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経営録

2026.02.07

部門間の壁(セクショナリズム)を壊す|営業vs製造の対立を解消する方法

「営業は現場の苦労も知らずに無理な納期ばかり持ってくる」

「製造は頭が固くて、顧客の要望に応えようとする気概が足りない」

多くの製造業や多部門を抱える組織で、こうした「部門間の対立」は日常茶飯事となっています。互いに正義を掲げ、他部署を敵視する「セクショナリズム」は、組織のスピードを奪い、最終的には顧客満足度の低下という最悪の結末を招きます。

結論から申し上げます。部門間の壁は、個人の性格の問題ではなく、組織が設計した「評価指標」と「情報の非対称性」が生み出す構造的な病です。

この対立を解消するには、精神論ではなく、共通の「北極星」を見せ、互いの領土を跨ぐ仕組みを導入しなければなりません。本記事では、営業と製造の根深い対立を解消し、組織を「一つのチーム」に再編するための具体的な手法を解説します。

なぜ「営業vs製造」の対立は避けられないのか

対立を解消する前に、なぜこの二つの部署がこれほどまでに衝突するのか、その構造を理解する必要があります。彼らは決して仲を悪くしようとしているわけではありません。

1. 追っている「正義(指標)」が正反対である

営業の指標は、多くの場合「売上」や「成約数」です。そのため、顧客の細かいカスタマイズ要求や短納期にも「イエス」と言わざるを得ません。

一方、製造の指標は「生産効率」や「コスト削減」「品質の安定」です。計画外の注文や特殊な仕様は、生産ラインを乱し、効率を下げ、ミスを誘発する「悪」となります。

組織が部署ごとに異なる「100点」を設定している以上、一方が100点を取ろうとすると、もう一方の点数が下がるという「ゼロサムゲーム」の状態に陥っているのです。

2. 見ている「景色」が違う

営業は「外(市場・競合・顧客)」を見ています。他社がこれだけの短納期でやっている、顧客が泣いて困っているという現実が彼らの視界です。

製造は「内(設備・在庫・人員)」を見ています。機械が故障している、原材料が入ってこない、人が足りない。これが彼らの真実です。

互いに見えている事実が違うため、「なぜ分かってくれないんだ」という不信感が募ります。

3. コミュニケーションが「要求」と「拒絶」だけになっている

営業から製造への連絡は「これを作ってくれ」、製造から営業への返答は「それは無理だ」。

接点がこの一点に集中すると、コミュニケーションは戦いになります。相手の仕事の苦労やプロセスが見えないため、相手を「こちらの仕事を邪魔する存在」と定義してしまうのです。

セクショナリズムを破壊する「3つの本質的なアプローチ」

この根深い対立を解消するには、以下の3つのステップで組織をアップデートする必要があります。

アプローチ1:評価指標(KPI)を「オーバーラップ」させる

対立の最大の原因である「指標のズレ」を解消します。

例えば、営業の評価に「納期遵守率」や「製造原価の達成度」を加え、製造の評価に「顧客満足度」や「特急対応への貢献度」を組み込みます。

互いの目標が一部重なることで、他部署の成功が自部署のメリットになる状態を作り出します。これにより、営業は無理な注文を控えるようになり、製造は柔軟な対応の価値を認めるようになります。

アプローチ2:情報の「非対称性」を取り除く

「なぜ無理なのか」「なぜ急ぎなのか」の理由を、感情論ではなくデータで共有します。

  • 製造能力の可視化: 営業がいつでも工場の稼働状況を確認できるダッシュボードを共有する。
  • 市場動向の共有: 定期的に営業が製造現場に対し、「今、市場では何が起きているか」「なぜ顧客はこの仕様を求めているのか」をプレゼンする。同じデータ、同じ背景を共有することで、論理的な判断ができる土壌を整えます。

アプローチ3:物理的・心理的な「越境」を強制する

相手の立場を体験させることで、想像力を働かせられるようにします。

  • ジョブローテーション: 営業職が1週間工場で作業し、製造職が営業に同行する。
  • 混成プロジェクトチーム: 新製品開発やクレーム対応において、営業と製造が最初から同じチームで議論する場を作る。「製造のあの人は、あの機械を回すのにこれだけ苦労している」「営業のあの人は、あんなに顧客に頭を下げている」。この「顔の見える関係性」が、対立を協力に変える最強の武器になります。

対立を解消し「一枚岩」になった組織の事例

ある中堅メーカーでは、長年「営業が取ってきた注文を製造が断る」という冷戦状態が続いていました。社長が主導して行ったのは、以下の改革でした。

まず、営業と製造の管理職を同じデスクに座らせ、情報を完全に統合しました。次に、「納期通りに、適正な利益で届ける」という共通の目標を設定。さらに、月に一度、営業が獲得した注文によって「顧客がどれだけ喜んだか」という感謝の声を動画で製造現場に届けるようにしました。

結果として、製造側からは「もっと早く言ってくれれば対応できる」という提案が出るようになり、営業側も「この仕様なら製造の負担が少ない」と顧客を誘導するようになりました。売上は1年で20%向上し、何より社内の笑い声が増えたといいます。

経営者が果たすべき「裁定者」としての役割

部門間の壁を壊す際、経営者が絶対にやってはいけないのは、どちらか一方に加担することです。

「営業が取ってこないと給料が出ないんだから、製造は黙って作れ」

「製造が作れないと言っているんだから、営業は謝ってこい」

こうした場当たり的な裁定は、負けた方の部署に深い恨みを残し、セクショナリズムを加速させます。

経営者の役割は、対立が起きたときに**「理念(わが社は何のために存在するか)」に立ち戻ること**です。

「この対立を解消して、どちらを選べば顧客を幸せにし、わが社の未来を創れるか」

この一貫した姿勢が、社員に「部署の利益よりも、会社全体の目的が優先される」という文化を刷り込みます。

まとめ:壁を壊すのは「共通の敵」と「共通の喜び」

部門間の壁(セクショナリズム)は、放っておけば必ず発生する自然現象のようなものです。

  1. 評価制度を見直し、他部署の成功を喜べる仕組みを作る。
  2. 情報共有を徹底し、感情ではなくデータで議論させる。
  3. 対話の場を強制的に作り、一人の人間としての信頼関係を築く。

セクショナリズムが消えた組織は、驚くほど軽やかです。

営業と製造が手を取り合い、「どうすれば顧客を驚かせられるか」を語り合う。

そのエネルギーは、どんな最新設備や広告宣伝よりも強力な、貴社だけの競争優位性になります。

まずは、営業と製造の責任者を呼び、3人でランチに行くことから始めてみてはいかがでしょうか。

その「一歩」が、組織を蝕む高い壁を壊す、最初のハンマーになります。