1.地方企業こそ管理職候補を本気で採用すべき理由
地方企業にとって、人材不足は避けて通れない深刻な課題です。新卒・中途を問わず「採用活動に苦労している」「地元で働きたい人材が少ない」といった声は多く、さらにようやく採用できても「即戦力になる人材がいない」「管理職候補を育てる時間がない」という悩みが後を絶ちません。
特に「任せられる人材」をどう確保するかは、企業の成長や事業継続を左右する重要テーマです。ここで言う「任せられる人材」とは、単にスキルや経験が豊富なだけではなく、企業の方向性やビジョンを理解し、自ら判断してチームを引っ張っていけるリーダー候補のこと。
都市部の大手企業であれば、十分な報酬や多様なキャリアパスを提示して優秀な人材を呼び込むことが可能ですが、地方企業の場合は必ずしも同様にはいきません。給与や福利厚生だけで比較されると、大企業に勝てないケースも少なくないでしょう。しかし、そこに「ビジョン」という魅力を掛け合わせることで、給与面だけでは測れない強みを発揮できる可能性があります。
本記事では、地方企業が管理職候補を採用するうえで大切となる「待遇xビジョン」の考え方を軸に、どうすれば「任せられる人材」を採用し、長期的に活躍してもらえるのかを探ります。
2.なぜ「待遇」だけでなく「ビジョン」が必要なのか
2-1.待遇だけではミスマッチを防げない
もちろん、給与・福利厚生・働きやすい環境など、待遇面の充実は採用時の重要な要素です。人材不足が深刻化するなか、魅力的な条件を提示して初めて候補者の興味を引き、面接へとつなげられる場合も多いでしょう。特に管理職候補に対しては、部下をマネジメントする責任やプレッシャーがかかるため、相応の待遇が整っていないと、採用のハードルが上がるのは事実です。
しかし一方で、待遇だけを軸に採用した場合は、以下のようなリスクが生じやすくなります。
- ミスマッチ:給与水準だけで転職先を選んだ人材は、企業のカルチャーや方向性に合わないと感じたときに退職しやすい
- モチベーション維持の難しさ:お金が目当てで入社した場合、やりがいや自己実現が伴わないとモチベーションを保ちづらい
- 長期活躍が望めない:地方企業の文化やビジョンに共感していなければ、数年後には再び都心部や別業界へ流出する可能性が高い
こうしたリスクを回避するためにも、企業と人材の相性を深いレベルで繋ぎとめる要素が不可欠となります。それが「ビジョン」の存在です。
2-2.ビジョンがもたらす「採用ブランディング」の効果
ビジョンとは、企業が将来に向けてどうありたいか、どのような社会的価値を生み出したいかを示す方向性です。待遇だけでなくビジョンを明確に打ち出すことには、以下のメリットがあります。
- 採用ブランディングの向上
- 「当社はこういう将来像を描き、地方からこんな変革を起こしたい」といったメッセージは、多くの人の興味を引きます。特に近年の求職者は、給与や安定性だけでなく「社会的意義」や「企業のミッション」に共感して転職先を選ぶ傾向が強いです。 - 長期的な定着を促す
- ビジョンを共有することで、「自分はこの会社でこんな未来を実現したい」という納得感を得た人材が集まりやすくなります。納得感があれば、待遇面で多少のギャップがあってもモチベーションを保ちやすく、結果的に定着率が上がるケースが多いです。 - 地方企業の魅力を明確に伝えられる
- 地方企業には「地域密着の強み」や「地元経済を支える使命感」といった独自の魅力があります。ビジョンとしてこれを打ち出せば、都心部では得られないやりがいや貢献意識を求める人材を惹きつけることが可能です。
3. 「待遇×ビジョン」で管理職候補を採用する具体的ステップ
では、地方企業が実際に「待遇xビジョン」というアプローチで管理職候補を採用するには、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。ここでは、大きく4つに分けて解説します。
3-1. ステップ①:経営者自身がビジョンを再定義する
まず、経営者や経営幹部が自社のビジョンをどこまで明確に言語化できているかを振り返りましょう。地方企業の場合、創業当初の理念や社是が存在しているケースは多いものの、「時代や事業環境の変化に応じてアップデートされていない」「社内外にうまく伝わっていない」といった問題が生じがちです。
- 例:地元の農産物を活用した食品加工事業
- 創業期:地域の農家を支えたい、雇用創出を行いたい
- 現在:事業拡大で全国展開を目指しつつ、地元特産品のブランド力向上を図りたい
このように、当初の理念を大切にしつつも、現在の経営環境や将来像に合ったビジョンへ再定義する作業が必要です。そのうえで、「ビジョン実現のために、どんな管理職候補が必要か」を明確にします。
3-2. ステップ②:採用要件を“ビジョン視点”で作り込む
ビジョンが明確になったら、採用要件を整理します。例えば、採用サイトや求人票に書く際には、スキルや経験年数といった定量的な条件だけでなく、ビジョンに沿った人物像や価値観を示すことが重要です。
- 従来の書き方:
- 「管理職経験3年以上、組織マネジメントができる人材」
- ビジョン視点を取り入れた書き方:
- 「地域×○○の未来を創るプロジェクトをリードしていただきます。自ら目標を設定し、仲間を巻き込みながら成果を出せるリーダーを募集しています」
このように、企業の将来像と管理職候補に期待する役割をセットで記載することで、求職者は「この会社のビジョンに自分のキャリアや思いを重ね合わせられるか」を判断しやすくなります。
3-3. ステップ③:待遇条件とビジョンを“セット”で提示する
地方企業の多くは、都市部の大手企業と比べたときに給与水準がやや低い場合があります。だからこそ、採用活動では待遇とビジョンをセットにして訴求することが大切です。「多少給与が高い企業が他にもあるかもしれないが、自社ならこれだけ明確なやりがいと成長機会を得られる」というストーリーを描けるかがポイントです。
- 具体例:
- 給与・待遇面
- 管理職ポジションとして年収××万円~××万円を提示
- 地方ならではの生活支援(社宅、赴任費用補助)や通勤手当なども整備
- ビジョン・役割期待
- 「3年後には新規プロジェクトをリードし、地域ブランドの確立に貢献するポジションを担ってほしい」
- 「地元の農家さんや自治体と協力し、業界を超えた連携を実現してほしい」
- 給与・待遇面
このように、単に“お金”や“福利厚生”の良さだけを強調するのではなく、“将来的に任せたい役割”と“企業が目指す未来”を組み合わせて伝えることで、求職者にとって「自分だからこそ実現できることがあるかもしれない」と思ってもらえる可能性が高まります。
3-4. ステップ④:面接・オファー段階で「腹を割った」コミュニケーションを
最終的には、面接やオファー面談の場で候補者と腹を割った話ができるかどうかが鍵です。特に管理職候補は、「自分が経営層とどれだけ相性が良いか」「自分のやりたいことが本当に実現できる環境か」を見極めるため、経営者や役員との対話を非常に重視します。
- 具体的な話題例
- 会社が直面している課題をあえて共有する
- 「地元の企業連合で進めたい事業があるが、人材もノウハウも不足している。そこを任せたい」
- 「今は売上が伸び悩んでいるが、新規事業で巻き返す計画がある」
- 失敗事例やリスクの説明
- 「以前、管理職採用で失敗した事例がある。理由は○○で、今回はそこを改善したいと思っている」
- 「資金繰りに余裕があるわけではないが、投資する価値を感じる部門には積極的にリソースを割りたい」
- 候補者のキャリアビジョンとのすり合わせ
- 「あなたがこの会社で3年後、5年後にどうなっていたいか」
- 「地元のために何を成し遂げたいか。それを実現するにはどんなサポートが必要か」
- 会社が直面している課題をあえて共有する
こうした率直なコミュニケーションを通じて、お互いが“自分にとっての合意点”を見つけられると、採用後のミスマッチを防ぎ、長期的な活躍へとつなげやすくなります。
4. 地方企業ならではの「任せられる人材」を惹きつけるポイント
ここまで「待遇×ビジョン」の軸で管理職候補を採用するステップを解説しました。続いては、地方企業ならではの魅力を具体的に打ち出す際のポイントをいくつか挙げてみます。
4-1. 「地域密着」「地域課題解決」のストーリー
地方企業には、大都市圏にはない地域ならではの課題やニーズが存在します。インフラの老朽化や過疎化、一次産業の後継者不足など、大小様々な課題に取り組む意義は非常に大きいものの、リソース不足などで満足な成果を出せていないケースもあるでしょう。
しかし、こうした地域課題こそが“挑戦の余地”であり、マネジメントを任せる人材にとっては大きなやりがいになります。特に「社会貢献」や「ローカルコミュニティへの愛着」に高い関心を抱いている求職者は、「自分がリーダーとして、この地域の未来を変えられるかもしれない」というビジョンに強く惹かれるのです。
4-2. 経営者との距離の近さ
大企業や都市部の企業では、部署が多層化しており、管理職といっても経営層からはかなり下位階層に位置付けられることも多いです。一方、地方企業は組織規模が比較的小さい場合が多く、社長や役員との距離が近いというメリットがあります。
- 経営の意思決定に直接関われる
- 自分のアイデアや意見がトップに届きやすい
- 短期間で大きな裁量を得られる可能性がある
「単なる管理職」ではなく、「企業全体を動かしていくコアメンバーになりたい」という意欲的な人材にとっては、地方企業のこうした環境は大きな魅力です。
4-3. ワークライフバランスや自然環境の恩恵
地方ならではの魅力として、生活コストの低さや自然に囲まれた環境も挙げられます。リモートワークとの組み合わせやサテライトオフィスの活用などで、地方暮らしのメリットを求職者にうまくアピールする企業も増えています。
特に管理職候補クラスの人材は、キャリアと生活のバランスを重視する傾向も強まっています。「家族とともに落ち着いた環境で暮らしながら、思い切り仕事に取り組みたい」というニーズがある人に対して、地方は大きなアドバンテージになり得るでしょう。
5. 採用後のオンボーディングと中長期育成が鍵
「待遇×ビジョン」の軸で優秀な管理職候補を採用できたとしても、そこから先のオンボーディング(組織への順応)や中長期的な育成をおろそかにすると、せっかくの人材が力を発揮しきれないまま離職する可能性があります。以下のポイントを押さえて、採用後の定着と活躍をサポートしましょう。
5-1. 明確な役割付与と目標設定
採用時に「あなたには〇〇を担ってほしい」と期待役割を示したなら、入社後もその役割を具体的なKPIやプロジェクトに結びつけることが大切です。たとえば、「3年後には新規事業を安定稼働させる」という目標を設定するだけでなく、「初年度は××の施策を行い、売上△%増を狙う」「2年目はチームを拡大し、営業エリアを広げる」など、段階的なロードマップを用意しましょう。
5-2. 組織文化や地方特有の慣習に慣れるサポート
地方企業ならではの人間関係や地域コミュニティの独自ルールなど、外部から来た管理職候補が戸惑う要素は少なくありません。社内の文化や地域の慣習を丁寧に説明し、周囲とのコミュニケーションをサポートする体制が必要です。
- メンター制度や相談窓口の整備
- 地域の行事や自治体との関わり方をレクチャー
- 社員同士の交流イベントや雑談の場を定期的に設ける
こうした取り組みを通じて、「よそ者」扱いされる期間を最小限にし、早期にチームの一員として馴染んでもらうことができます。
5-3. 経営層との定期対話でビジョンをアップデート
管理職候補といえど、入社してすぐに企業文化や経営方針を完璧に理解できるわけではありません。むしろ、外部視点だからこそ気づける課題や改善点を共有してもらうために、経営層との定期的な対話を大切にしましょう。
- 四半期ごとに1on1で経営者と課題共有する
- ビジョンの再確認や進捗評価を行い、必要に応じて柔軟に方針転換
- 外部ネットワークや自身の経験を活かした提案を奨励する
こうしたコミュニケーションを怠ると、採用後に「思っていたのと違う」「経営者はビジョンを実行する気がないのでは」と候補者が感じ、モチベーションが下がるリスクが高まります。定期対話を重ねてこそ、採用時に掲げた「待遇×ビジョン」が企業と人材の両者にとって現実的な成功ストーリーへ育っていくのです。
6. まとめ:「待遇×ビジョン」で地方企業ならではのリーダーを育てよう
地方企業が管理職候補を採用する際に苦戦する原因は、「大企業との給与格差」「募集人数の母数の少なさ」など、外部要因が大きいかもしれません。だからこそ、給与や福利厚生といった待遇だけで勝負するのではなく、“企業のビジョン”を明確に打ち出してアピールすることが重要になってきます。
- 給与や働きやすさは最低限の条件として整備しつつ、「この会社なら○○ができそうだ」と将来の可能性を感じてもらう
- 地域の課題解決や社会的意義、経営者との距離の近さなど、地方企業ならではの強みを提示する
- 採用後も、オンボーディングや定期的な対話を通じてビジョンをアップデートしながら中長期的に活躍をサポートする
こうしたアプローチを実践すれば、外部からの即戦力を呼び込めるだけでなく、社内に新しい風をもたらし、組織全体がビジョンへ向かって再び走り出す機会にもつながるでしょう。
優れた管理職候補が入り、彼らが主体的に動き始めれば、地方企業であってもイノベーションを起こす余地は十分に存在します。むしろ、限られたリソースのなかで思い切った挑戦が可能な点や、地域コミュニティとの結束力を活かせる点などは、大企業や都市部にはない強みと言えます。
「待遇xビジョン」という二つの要素をしっかりと掛け合わせた採用活動で、任せられる人材を着実に獲得し、会社の未来をともに創り上げていく──その一歩が、地方企業全体の活性化とさらなる飛躍に繋がるはずです。ぜひ自社の採用戦略を改めて見直し、採用ページや求人票、面接フローの中でビジョンをどのように提示すべきか、具体的に検討してみてください。