧客が離れてしまうリスクがあります。
  • 資格必須の業務: 資格が必須の士業の場合、資格を持つ人材に限定されるため、候補者が限られます。

2-9. クリーニング業

地域の生活に密着したクリーニング業も、後継者不足が顕著な業界です。

  • 重労働と危険を伴う作業: 洗濯物や機械の運搬、高温多湿な環境での作業など、体力的にきつい側面があります。
  • 収益性の低さ: 単価が低く、薄利多売の傾向があります。
  • 新規参入の少なさ: 若者にとって「憧れの仕事」というイメージが薄く、入職者が少ないです。
  • 設備投資の必要性: 洗濯機やプレス機など、専門的な設備が必要であり、初期投資がかかります。

2-10. 理美容業(特に個人経営の理髪店・美容室)

長年地域に愛されてきた個人経営の理髪店や美容室も、後継者探しに苦労しています。

  • 国家資格の必須性: 理容師・美容師の国家資格が必須であり、取得に時間と費用がかかります。
  • 高齢化: 経営者自身の高齢化が進み、体力的な限界を迎えるケースがあります。
  • 大型チェーン店との競争: 低価格を売りにする大型チェーン店やフランチャイズ店との競争が激しく、顧客獲得が困難になる場合があります。
  • 個人の技術と人気に依存: 経営者個人の技術や顧客との関係性に事業が大きく依存しているため、承継が難しいです。

3. まとめ:後継者不足は「業界の未来」そのもの

ここに挙げた業界は、いずれも私たちの生活や社会を支える上で不可欠な存在です。しかし、それぞれの業界が抱える構造的な課題が、後継者不足という形で顕在化しています。

  • 労働環境の改善: 若者が魅力を感じる労働時間、賃金体系、福利厚生の導入。
  • 情報発信の強化: 業界のやりがい、社会貢献性、技術の面白さなどを積極的に発信する。
  • 育成制度の改革: 従来の徒弟制度に代わる、短期間・段階的な育成プログラムの導入。
  • デジタル化・DXの推進: 業務効率化や新たな価値創造につながるIT技術の導入。
  • M&A・事業承継の積極的活用: 親族や社内承継が難しい場合でも、外部の買い手を見つけることで事業を継続させる。

これらの業界が抱える後継者不足は、まさに「業界の未来」そのものに関わる問題です。個々の企業の努力はもちろん、業界全体、そして国や地方自治体レベルでの複合的な支援策が、日本の大切な産業と文化を守り、次世代へとつなぐために不可欠です。M&Aや事業承継は、そのための強力なツールの一つとして、今後ますます活用が期待されるでしょう。