「最近、社員の顔が暗い。会議をしても意見が出ない」
「指示したことはやるが、それ以上のプラスアルファが全くない」
「離職者が続き、社内にどんよりとした空気が漂っている」
経営者として組織を率いていると、ふとした瞬間に「組織の空気が重い」と感じることがあります。多くの場合、社長は「社員に当事者意識が足りないせいだ」と考え、社員は「社長が現場を分かっていないせいだ」と不満を募らせます。
結論から申し上げます。組織の空気が悪いのは、誰のせいでもありません。社長と社員の間に横たわる「視座のズレ」が放置されていることが原因です。
このズレは、立場の違いから生じる必然的なものです。しかし、それを放置すれば組織はバラバラになり、生産性は低下し続けます。本記事では、組織の空気を悪化させている「視座のズレ」の正体を解明し、どうすればその溝を埋めて、一枚岩の組織に再生できるのかを具体的に解説します。
視座のズレの正体|「山頂の景色」と「麓の道」
社長と社員では、見ている景色が根本的に異なります。この違いを理解することが、組織改善の第一歩です。
社長は「未来と全体」を見ている
社長の視座は、いわば山の頂上にあります。常に3年後、5年後の「未来」を見据え、会社全体の収支や業界の動向という「全体」を俯瞰しています。社長にとって、現在の苦労は未来の成功のためのステップに過ぎません。だからこそ、「なぜこんなチャンスが見えないんだ」「もっとスピードを上げろ」と焦りを感じます。
社員は「現在と詳細」を見ている
一方で、社員の視座は山の麓、目の前の道にあります。彼らにとって重要なのは、「今日のタスクをどうこなすか」「目の前の顧客をどう満足させるか」という「現在」と「詳細」です。日々、泥臭い現場のトラブルや人間関係に対応している彼らにとって、社長の語る壮大なビジョンは、時に「地に足の着いていない理想論」に聞こえてしまいます。
この「見ている範囲と時間軸の差」こそが、コミュニケーションのすれ違いを生み、組織の空気を停滞させる最大の要因です。
組織の空気を悪くする「3つのズレ」
視座のズレは、具体的に以下の3つの現象として現れます。
1. 目的のズレ:何のために働いているのか
社長は「理念の実現」や「社会貢献」を語りますが、社員は「生活のため」「給料のため」という現実を抱えています。
社長が理念を強調しすぎるあまり、現場の苦労(BI)を労わなければ、社員は「結局、社長は数字しか見ていない」と心を閉ざします。逆に、社員が目先の利益だけを追えば、社長は「志が低い」と失望します。
2. 危機感のズレ:なぜ今、変わらなければならないのか
社長には「今変わらなければ5年後に会社が危ない」という強い危機感があります。しかし、毎月の給与が保証されている社員にとって、その危機感はリアリティがありません。「今のままでも回っているのに、なぜ面倒な改革をするのか」という心理的抵抗が、組織の空気を重くします。
3. 情報のズレ:見えている情報の圧倒的な差
社長は会社の全情報を把握していますが、社員に届くのはその一部です。
「なぜあの事業を撤退させたのか」「なぜあの中途採用が決まったのか」。決定の背景にある「思考のプロセス」が共有されないと、社員は経営判断を「独断」「不透明」と感じ、不信感を募らせます。
社長の視座を「降ろす」のではなく「橋を架ける」
組織を改善しようとして、社長が社員の視座に合わせて「現場の細かいこと」に口を出しすぎるのは逆効果です。社長は山頂にいていいのです。大切なのは、山頂と麓を繋ぐ「橋」を架けることです。
1. 「なぜ(Why)」の共有を徹底する
指示を出す際に、手段(What)だけでなく、必ずその背景にある目的(Why)を伝えます。
「このツールを導入しろ」ではなく、「このツールを導入することで、君たちの事務作業が1時間減り、その分をお客様との対話に充ててほしいからだ」と伝えます。現場の「現在」と社長の「未来」を繋げる言語化が必要です。
2. 現場の「痛み」に共感する
社員が「社長は私たちのことを分かってくれている」と感じるには、経営者が時折、麓まで降りていく必要があります。
ただし、現場に指示を出すためではなく、現場の「痛み」や「困りごと」を聴くために降ります。
「今、一番仕事でストレスを感じていることは何?」「何があればもっとスムーズに進む?」
この問いかけと、それに対する具体的な改善アクション(制度変更など)こそが、組織の不信感を一掃する特効薬になります。
3. 中間管理職を「翻訳家」として育てる
社長と現場を繋ぐ最大の橋は、中間管理職です。彼らが社長のビジョンを「現場の言葉」に翻訳し、現場の課題を「経営の言葉」に翻訳して社長に届ける。
この翻訳機能が麻痺している組織は、必ず空気が悪くなります。中間管理職に対して、「社長の想いを伝える役割」を明確に期待し、教育することが不可欠です。
理念を「お題目」から「判断基準」へ
組織の空気が悪い会社ほど、理念が額縁の中で眠っています。視座のズレを埋める究極のツールは、共通の物差しである「理念(MI)」です。
社長も社員も「理念」に従う関係
社長が「私が社長だからこうしろ」と言うのは、力による支配です。これでは社員は萎縮します。
代わりに、「理念に照らすと、この判断が正しいと思うがどうだろう?」と問いかけます。
社長も社員も、同じ理念という主君に従う「同志」であるという関係性を再構築します。
小さな「理念体現」を称賛する
現場の社員が、理念に沿った素晴らしい行動をしたとき、社長はそれを絶対に見逃さず、全社員の前で称賛してください。
「あの接客こそが、うちの理念の体現だ」
社長が何を見ているか、何に価値を置いているかを具体例で示すことで、社員の視座は自然と引き上げられ、組織にポジティブな循環が生まれます。
まとめ:風通しの良さは「情報の透明性」から生まれる
組織の空気が悪いのは、誰かが悪意を持っているからではありません。お互いに「見えている景色が違う」ことによる、すれ違いの積み重ねです。
経営者であるあなたがすべきことは、社員を責めることでも、自分を責めることでもありません。
「今、山頂からはこんな景色が見えている。麓はどうだい?」と、対話を始めることです。
- ビジョンの背景にある「想い」を言葉にし続ける
- 現場の苦労に対する「想像力」を持ち、感謝を伝える
- 決定事項だけでなく「思考のプロセス」をオープンにする
情報の不透明さが「不安」を生み、不安が「沈黙」を生み、沈黙が「空気の悪さ」を作ります。
まずは、あなたが一番信頼している社員を一人呼び、最近の現場の「本音」をじっくり聴くことから始めてみてください。その小さな対話が、組織に新しい風を吹き込むきっかけになります。
