お問い合わせ
お問い合わせ

blog

経営録

2026.02.15

老舗企業が変われない理由|「今までこうだった」という言葉の呪いを解く

「新しいシステムを導入しようとすると、現場から強い反発にあう」

「時代の変化に合わせて業態を変えたいが、古参社員が首を縦に振らない」

「改革を叫んでも、最後は『今までこれでうまくいってきたから』という一言で片付けられる」

創業から長い年月を経て、地域や業界で信頼を築いてきた老舗企業ほど、変化に対する心理的な障壁は高く、強固です。先代から受け継いだ伝統や成功体験は、企業の誇りであると同時に、時に進化を阻む「呪い」の言葉となって組織を縛り付けます。

結論から申し上げます。老舗企業が変われないのは、現場が怠慢だからではありません。過去の成功体験という名の「安全地帯」から抜け出すことへの恐怖と、変化の目的が共有されていないことによる「防衛本能」が原因です。

本記事では、老舗企業特有の「停滞の正体」を解き明かし、組織を縛る言葉の呪いを解いて、持続可能な変革を促すための具体的なステップを解説します。

老舗組織を縛り付ける「伝統」という名のバイアス

老舗企業が新しい一歩を踏み出そうとする際、必ずと言っていいほど「今までこうだった」という壁にぶつかります。この言葉の裏には、組織を動かなくさせている3つの構造的なバイアスが潜んでいます。

成功体験のサンクコスト(埋没費用)

長年そのやり方で利益を出し、暖簾を守ってきたという自負は、組織にとって大きな財産です。しかし、それが強すぎるあまり、「やり方を変えること=過去の自分たちの全否定」と捉えてしまう心理が働きます。過去に投じた多大な努力や時間への愛着が、合理的ではない現状維持を選択させてしまうのです。

暗黙のルールの固定化

老舗企業には、明文化されていない「暗黙の了解」が無数に存在します。「この仕事はこの順番でやるもの」「この件はあの人に聞くもの」といった習慣が、疑う余地のない「真理」として定着しています。外部環境が激変していても、内側のルールを疑うことがタブー視される空気が、組織の感度を鈍らせます。

変化に対する「学習性無力感」

かつて改革を試みて失敗した、あるいは声を上げたが潰されたという経験を持つ社員がいる場合、「どうせ言っても変わらない」という無力感が組織全体に蔓延します。この冷笑的な態度は、ポジティブな変化の芽を摘み取る最強のブレーキとなります。

「今までこうだった」の呪いを解く3つの処方箋

現場の反発を力技でねじ伏せても、組織は変わりません。重要なのは、彼らが抱いている「過去への敬意」を保ちながら、新しい未来へと視線を向けさせることです。

1. 伝統の「形式」ではなく「精神」を定義し直す

「今までこうだった」という言葉が出るのは、守るべき対象を間違えているからです。例えば、和菓子屋が「木型を使って手で作る」という形式に固執して倒産しては意味がありません。守るべき本質は「お客様に季節の喜びを届ける」という精神です。

「私たちが守るべき精神を実現するために、今の時代に最適な形式は何だろうか?」と問い直すことで、伝統を維持しながら手法を刷新する論理的な道筋が作れます。

2. 「現状維持」のリスクを可視化する

人は「変化による損失」には敏感ですが、「現状維持による損失」には無頓着です。今のやり方を続けた場合、3年後、5年後に利益がどう減り、雇用がどう危うくなるのか。あるいは競合他社がどのような進化を遂げているのか。

感情論ではなく、残酷なほどの「事実と数字」を突きつけることで、「変わらないことこそが、最も暖簾を傷つけるリスクである」という共通認識を作ります。

3. 「小さな成功(クイックウィン)」を積み上げる

いきなり全体を変えようとすると、組織は拒絶反応を起こします。まずは特定の部署や、限定的な業務において、新しい手法を試し、目に見える成果を出します。

「新しいやり方に変えたら、残業が減った」「お客様から新しい層の注文が増えた」。こうした小さな事実の積み重ねが、「変わることは怖くない」という安心感を組織に広めていきます。

改革を定着させるための「対話」の質

組織文化を書き換えるのは、制度ではなく「対話」です。経営層が現場に対してどのような姿勢で向き合うかが、変革のスピードを左右します。

現場の「言い分」を徹底的に聴く

新しい方針を伝える前に、まずは現場が「今までこうだった」と主張する背景にある苦労や工夫を、経営層が徹底的に聴き、肯定します。「皆さんがこれまでこのやり方で暖簾を守ってきたことは、誰よりも理解している」という承認があって初めて、現場は新しい提案を受け入れる余地を持ちます。

共通の敵、または共通の理想を設定する

社内での対立(経営層vs現場)を避けるために、視点を外に向けます。共通の敵は「時代に取り残されること」であり、共通の理想は「100年後の後輩たちに、この会社を良い形で引き継ぐこと」です。

「私たちが戦っているのはお互いではなく、外の変化である」という構図を明確にすることで、組織に一体感を持たせます。

1on1での「不安」のデトックス

大規模な説明会だけでは、個人の不安は解消されません。1on1ミーティングなどを通じて、「新しい仕組みになったら、自分の価値がなくなるのではないか」という個人の本音を拾い上げます。一人ひとりの役割を再定義し、新しい環境での活躍の場を保証することが、変化への抵抗を最小限に抑えます。

仕組みに「新しい風」を埋め込む

意識改革と並行して、組織の構造自体を変える外科的な処置も必要です。

外部の血を入れ、異質な価値観を混ぜる

老舗企業に欠けているのは「外の視点」です。中途採用を積極的に行い、異なる業界の成功体験を持つ人材をチームに加えます。「うちの当たり前は、外では当たり前ではない」という事実に日常的に触れる環境を作ることで、硬直化した思考をほぐしていきます。

評価基準を「成果」と「挑戦」にシフトする

「長くいること」「波風を立てないこと」が評価される仕組みのままでは、誰も変革に挑みません。失敗したとしても、新しい試みをしたことを高く評価する。あるいは、既存業務の効率化を評価する。

「変わる人が得をする」仕組みを明確に示すことで、社員の行動変容を促します。

デジタル化を「手段」として使い倒す

IT導入を目的化してはいけません。あくまで「伝統を守り、精神を磨く時間を作るための道具」として位置づけます。面倒な手作業を自動化し、生まれた時間で「よりお客様に喜ばれる工夫」を考える。デジタル化が自分たちの仕事を楽にし、価値を高めるものだと実感させることが重要です。

まとめ:変革とは「暖簾の磨き直し」である

「今までこうだった」という言葉は、本来、先人たちが積み上げてきた知恵の集積です。しかし、それを「変化しないことの言い訳」にしたとき、伝統は毒に変わります。

老舗企業の変革とは、過去を捨てることではありません。

過去から受け継いだ大切な核(コア)を見極め、それを現代の、そして未来の顧客に届けるために、古くなった外装を剥ぎ取り、磨き直す作業です。

  1. 過去の成功体験への敬意を払いつつ、現状維持のリスクを共有する。
  2. 手法(形式)の変更を、精神(本質)を維持するための攻めの選択と定義する。
  3. 小さな成功を積み上げ、「変わることの喜び」を組織に浸透させる。

経営者の役割は、現場を批判することではなく、社員が「今まで」という呪縛から解放され、誇りを持って「これから」を語り合える場を作ることです。

あなたの会社が守り続けてきたその素晴らしい価値を、次の100年に繋げるために。

今日、「当たり前」だと思っているその一歩を、あえて疑うことから始めてみませんか。

変革の先にこそ、真に強い「老舗」の姿があるはずです。