メールよりもスピーディにやり取りができ、ちょっとした業務連絡や相談など、あらゆる情報を簡潔に交わせる利点がチャットにはあります。しかしその一方で、文章だけのやり取りであるがゆえに、相手を不快にさせてしまうリスクや不安を生む要素も潜んでいます。
本記事では、「何についての話題なのか明記する」「相手が知りたい情報を網羅する」「不安要素を未然に解消する」という3つのポイントを中心に、相手を不快にさせないチャットコミュニケーションのコツを詳しく解説します。個人でも組織でも活かせる内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
1. チャットコミュニケーションが増えた背景と課題
1-1. リモートワーク・オンライン会議の普及
コロナ禍を経て、多くの企業がリモートワークやオンライン会議を積極的に取り入れるようになりました。オフィスでの対面コミュニケーションが減る中で、SlackやTeams、Chatworkなどのチャットツールが必須となり、日々の業務連絡から相談、雑談まで、チャットを使う頻度が爆発的に上昇しています。
この変化は大きなメリットをもたらす一方、「口頭で済んでいたことを文章で正確に伝えなければならない」「相手が忙しいかどうか分からない状態でメッセージを送る」という新たな悩みを引き起こしています。文章だけではニュアンスや表情が伝わりにくいため、意図せず不快感を与えてしまうケースも出てきます。
1-2. オンラインコミュニケーションならではのリスク
対面であれば、表情・声のトーン・その場の空気感などから、相手の反応を察してすぐ修正したり、フォローしたりできます。しかしチャットでは、その場の感情や相手の状況が見えにくく、余計な誤解やストレスを生む可能性が高まります。
- 例: 絵文字やスタンプを多用しない人が、そっけなく見える
- 例: 相手が「OK」という短文を送ってきても、機嫌が悪いのか、忙しいのか、無関心なのか判別できない
このリスクを理解せずに同じ調子で文章を送ると、相手の不快感や混乱を招くことがあります。そこで、配慮あるコミュニケーションの方法を身につける必要があるのです。
2. 「話題の明記」「情報網羅」「不安解消」の3点が重要な理由
2-1. 何についての話題なのか明記する
チャットはメールよりスピーディなメリットがある反面、同じチャンネルやスレッドに多種多様な話題が混在しがちです。受け手は「何の話だろう?」と混乱するかもしれません。
また、誰に向けての連絡なのか、何が目的なのかが曖昧だと、必要な情報を得られず、相手が苛立つ原因になることも。従って、“何についての話題か”を最初に明確に書くことは、相手の頭の中で情報を整理するうえで非常に大切です。
- 例: 「【デザインA案のフィードバック依頼】」など、冒頭にカッコ書きで目的やテーマを示す
- 例: スレッド機能を使って、トピックを分ける
こうした工夫で、相手が「このメッセージはどの話題か」を一瞬で判断でき、ストレスが減るのです。
2-2. 相手が知りたい情報を網羅する
「○○の件どうなりましたか?」と質問するだけでは、相手も何を答えればいいのか詳しくイメージできない可能性があります。一方的な質問ではなく、相手が回答に必要な背景や前提をセットで書いてあげると、スムーズに会話が進みます。
- 悪い例: 「あのプロジェクト、納期どうですか?」
- 良い例: 「【プロジェクトXの納期確認】先日話していた顧客要望の追加は実装されましたか? あと1週間で最終チェックが必要ですので、現状の進捗と納期についてご教示いただきたいです」
後者のように、何を確認したいか&背景や期限をセットにして提示すると、相手は「ここが大事」と理解しやすい。結果、「すみません、何の話でしたっけ?」と聞かれずに済み、無駄なやり取りが減ります。
2-3. 不安要素を未然に解消する
チャットでのコミュニケーションでは、“本当にこれでいいの?”といった不安が残りやすいです。相手が不安を感じるのは、たとえば「この依頼、締切はいつ?」「もしできない場合はどうする?」などの疑問点が曖昧なままだから。
こうした不安を未然に取り除くには、想定される質問やリスクを先回りして書いておくことが有効です。
- 例: 「今週末までが期限ですが、難しい場合は早めに教えてください。もし無理なら来週頭にリスケ可能か、上司と相談しますね。」
- 例: 「このデータは機密情報ではありませんが、念のため社外共有は避けてください。必要があれば改めてパスワード付きで送付します。」
あらかじめ不安要素を消しておくと、相手の疑問も減り、スムーズで不快感のないやり取りが実現します。
3. 「何についての話題なのか明記」するテクニック
3-1. 【件名】や【冒頭タグ】の活用
チャットツールやメールにおいて、タイトル(件名)が書ける場合、ここに話題のキーワードや要旨を入れると分かりやすいです。
- 例: 「【デザイン案修正依頼】A案の配色について」
- 例: 「【重要】明日のプレゼン資料に関して」
また、Slackなどのメッセージでタイトルがない場合も、メッセージ冒頭に「(A案修正依頼)」などタグを付けておくと受け手がスレッド一覧で判別しやすくなります。
3-2. 1つのメッセージに複数トピックを入れない
複数の話題をひとつのメッセージに詰め込むと、相手が返信の優先順位を判断しづらくなり「後回し」にされるケースが増えます。理想は、トピックごとに別メッセージやスレッドに分けるか、一覧で明確に番号を振って箇条書きにすること。
- NG例: 「A商品の納期はいつ?あとB案件の予算どうなりました?そういえばCの件で先方から連絡来てましたか?」
- OK例:
- A商品納期確認: 次週中に確定可能ですか?
- B案件予算: 現在の上限は200万円で認識合ってます?
- Cの件: 先方にメールいただいていたか、ご状況教えてください
後者のように整理すると相手も「一つずつ回答すればいい」と分かり安心です。
3-3. 話題が複数ある場合はスレッド機能を使う
SlackやTeamsなどのツールにはスレッド機能がある場合が多いです。これを使わずにすべてメインチャンネルでやり取りすると、違う話題が混ざってカオスになります。
- 案: 「A案件用スレッド」「B案件用スレッド」を分け、そこに投稿することで、過去ログを辿りやすくなるし、周りのメンバーも関係ある話題だけ見ればいいので混乱を防止できる。
4. 相手が知りたい情報を網羅するコツ
4-1. “必要そうな回答項目”を想像して補足
相手が知りたいことを聞かれなくても先回りで提供すると、手間が減り、追加質問が少なくなるメリットがあります。「どうせ◯◯も聞かれるだろうな」と思うなら、最初から書いておくと良いです。
- 例: 顧客への進捗報告なら、「今週の進捗(何%達成か)、来週の予定、現状のリスク、対応策」などをまとめておく
4-2. 図やスクリーンショットも活用
特に作業内容やUIに関する話題は、文章だけだとイメージが伝わりにくいことも多いです。チャットツールが画像の貼り付けに対応しているなら、スクリーンショットや図解を挿入し、相手にビジュアルで伝えましょう。
- 例: 「今の画面はこんな感じです(添付画像)。この赤枠の部分を修正できればOKでしょうか?」
こうすることで、相手が認識違いを起こしにくく、不快感やストレスを減らせます。
4-3. 過去ログや関連情報のリンク
多くのチャットツールには、リンクを貼る機能(URL貼り付け)があり、Googleドキュメントや社内Wikiなどの資料への誘導が簡単です。相手が「その話って過去にどんな経緯があったんだっけ?」と迷う前に、関連ドキュメントのURLや過去のスレッドへのリンクを提示すると、情報探しの手間を省いてあげられます。
相手がやり取りの履歴を探す手間を省けるだけでも、コミュニケーション効率と快適度が大きく向上します。
5. 不安要素を未然に解消するテクニック
5-1. “~で大丈夫でしょうか?”と確認を添える
何かを依頼するときや提案するとき、相手が「それは難しい」と思ったり、「もう少し時間がほしい」と感じている可能性があります。そこで、結びに「この納期で問題なければ助かりますが、もし厳しそうならご相談ください」と一文を添えるだけで、相手の不安をリリースできる場合があります。
5-2. 締切や優先度を明示しておく
チャットだと、相手が急ぎかどうか分からず放置することもあります。スムーズなやり取りを願うなら、「本日の18時までにご回答いただけると助かります」「優先度は低めですが、今週中には…」といった形で期限や優先度を明確にしましょう。相手が計画を立てやすくなり、余計なストレスを与えずに済みます。
5-3. 可能な代替策を示す
相手が「それは厳しいな」と思う理由は時間やスキル、リソース不足など様々ですが、事前に「もし難しい場合は~」という代替策を提案できると、不安が減ります。
- 例: 「もしデザイナーさんが忙しいなら、簡易バージョンを私が作成してチェックしてもらう形でもOKです」
- 例: 「納期を2日延ばすことは可能なので、厳しそうな場合は遠慮なく言ってくださいね」
こうすることで、相手にとって「断りにくい」「どうしよう」といった心理的負担を軽減し、不快感が発生しにくい状態を作れます。
6. 「いつ、誰といる時でも言動の基準が変わらない」=態度の一貫性
6-1. 場面によって伝え方がブレないか?
チャットコミュニケーションでは、上司や同僚、外部のパートナーなど相手の立場が変わることがあります。そこで注意したいのは、「相手が上司のときだけ丁寧な言葉遣い」「同期のときはフランクすぎ」「クライアントには謎にカジュアル」など、極端に態度が変わると不快感を与える可能性があるということ。
もちろん、ある程度の敬語・フランクさの切り替えは必要ですが、根本的な敬意や明確性は共通して保つのが好ましいです。
6-2. 褒め方・指摘の仕方も一貫させる
仕事の進捗報告などで、先輩にはやたら丁寧に褒める一方、後輩には「いや、これダメでしょ」と冷たい口調……。こうしたダブルスタンダードを感じさせると、「人によって態度を変える嫌なやつ」と思われかねません。
常に「いいところは素直に褒める」「だめな部分は建設的に指摘する」というスタンスを持ち、チャットでもその方針を崩さないようにすれば、相手からの信頼が高まります。
6-3. 情報共有の基準も同じ
ある人には詳細に説明するのに、別の人には「自分で調べて」しか言わないなど、やり方が場面によってバラバラだとコミュニケーション格差が生まれ、不満や混乱を招くかもしれません。一貫した情報共有スタンス(例えば、必要最低限の前提知識は必ず書く)を自分のルールとして決めておくと、相手を不快にさせないチャットが実践しやすくなります。
7. まとめ:議事録もチャットも“コミュニケーションの基本”が同じ
本記事のタイトル「相手を不快にさせないチャットコミュニケーション」は、次の3つのポイントに集約されます。
- 何についての話題なのか明記する: チャットでも冒頭に【案件名】【件名】【要旨】を付ける、話題を複数混在させない、スレッド化する
- 相手が知りたい情報を網羅する: 質問や依頼をするときは、背景や期限、関連資料など必要な情報を先回りで提供
- 不安要素を未然に解消する: 代替策や確認手段を提示し、「どうしよう」と思わせないメッセージを書く
また、「いいところは褒める、だめなところは指摘する」「言動の基準が変わらない」上司やリーダーは部下や周囲から信頼され、コミュニケーションがスムーズになります。
この態度はチャット上でも表れ、常に筋の通ったメッセージを書き、相手がどう受け取るかを想像して言葉を選ぶことで、相手を不快にさせず、建設的なやり取りができるのです。
「たかがチャット」と思うかもしれませんが、リモートワークやオンライン業務が主流になるにつれ、テキストでのコミュニケーションが多くの仕事を左右するようになっています。メールに比べ軽快な利点がある一方、配慮のなさが際立つと相手に悪印象を与える危険も潜むため、今回紹介したポイントを意識して実践してみてください。
結果的に、よりスムーズな仕事の進行と周囲との良好な関係を築くことに繋がり、あなた自身の評価やキャリアにもポジティブな効果をもたらすはずです。今日からでも、チャットの書き方を少し見直してみませんか?「相手を不快にさせないコミュニケーション」は、あなたと相手の心地よい仕事時間を作り上げるための最善の一歩なのです。