「若い力で会社を盛り上げてほしいから『20代歓迎』と書きたい」
「力仕事が多いので、体力のある『男性』を募集したい」
「アットホームな職場であることを強調して、とにかく安心感を与えたい」
良かれと思って書いたこれらの言葉が、実は法律違反(NGワード)になり、求人媒体への掲載を拒否されたり、最悪の場合は行政指導の対象になったりすることをご存知でしょうか。
結論から申し上げます。求人票には「書いてはいけないルール(差別禁止)」が存在しますが、その制約はライティングの工夫次第で、むしろ「ターゲットを絞り込み、自社の魅力を際立たせるチャンス」に変えることができます。
法律を守ることは守備ですが、その制限の中でターゲットに深く刺さる言葉を紡ぐのが攻撃のライティングです。本記事では、うっかり使いがちなNGワードの解説と、それをどう言い換えれば法律を遵守しつつ応募者の心を掴めるのか、その実践的なテクニックを解説します。
知らずに書くと危ない「求人票の3大NGカテゴリー」
求人票は「男女雇用機会均等法」や「雇用対策法」によって、門戸を広く開くことが義務付けられています。特に以下の3つのカテゴリーは、無意識に制限をかけてしまいやすいため注意が必要です。
1. 性別を限定する表現
「営業マン」「経理事務の女性」「主婦歓迎」「カメラマン」などはすべてNGです。業務内容が特定の性別に適していると考えていても、性別を理由に排除することは認められません。
- NG: 男性歓迎、女性向けの仕事、看護師(かつてはOKでしたが、現在は看護職など配慮が必要な場合も)、ウエイター
- OK: 男女不問、性別に関わらず活躍中
2. 年齢を限定する表現
「30歳まで」「若手中心の職場」「定年まで働ける若者」といった表記も原則禁止です。年齢に関わらず、能力のあるすべての人に機会を与える必要があります。
- NG: 20代歓迎、30代が活躍する職場、学生不可(年齢制限とみなされる場合がある)
- 例外: 長期勤続によるキャリア形成を目的とする場合(例外事由3号のイなど)や、定年年齢を上限とする場合は認められますが、非常に厳密な記載ルールがあります。
3. 特定の属性を排除・優遇する表現
出身地、身体的特徴、思想信条、あるいは「健康な方」といった表記も差別につながる恐れがあるためNGです。
- NG: 体力に自信のある方、地元の方歓迎、独身者歓迎、土日働ける方限定(宗教等の配慮に欠けるとみなされる場合がある)
- 注意点: 「地元の方」を優遇したい場合は、「転勤なし」や「地域に密着した仕事」という表現に留めます。
なぜ「NGワード」を避けると、求人の質が上がるのか
「法律が厳しくて、本当に来てほしいターゲットが呼べない」と感じるかもしれません。しかし、実はNGワードという「抽象的な表現」を封印されることで、求人票の「具体性」が劇的に向上し、結果としてマッチング精度が上がるのです。
例えば、「20代歓迎」という言葉を使わずに、20代の人を惹きつけるにはどうすればよいでしょうか。
「20代」という年齢そのものが欲しいのではなく、「新しいITスキルに抵抗がないこと」や「将来の幹部候補としてゼロから学び、長く働いてほしいこと」が本音のはずです。
その「本音(求める能力や状態)」を言葉に落とし込むことで、年齢という数字で区切るよりも、貴社の文化に合致した人材が引き寄せられるようになります。
NGワードの回避は、単なる法令遵守ではなく、**「自社が本当に必要としている人物像を言語化するプロセス」**そのものなのです。
【実践】魅力を120%伝えるための「言い換え」ハック術
では、法律の壁を乗り越えながら、ターゲットに「これは自分のための求人だ」と思わせるための具体的な言い換えテクニックを紹介します。
「年齢」の制限を「やりがい」と「環境」に変える
- NG: 30代までの若手歓迎!
- 変換: 「入社3年でプロジェクトリーダーへの抜擢実績あり。早期にキャリアアップを目指したい方を応援します」「最新のデジタルツールを導入しており、ITを活用した効率的な働き方を推奨しています」
- 効果: 年齢という枠ではなく「成長意欲」や「ITリテラシー」という基準で、ターゲットを絞り込めます。
「性別」の制限を「具体的業務」と「働き方」に変える
- NG: 男性歓迎(力仕事のため)、主婦歓迎(パート)
- 変換: 「20kg程度の荷物を運搬する作業があるため、足腰を動かす仕事に慣れている方が活躍しています」「急な休みや行事にも対応できるシフト制を採用。家庭と両立しながら働くメンバーが多数在籍しています」
- 効果: 「男性」「主婦」という属性ではなく、その仕事の「負荷」や「柔軟性」を伝えることで、属性に関わらずその条件で働きたい最適任者が集まります。
「アットホーム」という言葉を「事実」に変える
「アットホーム」はNGワードではありませんが、求職者から最も警戒される「死語」です。ブラック企業が実態を隠すために使う言葉だと思われているからです。
- NG: アットホームで家族のような職場です
- 変換: 「全社員が参加する月1回のランチミーティングでは、役職に関わらず意見を出し合います」「昨年の離職率は3%以下。10年以上勤務するベテランと若手がペアを組んで教える教育体制があります」
- 効果: 抽象的な言葉を「数字」や「エピソード(事実)」に置き換えることで、信頼度が格段に向上します。
ターゲットを「一本釣り」するためのライティング設計
法律を守りつつ、自社の魅力を最大化するには、求人票を「募集要項の羅列」ではなく、**「一人のターゲットに向けた手紙」**として設計する必要があります。
1. 「誰に」をペルソナレベルで特定する
性別や年齢が書けないからこそ、その人の「抱えている悩み」や「理想の未来」を想像します。
「今の職場は人間関係がギスギスしていて、正当な評価をされていないと感じている、学習意欲の高い人」
このようにターゲットを絞り込めば、自ずと言葉は変わります。
2. 「ベネフィット(利点)」を提示する
「仕事内容」を書く際、単なる作業手順ではなく、その仕事を通じて得られる「メリット」を書きます。
「図面通りに部品を作る仕事」ではなく、「世界シェアトップクラスの製品の一部を担い、高度な精密加工技術が身につく仕事」と書きます。
3. 「なぜ(理念)」を冒頭に持ってくる
条件面(給与・休日)で大手に勝てない中小企業こそ、冒頭に「なぜこの事業をやっているのか」という社会的な存在意義を熱く記述します。
「私たちは、地域の高齢者の孤独をなくすために、このサービスを始めました」
この「Why」に共感した人は、年齢や性別の制限がなくても、自ずと貴社の扉を叩きます。
最後にチェックすべき「表現の品格」
法律やテクニック以前に、求職者は求人票の「言葉遣い」から、その会社の知性や誠実さを読み取ります。以下の点に注意し、文章の校正を行ってください。
- 専門用語の使いすぎ: 業界外の人にもわかる言葉を使っているか?
- 上から目線の排除: 「~させてやる」「~してあげる」というニュアンスがないか?
- 情報の鮮度: 「設立〇〇年(去年のデータ)」など、古い情報のまま放置していないか?
求人票は、世界で一番読まれる「自社の紹介状」です。丁寧で熱意のある文章は、それだけで「この会社は人を大切にしている」という最強の求人広告になります。
まとめ:正しく言葉を尽くすことが、最高の採用戦略
求人票のNGワードは、制限ではありません。「属性で人を判断するな」という、より本質的なマッチングを求めるためのガイドラインです。
- 属性(性別・年齢)ではなく「能力」と「状態」を言葉にする
- 抽象的な形容詞(アットホームなど)を「事実」と「数字」に置き換える
- 「誰に何を伝えたいか」という物語を設計する
これらを意識するだけで、貴社の求人票は法律を守りつつ、魅力が120%伝わる「勝てる求人票」へと生まれ変わります。
言葉を一つ変えるだけで、出会える人材が変わります。
まずは今の求人票から「若手募集」という言葉を削り、その裏側にある「本当の願い」を書き込むことから始めてみてください。
