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経営録

2026.02.25

親族経営の難しさ|役員に親戚がいる場合のガバナンスとコミュニケーション

「叔父が役員にいるが、指示を聞いてくれない」

「親戚の役員が公私混同しており、他の社員の士気が下がっている」

「身内だからこそ、厳しいことが言えず経営判断が鈍ってしまう」

日本企業の多くを占めるファミリービジネス(同族経営)において、アトツギ(後継者)が直面する最も厄介な問題の一つが「親戚役員」との関係性です。血縁という強固な結びつきは、平時は最大の味方となりますが、変革期においてはガバナンス(企業統治)を歪める最大の障壁となり得ます。

結論から申し上げます。親族経営の健全化には、「家族の論理」と「経営の論理」を明確に切り分ける仕組みが必要です。身内を特別扱いせず、一人の役員として評価・管理する客観的なガバナンス体制を構築することこそが、組織の崩壊を防ぐ唯一の道です。

本記事では、親戚役員が介在することで起きる具体的なトラブルの正体を解き明かし、組織を正常化するためのガバナンスとコミュニケーションの戦略を解説します。

親戚役員がもたらす「ガバナンス不全」の正体

なぜ、親戚が役員にいると組織は停滞し、空気が歪むのでしょうか。そこには親族経営特有の「甘え」と「聖域化」が存在します。

指揮命令系統の無視

親戚役員、特に先代の兄弟や従兄弟といった「年長者」の場合、アトツギの指示に従わないケースが多々あります。「あいつが子供の頃から知っている」という心理的優位性が、組織図上の上下関係を無効化し、勝手な判断で現場を混乱させてしまいます。

評価基準のブラックボックス化

仕事の成果ではなく「親戚だから」という理由で高額な報酬を得ていたり、責任を問われなかったりする状態は、一般社員から見れば不公平の極みです。この「特権階級」の存在が、優秀なプロパー社員のモチベーションを削ぎ、組織の活力を奪います。

情報の私物化と公私混同

会社のお金や備品を個人のように扱う、あるいは重要な経営情報を家庭内の会話のように扱ってしまう。こうした公私混同は、ガバナンスを根本から破壊します。一度「身内なら許される」という空気が定着すると、それは全社的な不正や怠慢の温床となります。

親族経営の呪縛を解く「3つのガバナンス戦略」

感情論で親戚とぶつかっても解決しません。必要なのは、誰の目にも明らかな「仕組み」で統治することです。

1. 役員としての「職務定義書(JD)」を明文化する

「親戚だからなんとなく役員」という状態を終わらせます。その役員が具体的に何の責任を負い、どのような成果を出すべきなのかを明文化します。身内であっても、期待される役割を果たせなければ評価が下がるという「プロとしての基準」を導入します。

2. 報酬体系の客観性を担保する

親戚役員の報酬が、同業他社や社内の貢献度と比較して妥当であるかを検証します。可能であれば、外部の税理士や専門家の視点を入れ、「経営判断として適正な報酬額」を算出します。論理的な根拠を持つことで、不透明な優遇を是正しやすくなります。

3. 取締役会の「形式化」を脱し、実質化させる

身内だけの雑談で終わっていた取締役会を、議事録を残し、重要事項を正式に決議する場へと変えます。決定プロセスを透明化することで、「誰が何を言ったか」ではなく「会議体として何が決まったか」を重視する文化を作ります。外部取締役や監査役の導入も、親族への牽制として極めて有効です。

親戚役員との「コミュニケーション」を変える3つのステップ

仕組みを作ると同時に、日々の関わり方も「家族」から「ビジネスパートナー」へと移行させる必要があります。

ステップ1:呼称と場所を使い分ける

職場では「叔父さん」ではなく役職名で呼ぶことを徹底してください。また、重要な話は食事の席などではなく、必ず会社の会議室で行います。「ここはビジネスの場である」という境界線を、言葉と環境によって引き直すことが、相手の意識を変える第一歩です。

ステップ2:「感謝」をセットにした直言

年長者の親戚役員にとって、アトツギからの正論は「否定」と受け取られがちです。まずは「これまで会社を支えてきてくれたこと」への敬意と感謝を十分に伝えます。その上で、「これからの100年を守るために、このルールを徹底したい」と、会社の未来を主語にして語ります。

ステップ3:第三者を介在させた対話

親子や親戚同士だと、どうしても言葉が感情的になり、話が本筋から逸れてしまいます。顧問弁護士や信頼できる外部コンサルタントを交えた席で議論することで、お互いに「一人の役員」としての振る舞いを余儀なくされ、冷静な議論が可能になります。

「親族」を経営の強みに転換するために

親戚役員は、決して排除すべき存在ではありません。正しく機能すれば、誰よりも会社を愛し、危機に際して逃げない最強の味方になります。

共通の敵と目標を設定する

親戚同士の対立は、内向きの視線から生まれます。「市場の激変」や「競合の脅威」といった外的な危機を共有し、「一族でこの暖簾をどう守り抜くか」という共通の目標に視線を向けさせます。ファミリーとしての団結力を、内紛ではなく「外への競争力」へと転換させます。

役割の再定義(隠居と現役の棲み分け)

もし能力や意欲が伴わない親戚役員がいる場合は、経営の意思決定からは退いてもらい、相談役や象徴的なポジションへの移行を提案します。その際、彼らの「プライド(顔)」をどう立てるかが重要です。功労者として敬いつつ、実務の権限を切り離す高度な政治力もアトツギには求められます。

ファミリー憲章の策定

将来の火種を消すために、「親族が会社に入る際の条件」や「株式の取り扱い」などを定めたファミリー憲章(家族憲法)を策定します。次世代以降に問題を先送りせず、自分たちの代で「親族経営のルール」を確立することが、長寿企業への道となります。

まとめ:ビジネスとしての「非情さ」と家族としての「情」

親族経営の難しさは、一つの組織の中に「論理」と「感情」が同居していることにあります。アトツギの役割は、その二つを混同することではなく、適切に「統合」することです。

  1. ガバナンスを仕組み化し、身内であっても成果と責任を問う体制を作る。
  2. コミュニケーションの場を公私で切り分け、一人の経営者として向き合う。
  3. 歴史への敬意を持ちつつ、未来を守るために「聖域」を廃止する。

親戚に厳しいことを言うのは、勇気がいることです。しかし、あなたがその不都合な真実から目を背ければ、会社そのものが崩壊し、結果として親族全員が不幸になります。

会社という公器を守るための「正しい非情さ」を持つこと。それこそが、親族経営におけるアトツギの最大の責任です。

まずは、次回の会議で、親戚役員に対して「今期の数値目標とその達成状況」を、他の役員と同じように報告してもらうことから始めてみませんか。その小さな一歩が、健全な組織へと変わる転換点になるはずです。

次回のブログでは、アトツギが直面する「株式集約の課題」についても触れていきたいと思います。もし具体的なご相談があれば、いつでもお知らせください。