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経営録

2025.05.14

理念は経営者が全力でプレゼンし続けてはじめて社員に伝わる

1. はじめに

企業や組織における「理念」「ビジョン」「ミッション」。これらは企業活動の最上位概念として位置づけられ、経営の方向性や存在意義を明確にするために定義されることがほとんどです。しかし、多くの現場では「理念は壁に掲げているだけ」「社員が覚えていない」「トップは語らないし、誰も気にしていない」という状況も珍しくありません。

実際、「理念を作りました。はい、終わり」というケースはとても多いのです。そこには経営者自身がその理念を本当に信じ、全力で語り続けるという姿勢が欠けています。どれだけ言葉を美しく整えたところで、経営者が心から信じられない理念は、社員にとっても“絵に描いた餅”にしか見えないのです。

2. 理念を「作るだけでは意味がない」とは?

2-1. 絵に描いた餅になってしまう

理念を一度策定して終わりにしてしまうと、往々にしてそれは机上の空論になりがちです。例えば、外部コンサルタントを入れて「これがうちの理念です」とかっこよくまとめ、パンフレットや社内ポスターに印刷しただけで完了…。

このままでは、実際に社員がそれを意識したり、日常業務に活かしたりすることは期待できません。

企業理念は本来、「この会社が何のために存在し、社会にどのように貢献し、社員はそれをどうやって実現するか」を示すもの。それが棚の奥にしまわれたままでは、会社全体の舵取りには全く貢献せず、社員も「自分たちに関係ない飾り言葉」として認識してしまいます。

2-2. 経営者自身が信じられない理念は伝わらない

どれだけ言葉が美しくても、経営者自身がその理念を心の底から信じていなければ、社員には何も伝わりません。「この理念はコンサルに作ってもらっただけで、実はあまりピンときていない」という状態では、経営者が語る言葉も空虚に聞こえてしまいます。

たとえ理念が多少カジュアルな言葉であったり、不格好な表現であったりしても、経営者が「これは自分たちの存在意義だ」と熱を込めて語れるのなら、そのほうがはるかに社員の心を動かす力を持つものです。

2-3. 作っただけでは、現場の日々の行動指針に結びつかない

理念は、本来“会社が目指す姿”や“行動の軸”として機能するはず。しかし、「作っただけ」では社員にとって具体的に何をどうすればよいかが不明確なままになります。「顧客第一」と書いてあっても、それが具体的にどんな行動を指し、どんな判断基準を示すのかが分からなければ、社員の日常業務に根付かないでしょう。

多くの企業が“理念を言葉として掲げる”だけで満足してしまいますが、そこから実践につなげるためのプロセスこそが本質的に重要なのです。

3. 理念こそ経営者が全力でプレゼンすべき理由

3-1. 企業の“根源的な想い”は経営者が最も深く理解している

理念の作成プロセスにおいては、社内や顧客との対話が大切とされますが、最終的に“どんな企業になりたいか”を決断するのは、やはり経営者が中心となるべきです。経営者ほど“企業の過去・現在・未来”を包括的に把握し、責任を持って舵を切る立場はいません。

経営者が自ら理念を紡ぎ出し、そこに自分の人生観やビジネス観、会社への想いを注ぎ込むからこそ、社員は「この理念は嘘ではない。トップが本気で考えている」と感じるのです。その“根源的な想い”を語るとき、最も力があるのは経営者自身なのは言うまでもありません。

3-2. “他の誰”が語るより経営者の言葉が重い

経営企画や人事部が「理念を語る会」を開くことも多いですが、社員からすると「それって経営の本音なの?」「トップは本当にそう思っているの?」と疑うケースもあります。経営者本人が登壇して自らの言葉で語るというだけで、言葉の重みや影響力は段違いです。

また、経営者が一貫して同じ理念を何度も何度も語り続けることで、社員は「この会社は本当にこれを大切にしているんだな」と認識し、“理念の嘘っぽさ”が解消されます。どんなに忙しくても、経営者が理念を語り続ける姿勢は、組織全体にとって大きなメッセージになります。

3-3. リーダーシップの源泉

ビジネス書でしばしば語られるリーダーシップとは、単に指示命令をすることではなく、「何のために存在し、どこへ向かうか」を示す力です。その“方向性”を伝える上で、理念はまさにリーダーシップの源泉となります。経営者自身が「こういう未来を作りたい、だからこの理念が必要なんだ」と説得力を持ってプレゼンできるとき、組織は自然とまとまっていくのです。

4. 経営者が心の底から信じられる理念を作るプロセス

4-1. 自分自身の人生観・仕事観を見つめ直す

理念を言葉としてまとめる前に、経営者自身が自分の根底にある価値観を内省する必要があります。「なぜこの会社を続けているのか」「社会にどう貢献したいのか」「どんな仲間と、どんな未来を創りたいのか」。そこを洗い出すことで、理念の核となる“想い”が定まっていくでしょう。

  • 幼少期の経験や、過去の挫折・成功体験は何だったか
  • どんな時に一番やりがいを感じるか
  • 社員や顧客に対して、どんなメッセージを伝えたいか

こうした要素を整理していくと、経営者が本当に大切に思う価値観が見えてきます。

4-2. 社内外からのインプットと対話を重ねる

経営者だけでなく、社員や顧客、パートナーと対話することで、組織全体が本当に必要としている共通価値を掘り起こすステップも重要です。もちろん、最終決定は経営者の責任で行いますが、その前に社員が感じている組織の強みや課題、顧客が望む企業像などを聞いておくと、理念に**“説得力”**が加わります。

  • ワークショップやインタビュー形式で社員の声を集める
  • 取引先や顧客へのアンケート、ヒアリングを実施
  • 経営陣だけでなく若手社員も含む横断的なチームで討論する

こうして多様な視点を取り入れつつも、最後は経営者が決断し、まとめ上げることで“統一感ある理念”を生み出せます。

4-3. 言葉選びはシンプルに

理念が固まってきたら、言葉として結晶化する段階に移ります。このとき大事なのは、シンプルで覚えやすい表現にすること。美しい言葉を並べて抽象度を上げすぎると、社員が具体的な行動に繋げづらくなります。

例えば、「私たちは顧客とともに未来を創造し、豊かな社会を実現する」という抽象的な文だけではなく、「顧客の声を聴き、最高の品質を常に追求しよう」「誰もがワクワクするサービスを生み出す」といった行動に結びつきやすい表現を添えると良いでしょう。

5. 経営者が全力でプレゼンし続けるとは?

5-1. 口先だけでなく“伝え方”に工夫を

「理念を語る」と言っても、ただ口頭で読んだり、朝礼で短く触れるだけでは響きにくいかもしれません。経営者が全力でプレゼンするとは、伝え方や演出を考慮し、社員が納得・共感できるよう工夫するということです。

  • ロードショー的に各拠点をまわり、直接語りかける
  • 社内イベントやキックオフで、ストーリーテリングを交えたプレゼン
  • 映像や資料を使い、理念に至るまでの背景と想いを解説

伝え方を多様化し、社員が理念に触れる機会を増やすことで、理解や共感が深まります。

5-2. 継続的かつ一貫性あるメッセージを

「一度だけ本気で語って終わり」では理念は浸透しません。経営者が繰り返し、異なるシチュエーションでも同じメッセージを発し続けることが大切です。

  • 週次や月次の定例会議の冒頭で短く理念をリマインドする
  • プロジェクトの立ち上げ時に、理念との関連性を示す
  • 成果が出た時に理念に沿った行動を称賛し、表彰する

社員は何度も同じ言葉を聞くことで、「トップは本当にこれを大切にしているんだ」と確信を持つようになります。一貫性があるからこそ、理念は形骸化せずに組織のDNAとなっていくのです。

5-3. 自らの行動で示す

言葉で語るだけでなく、経営者自身の行動こそが強力なメッセージとなります。理念に照らして判断を下し、自分自身が手本を示すことで、社員は理念が“本物”だと体感します。

  • 「顧客視点を徹底する」理念ならば、経営者が自ら顧客対応に出向く
  • 「挑戦する文化」を掲げるならば、経営者が率先して新しい施策を試み、失敗しても潔く認める
  • 「社員が主役」と歌うならば、社内のタレント育成や働きやすさ改革に真っ先に投資する

トップの行動こそ、最強のプレゼンテーションです。

6. 社員に理念が浸透したら起こる変化

6-1. 意思決定が早くなり、迷いが減る

理念が腹落ちしている組織では、社員一人ひとりが「この判断は理念に合っているか?」を基準に行動できます。これは意思決定の迷いを減らし、スピードアップをもたらします。上司に逐一確認せずとも、理念に沿った行動であれば認められる――そんなカルチャーが生まれれば、組織の自律性が高まり、生産性向上にも繋がるでしょう。

6-2. 社員同士の連帯感が高まる

同じ理念を共有していると、仲間意識が生まれやすくなります。部署を超えた協力や、困っている人をサポートする気風が育ち、社内コミュニケーションが円滑になるケースも多いです。離職率も下がり、社員エンゲージメントが向上することで、結果として業績面でもプラスになる可能性が高まります。

6-3. 採用や顧客にも効果を発揮

明確な理念を力強く発信している会社は、採用市場でも魅力的に映ります。求職者が「自分の価値観と合う会社だ」と感じれば、優秀な人材を引き寄せやすくなるでしょう。また顧客に対しても「この会社の理念が好き」という共感が得られ、ブランドロイヤルティを高める要素となることも考えられます。

7. 経営者が理念を語り続けるときの注意点

7-1. 大げさになりすぎない、嘘をつかない

理念を情熱的に語ることは重要ですが、大げさに誇張したり、実現不可能な空想を話したりすると、社員が現実味を感じられなくなります。誠実さを欠いたメッセージは逆効果で、「どうせ口だけでしょ」と思われかねません。

また、自社の実情とあまりにかけ離れた理念を掲げると、社員が「これは嘘っぽい」と感じ、むしろ反発を招く可能性もあるので注意が必要です。

7-2. 常にアップデートし続ける

理念は一度決めたら変えてはいけない、と思われがちですが、社会情勢や企業の成長段階によって微調整や進化をさせる場合もあります。もちろん、根本の価値観はブレずに維持しつつも、言葉や解釈を状況に応じてアップデートする柔軟性があってもよいでしょう。

経営者が繰り返しプレゼンする中で、社員から意見をもらい、「もう少しこういう表現のほうがしっくりくる」という改良を積み重ねることも、理念を“生きたもの”にする秘訣です。

7-3. 日常行動との矛盾を避ける

経営者が理念を熱弁している一方で、実際の経営判断や社員への対応がその理念と矛盾していると、社員の信頼を一気に失うリスクがあります。

例えば、「挑戦を歓迎する」と言いながら、失敗した社員を厳しく叱責するだけなら、理念との整合性がない。「社員を大切にする」と言いながら、給料カットや待遇改善を無視するなら、その言葉は響かない。

この矛盾を回避するには、経営者が理念に合致した行動を自ら実践し、組織内の制度や仕組みに反映させることが不可欠です。

8. まとめ:理念浸透の第一歩は、経営者の“全力プレゼン”

数ある経営課題の中でも、「理念の浸透」は多くの企業で軽視されがちです。経営者が経営数値や売上目標ばかりを追いかけ、理念を脇に置いてしまうケースが少なくありません。

しかし、そもそも「なぜ会社が存在し、何を目指しているのか」を社員全体で共有できていなければ、どんなに立派な戦略を掲げても組織はまとまりにくいのです。

  • 理念は作るだけでは無意味
    • “壁の飾り”になり、社員の意識に上らない
  • 経営者が心の底から信じられる理念を持つ
    • 自分の人生観・仕事観と結びついているからこそ、本気で語れる
  • 全力でプレゼンし続ける
    • 何度も何度も、シーンを変えて語る
    • 行動で示し、矛盾を排除する
    • 社員の腑に落ちるまで繰り返す

これらを踏まえて、経営者が率先して“理念の使徒”となり、強いメッセージを発信し続けることで、社員は初めて「この会社は理念を本気で大切にしているんだ」「自分もこの理念に共感したい」**と思うようになります。

理念が浸透すれば、組織の行動指針や意思決定が明確になり、社員同士の連帯感が高まり、ブランド力や社会的評価も向上するなど、多大なメリットが期待できます。経営者が全力でプレゼンし続けることこそが、理念浸透の“第一歩”と言えるでしょう。

もし今、理念が“存在はしているけれど社内では活用されていない”と感じている経営者の方がいれば、今こそ立ち上がりましょう。「自分がこの理念をどう信じているか、なぜこの理念が必要なのか」を、とことん言葉にし、社員に伝えてみてください。

最初は恥ずかしいかもしれませんが、そこにこそ会社の未来を変える大きな力が眠っているのです。