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経営録

2025.07.01

後継者不足の原因とは?人口減少と東京一極集中が生み出す日本の根深い問題

「うちの会社も、いつか誰かに引き継がなければ…」
「でも、子供は都会に行ってしまって、社員の中にも適任者がいない…」

日本全国の中小企業が共通して抱える、深く根付いた課題。それが**「後継者不足問題」**です。経済産業省のデータによると、全国の中小企業の約半数で後継者が不在という深刻な状況が続いています。この問題は、単に一企業の存続に関わるだけでなく、日本の地域経済、ひいては国全体の活力を奪いかねない、非常に大きな社会問題として認識されています。

なぜ、これほどまでに後継者が見つからない企業が増えているのでしょうか? その背景には、日本の構造的な問題である「人口減少」と「東京一極集中」が大きく影響しています。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、後継者不足が深刻化する多角的な原因を深く掘り下げて解説します。この根深い問題を理解することで、自社がとるべき対策や、未来へのバトンタッチを成功させるためのヒントを見つけることができるでしょう。

1. 日本全体を覆う「人口減少」が後継者不足に与える影響

後継者不足の最も根源的な原因は、日本社会全体で進行している**「人口減少」と「少子高齢化」**です。

1-1. 若年層の絶対数減少

少子化の進行により、そもそも子供の数が減っています。これは、親族内承継を検討する場合、事業を継ぐことができる「息子や娘」の絶対数が減少していることを意味します。かつては家業を継ぐのが当たり前という風潮もありましたが、少子化で兄弟姉妹が少ない家庭が増え、各々が多様なキャリアを追求する中で、親族内で後継者を見つけることがますます難しくなっています。

1-2. 労働人口の減少と採用難

人口減少は、ビジネスを担う「労働人口」の減少に直結します。特に地方の中小企業では、若年層の確保が非常に困難になっており、これは後継者だけでなく、一般社員の採用にも大きな影を落としています。

  • 社内承継の候補者不足: 後継者を従業員の中から選ぶ「社内承継(MBOなど)」を検討しても、将来の経営を担えるような人材がそもそも不足している、あるいは、そうした意欲や能力を持つ人材がすでに他社に流出している、といった状況に陥りやすくなっています。
  • 人材育成の難しさ: 新規採用が難しいため、将来の幹部候補を育成する母集団が小さくなり、後継者育成に十分な時間をかけられないという問題も発生しています。

1-3. 消費市場の縮小と事業の将来性への不安

人口減少は、国内の消費市場の縮小も意味します。特に地方では、地域の購買力が低下し、市場規模が縮小することで、中小企業の売上減少や事業の先細りへの懸念が深まります。

このような状況下で、**「この事業を継いで、本当に将来性があるのか?」**という不安を、後継者候補となる親族や従業員、あるいは外部の第三者が抱きやすくなります。事業そのものの魅力が低下してしまうことが、後継者が見つからない大きな要因となっているのです。

2. 若者の流出と「東京一極集中」が地方の後継者不足を加速させる

人口減少と並び、後継者不足の根深い原因となっているのが**「東京一極集中」**です。

2-1. 地方からの若年層の流出

多くの若者は、大学進学や就職を機に、生まれ育った地方を離れて東京をはじめとする大都市圏へ移動する傾向が顕著です。特に10代後半から20代前半の移動が大きく、これは進学や就職先が都市部に集中していることが主な原因と考えられます。

  • 「地元に仕事がない」という意識: 地方には魅力的な中小企業が多数存在しますが、若者にとっては「大企業で働きたい」「都会で多様な経験を積みたい」という志向が強く、「地元には就職したいと思える企業がない」という意識が根強く存在します。
  • キャリアパスの多様性への期待: 東京では様々な業界や職種の企業が集積しており、将来的なキャリアの選択肢が地方よりも圧倒的に多いと感じられています。これが、若者を惹きつける大きな要因となっています。

2-2. 後継者候補の「不在」が加速する地方企業

地方にUターンしたり、Iターンで移住したりする若者が増えているとはいえ、一度都会に出た人材が必ずしも実家の事業や地方の企業を継ぎたいと考えるとは限りません。結果として、地方の中小企業は、後継者候補となりうる若年層が物理的に不在になるという深刻な事態に直面しています。

2-3. 都市部と地方の経済格差の拡大

東京一極集中は、地方の活力を吸い上げる形で、都市部と地方の経済格差を拡大させています。

  • 賃金格差: 一般的に、都市部の方が地方よりも賃金水準が高い傾向にあります。これは、M&Aにおける企業価値評価や、従業員のモチベーションにも影響を与えかねません。
  • 情報格差: 最新の技術やビジネスモデルに関する情報、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する人材やノウハウも、都市部に集中しがちです。これにより、地方企業は事業の競争力を維持・向上させることが難しくなる場合があります。

このような格差は、後継者候補が「将来性」や「成長環境」を判断する上で、地方企業を不利な立場に追い込む一因となっています。

3. その他の複合的な後継者不足の原因

人口減少と東京一極集中という構造的な問題に加え、M&Aや事業承継の現場でよく見られる、後継者不足を助長する要因もあります。

3-1. 経営者の高齢化と準備の遅れ

中小企業経営者の平均年齢は年々上昇しており、70代を超える経営者も珍しくありません。しかし、多くの経営者が「まだ先のこと」と考え、事業承継の準備を後回しにしがちです。

  • 「自分しかできない」という意識: 創業者が長年築き上げてきた事業であるため、「自分にしかこの会社は経営できない」「他に任せられる人がいない」という意識が強く、権限委譲や育成が進まないケースがあります。
  • 資金面・税金面の不安: 事業承継には、自社株の評価額に対する多額の相続税や贈与税、あるいはM&Aによる売却益に対する税金など、金銭的な負担が伴います。これらの問題への不安から、具体的な行動に移せない経営者も少なくありません。

3-2. 後継者候補の「資質」と「意欲」の問題

たとえ後継者候補がいたとしても、以下のような理由から承継が進まないことがあります。

  • 経営者としての資質への不安: 創業者が、候補者の経営能力やリーダーシップ、事業に対する情熱などに不安を感じ、任せる決断ができないケースです。
  • 後継者候補の意欲不足: 親族や従業員に、経営者になることへの重圧や、個人保証・負債への不安、あるいは単純に「今の仕事で十分」といった理由から、事業を継ぐことへの意欲が低い場合があります。
  • 事業の魅力の低下: 経済環境の変化や業界の衰退、IT化の遅れなどにより、事業そのものに将来的な魅力が見出せず、後継者候補が躊躇するケースもあります。

3-3. 外部の専門家やM&Aへの抵抗感

M&Aや事業承継に関する専門家(M&A仲介会社、税理士、弁護士など)に相談することで、解決の道が開ける場合が多くあります。しかし、以下のような理由から、外部の力を借りることに抵抗を感じる経営者もいます。

  • M&Aへのネガティブなイメージ: 「会社を売るなんて、負け犬の烙印を押されるようだ」「従業員に申し訳ない」といったネガティブなイメージが根強く、M&Aを検討の選択肢に入れない。
  • 情報の秘匿性への懸念: M&Aは機密情報が多く、外部に相談することで情報が漏洩するリスクを心配する。
  • 費用への懸念: 専門家への相談料や仲介手数料が高額になることへの懸念。

4. まとめ:根深い問題だからこそ、複合的な視点での解決策を

日本の後継者不足問題は、少子高齢化による**「人口減少」という大きな波と、若年層の地方からの流出と経済格差を生む「東京一極集中」**という構造的な問題が深く絡み合って生じています。これらに加え、経営者自身の準備の遅れや、後継者候補の意欲の問題なども、M&Aや事業承継を困難にしています。

  • 人口減少: 親族内承継の候補者減少、労働人口減による社内承継・採用難、市場縮小による事業への将来不安。
  • 東京一極集中: 地方からの若年層流出による後継者候補の不在、都市部との経済・情報格差。
  • 経営者側の要因: 準備の遅れ、個人保証・税金への不安、特定の個人への依存。
  • 後継者候補側の要因: 資質や意欲の欠如、事業の将来性への不安。

このような根深い問題だからこそ、一つの解決策に固執するのではなく、多角的な視点からアプローチすることが重要です。 親族内承継、従業員への承継(MBO)、そしてM&Aによる第三者への承継など、あらゆる選択肢を視野に入れ、早期から専門家と連携して計画的に進めることが、大切な会社と事業を未来へつなぐ唯一の道となるでしょう。