「心理的安全性」や「エンゲージメント」という言葉が組織運営のキーワードとして語られますが、その根底には、上司と部下の間に信頼関係があることが欠かせません。
本記事では、「いいところは褒める、だめなところははっきり指摘する、いつどこにいても言動の基準が変わらない」という上司像を中心に、“本音をさらけ出せる”上司と部下の関係が、なぜ人を惹きつけ、組織を強くするのかを掘り下げてみます。
1. なぜ「本音をさらけ出せる上司」に人はついてくるのか?
1-1. 本音を出せる環境がチーム力を高める
社員が“本音をさらけ出せる”状態とは、安心して自分の意見や悩みを口にできる環境を指します。職場でこれが実現すると、以下のようなメリットがあります。
- 問題解決がスピーディ: 悩みや不満を抱えたまま我慢しないので、トラブルがあっても表面化しやすく、早期に対処できる
- 創造的なアイデアが生まれやすい: 部下が「こんな提案をしたら笑われるかも」と恐れずに意見を言えるため、革新的な発想が出る
- チームの結束力が増す: 本音を言い合える関係性は相互理解を深め、メンバー間の信頼を強める
本音を出せない環境では、上司に合わせた表面上のコミュニケーションになりがちで、チーム内に閉塞感や建前の空気が漂い、結果としてモチベーションや生産性が下がってしまいます。
1-2. 上司の“本音をさらけ出す”姿勢が示す「本当の誠実さ」
部下が本音を言えるようになるためには、まず上司自身が自分の考えを正直に表明する姿勢が大事です。特に日本の組織文化では、上司が感情をあまり表に出さず、建前でやり取りするケースが多いですが、近年は「上司が素直に嬉しさや厳しさを伝える」「自分の悩みも共有する」といった“本音のコミュニケーション”のほうが部下に信用されやすい。
「好かれようとするだけでなく、だめなところははっきり指摘し、いいところは素直に褒める」――こうしたぶれない態度が部下に“あ、この人は信頼できる”と感じさせ、結果的に部下からついてこられる上司へと繋がるわけです。
2. 「いいところは褒める」「だめなところははっきり指摘」の真意
2-1. なぜいいところを褒める必要があるか?
人間は誰しも、「自分の頑張りや成果を認めてほしい」という欲求を持っています。上司として部下の“いいところ”を褒めることには、以下の意味があります。
- モチベーションUP: 部下が「自分は評価されている」と感じると、さらに努力しようという意欲が湧く
- 心理的安全性: 上司が部下の強みを認めてくれていると分かれば、部下は安心して自己表現できる
- 部下の強みを伸ばす: 正しく長所を見極めて褒めれば、それが部下の成長方向を定める一助となる
しかし、単に「すごいね」「助かったよ」など表面的な褒め言葉を乱発するだけでは、部下に「本音で褒めているのか?」と疑われる恐れがあります。大切なのは事実や行動の具体性を伴った褒め方です。
- 例: 「先日の企画書、アイデアAとデザイン面での工夫Bが素晴らしかった。おかげでクライアントもスムーズに納得してくれたよ」
2-2. “だめなところははっきり指摘する”がなぜ必要か?
いいところを褒める一方で、「だめなところははっきり指摘する」ことも不可欠です。特に、人は誰かからのネガティブな意見やフィードバックを怖れる傾向がありますが、上司がそれを中途半端にしか伝えないと、部下はいつまでも同じミスを繰り返し、成長機会を逃します。
- 例: 部下が毎回プレゼン資料のミスが多いのに、上司が「まあ、あとで直してあげるよ」と優しくフォローするだけだと、部下は自分の問題に気づかず、ずっと甘えが続く
ここで大事なのは、人格攻撃と行動批判を区別すること。「お前は本当にだめだ」ではなく「ここがこういう理由で良くない。だから次からはこのように工夫しよう」という具体的なフィードバックが部下の成長を促します。厳しい指摘でも、そこに相手への誠意や期待が滲んでいれば、部下は納得しやすいです。
2-3. 一貫性のある指導が信頼を生む
「いいところは褒め、だめなところは指摘する」と言っても、人によってはぶれがあったり、“好き嫌い”で態度が変わる上司がいます。強いリーダーシップを発揮するには、常に言動の基準が変わらない一貫性が重要。どの部下にも同じスタンスで接し、会社の理念や組織のルールに基づいて評価・指摘する姿勢が、部下から「この上司は平等だ」と信頼される要因となるのです。
3. 「いつ、誰といる時でも言動の基準が変わらない」とは?
3-1. ブレない判断基準=上司の“軸”
上司が場面や相手によって言うことがコロコロ変わると、部下は混乱します。「昨日は◯◯って言ってたのに、今日は△△と言っている。どうなってるんだ?」と感じたら、ついていく気が失せるでしょう。
一貫した態度を取るためには、上司自身が“軸”としての価値観や行動基準をしっかり持っていることが不可欠です。例えば、会社の理念やチームのビジョンを自分なりに咀嚼し、「自分はこういう判断を下す」というポリシーを明確化しておくことが大事。
3-2. 私的な付き合いでも同じスタンスを保つ
部下との接し方が、公の場(会議など)とプライベートや飲みの場でガラッと変わる上司に対しては、やはり部下が信用しにくい傾向があります。もちろん、リラックスした場では多少くだけたコミュニケーションがあってもいいですが、根底にある敬意や評価基準が変わってはいけません。
- 例: 会議中は“厳しめの指摘”をするくせに、飲み会では「いいよいいよ、そこはいいんだよ」など矛盾する態度を取ると、部下は「どっちが本音?」と感じる
3-3. 上下関係だけでなく、横や他部署との関係でも同じ
強い上司は、自分より上の役員や経営陣、他部署のマネージャーに対しても一貫した姿勢を持っています。言動の基準が変わらないので、上司としての立ち位置にブレがなく、部下も「どこへ行っても同じように振る舞っている」「裏表がない」と安心します。そういう上司には、自分も素直に本音を語れるわけです。
4. 本音をさらけ出せる上司になるための方法
4-1. 自己分析と価値観の明確化
まずは、上司自身が自分の価値観やビジョンを整理し、「この会社の理念とどこが共鳴しているのか」「自分が譲れないものは何か」をはっきり認識すること。自分の内面が曖昧なままだと、行き当たりばったりの対応になりがちです。
- 自己分析の例: 「自分はチームワークを何より大事に思っている。一方で、個人の裁量も重視したい」→ こうした価値観を言葉にして、部下とのコミュニケーションに生かす
4-2. 常にフィードバックと対話をセットで
「いいところは褒め、だめなところは指摘する」際に重要なのは、一方的なメッセージで終わらず、部下と対話し理解を深めることです。たとえば、
- まず事実や観察結果を伝える(例:「この前のプレゼンでスライドの構成が混乱してたように見えたよ」)
- 上司の見解や気持ちを添える(例:「だから、顧客が少し分かりにくそうだった…もったいないと感じた」)
- 部下の考えを聞く(例:「実際どうだったかな?上手くいかなかった理由はある?」「今、どんな気持ち?」)
- 一緒に解決策や次のステップを考える
こうしたプロセスを踏むと、部下は「ただ怒られて終わり」ではなく、「自分と上司で問題を共有して乗り越えよう」と感じられ、本音をさらけ出しやすくなります。
4-3. 感情を適切に表現する
上司も人間なので、怒りや喜びなどの感情を持っていますが、その感情を適切に表現できるかがポイント。
- 喜びや感謝はオーバーにでも言葉や表情で示す→ 部下が自分の行動が評価されると実感しやすい
- 怒りは問題の行動に対して向ける→ 人格攻撃にならないように注意し、「なぜこれがいけないのか」を具体的に説明
- 悲しみや悩みを共有する→ 時には上司が「実は今、自分もこういうところで悩んでいる」と本音を出すと、部下も「上司も人間なんだ」と安心して自分の悩みを打ち明けやすくなる
感情を押し殺して淡々としていては、「怖い」「何を考えているか分からない」という印象になるかもしれません。かといって感情を暴走させてはいけないので、コントロールしながら適度に出すバランスを意識しましょう。
4-4. 自分のミスや弱点もオープンにする
「本音をさらけ出せる」状態を作るには、上司自身が自分の失敗や苦手分野を素直に認め、「ここは君に助けてほしい」と部下に頼ることが効果的です。そうすることで、部下は「上司も完璧じゃないんだ」「一緒に協力していけるんだ」と安心し、自身の本音や不足部分も言いやすくなります。
5. 組織としてどうサポートすべきか?
5-1. 経営層が模範となる“経営理念”の実践
「上司に一貫性を求める」と言っても、企業トップや経営層の姿勢が一貫していなければ、中間管理職がどれだけ頑張っても矛盾が生じます。経営者自身が企業理念やビジョンを地で行く行動を示し、上司がそれを参考に“ぶれないスタンス”を育めるような文化を作る必要があります。
逆に上司が「何でも自分が正しい」「自分の弱みは見せない」という態度だと、部下は萎縮してしまい、本音を言おうとは思わなくなります。
5-2. 研修やワークショップで“本音のコミュニケーション”を体験
中間管理職を対象に、対面でのコミュニケーションスキルやフィードバック手法、チームビルディングを学ぶ研修を実施すると、理論だけでなく演習やロールプレイで“本音を引き出すやり取り”を体感しやすいです。
オンライン環境が増えているとはいえ、こうしたフェイス・トゥ・フェイスの研修は、本音が出やすい空気感を作りやすく、グループワークで「お互いに褒め合う・指摘し合う」練習を行うのも有効です。
5-3. 評価・報酬制度で“人材育成”を重視
管理職が「一貫性」「本音のコミュニケーション」を大切にするためには、それを評価・報酬制度で認める仕組みも必要です。たとえば、業績指標だけでなく、部下との関係構築やエンゲージメント向上を管理職評価の大きな要素として組み込むことで、上司が積極的に“本音のコミュニケーション”に力を入れるインセンティブが働きます。
6. まとめ:本音をさらけ出せる上司こそ、組織の力を最大化する
本記事のテーマである**「本音をさらけ出せる上司に人はついてくる」**を振り返ると、ポイントは以下の通りです。
- 「いいところは褒める」: 部下が自分の強みに気づき、やる気を高める
- 「だめなところははっきり指摘」: 部下が成長機会を得るために必要であり、曖昧にしないことで誠実さが伝わる
- 「言動の基準が変わらない(ぶれない)」: 誰といるときも同じスタンスを貫くことで、上司への信頼と安心感が醸成される
結果的に部下が「この上司は本音で向き合ってくれている」と感じれば、部下自身も本音をさらけ出して提案や相談ができるようになり、組織全体のクリエイティビティと一体感が高まります。
また、管理職自身が企業理念やビジョンを理解し、それを自分の言葉で語り、行動で示すことが不可欠です。どれだけスキルや実務能力が高くても、上司の言動に一貫性や誠実さがなければ、部下はついてこないでしょう。経営者や組織も、こうした上司を育成する仕組み――研修や評価制度、トップの模範的行動――を整えることが求められます。
「本音をさらけ出す」とは、単に弱みや悩みを開示するだけでなく、「いいことも悪いことも包み隠さず共有し、問題をチームで乗り越えようとする姿勢」に他なりません。そんな上司が増えれば、組織は相互信頼の高い、強いチームになり、成果を最大化できるのです。ぜひあなたも“本音をさらけ出せる上司”を目指し、部下に貢献しながら組織の成長をリードしてみてください。