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経営録

2026.02.11

年功序列からの脱却|古参社員のプライドを傷つけずに成果主義へ移行するには

「若手の抜擢を進めたいが、ベテラン社員の反発が怖い」

「成果主義を導入したいけれど、長年会社を支えてきた人たちの給与を下げるわけにはいかない」

「評価制度を変えた途端、職場の雰囲気がギスギスしてしまった」

多くの中小企業経営者が直面する、避けては通れない壁が「年功序列からの脱却」です。優秀な若手を定着させ、組織を活性化させるためには成果主義への移行が不可欠ですが、力技で制度を書き換えれば、長年貢献してきた古参社員との間に修復不可能な亀裂が生じます。

結論から申し上げます。年功序列からの脱却を成功させる鍵は、給与カットを目的とした「格付け」ではなく、ベテラン層に新しい「役割」と「敬意」を再定義することにあります。

本記事では、古参社員のプライドを守りながら、組織全体の生産性を高めるための現実的かつ具体的な成果主義への移行ステップを解説します。

なぜ年功序列の解体は「激しい拒絶」を生むのか

改革を進める前に、なぜ彼らがこれほどまでに抵抗するのか、その心理的背景を理解しておく必要があります。

過去の「後払い」という暗黙の契約

年功序列制度の中で生きてきた社員にとって、若手時代の低い給与は「将来、年を重ねたときに高くもらうための先行投資」でした。彼らにとって現在の高い給与は、単なる現在の成果の対価ではなく、過去の我慢や貢献に対する「精算」の意味を持っています。それを突然「今日からの成果で決める」と変えることは、彼らからすれば契約違反のように感じられるのです。

アイデンティティの喪失への恐怖

長年、勤続年数が権威の象徴であった組織では、年功序列の廃止は「自分という人間の価値」が否定されることと同じ意味を持ちます。新しいスキルやツールを使いこなす若手に追い抜かれる恐怖は、私たちが想像する以上に深く、それが「プライド」という名の防衛本能となって現れます。

評価基準の不透明さへの不信

「どうせ社長のお気に入りだけを高く評価するつもりだろう」という不信感です。評価制度が曖昧なまま成果主義だけを謳うと、古参社員は自分たちが排除されるための道具だと疑心暗鬼になります。

ステップ1:古参社員の「価値」を分解し、再定義する

成果主義への移行を「誰がいくらもらうか」というお金の話から始めてはいけません。まずは、ベテラン社員に期待する「役割」の再定義から着手します。

「プレーヤー」以外の評価軸を作る

すべての社員に同じ「売上件数」や「生産量」という指標を当てはめるのは、成果主義の誤用です。ベテラン社員には、若手にはない「熟練の知恵」や「危機管理能力」「若手の育成」といった、組織の安定に不可欠な役割を公式な評価項目として設定します。

「ナレッジ伝承者」としてのリスペクト

「現場の第一線からは退いてもらう」というメッセージではなく、「君が持つ貴重なナレッジを仕組み化し、次世代に継承する役割(エバンジェリスト)を担ってほしい」と依頼します。長年の経験を、組織の「資産」として正当に評価することを明確にします。

ステップ2:給与体系の「ソフトランディング」を設計する

いきなり給与が激減する仕組みは、組織を崩壊させます。心理的な安心感を担保するための調整が必要です。

調整給や経過措置の導入

制度移行による減給幅に上限を設けたり、数年かけて段階的に調整したりする「経過措置」を設けます。生活基盤を急激に脅かさないという経営側の配慮が、彼らの「聴く耳」を作ります。

基本給と「役割給(職務給)」の分離

年齢に伴う「基本給」は維持、あるいは微減に留め、その上に乗る「役割給」を成果や責任の重さに応じて変動させる形にします。これにより、「長年働いてきたことへの敬意(基本給)」と「現在の貢献度(役割給)」を切り分け、説明の論理性を高めます。

ステップ3:透明性の高い「納得感のある評価制度」を構築する

古参社員が最も恐れるのは、不公平な評価です。彼らを納得させるためには、評価プロセスの透明化が不可欠です。

評価基準を「言語化」し、公開する

「何をすれば評価され、何をすれば評価されないのか」を、誰が見てもわかる言葉で定義します。特に、ベテランが担うべき「後進の育成」や「社内文化の継承」などの定性的な項目についても、具体的な行動指標(コンピテンシー)として明文化します。

多面的なフィードバックの実施

直属の上司一人の判断ではなく、他部署や部下からの視点も取り入れた多面的な評価(360度評価)を参考にします。「周りからもこう見られている」という事実は、一人の上司から言われるよりも納得感が高まり、自身のプライドと現実を折り合わせる材料になります。

ベテランを「改革の味方」に変えるコミュニケーション術

制度という「型」ができたら、次は「心」の対話です。経営者の姿勢が、改革の成否を分けます。

1on1での「徹底した傾聴」

制度導入前に、ベテラン社員一人ひとりと膝を突き合わせて対話します。彼らがこれまで会社に対してどんな想いで尽くしてきたか、何を誇りに思っているかを、社長自らがじっくりと聴きます。「自分の功績を社長は分かってくれている」という安心感が、新しい制度を受け入れる土壌となります。

「成功の共犯者」になってもらう

影響力のある古参社員を、あえて新しい評価制度の策定プロジェクトに巻き込みます。「現場の意見を反映させるために、あなたの力が必要だ」と頼ることで、彼らは「改革される側」から「改革を創る側」に変わります。

変化に対する「学習機会」の提供

「新しいことができないから成果が出ない」と切り捨てるのではなく、新しいスキルや考え方を学ぶための研修や支援をセットで提供します。「変わってほしい」という期待と、「変わるための支援」は、常にセットでなければなりません。

成果主義への移行がもたらす「組織の健全化」

正しく移行が進んだ組織では、驚くほどポジティブな変化が起こります。

若手社員は「頑張れば報われる」という希望を持ち、主体的に動き出します。一方で、ベテラン社員は「ただ長くいるだけ」のプレッシャーから解放され、自分の経験をどう組織に還元すべきかという、新しいやりがいに目覚めます。

年功序列の廃止は、誰かを切り捨てるためのものではありません。全員が「今の自分の価値」を最大限に発揮し、それを誇りに思える状態を作るためのアップデートなのです。

まとめ:敬意こそが、変革を動かす潤滑油である

年功序列からの脱却を成功させるために、経営者が最後に持つべきは「勇気」と「敬意」です。

  1. ベテランの過去の貢献に、最大限の謝意を言葉で伝える。
  2. 「現在の成果」だけでなく「経験の伝承」を正当な役割として定義する。
  3. 給与体系は急激に変えず、数年かけたソフトランディングを設計する。
  4. 評価基準をオープンにし、不公平感を徹底的に排除する。

「プライド」は、扱い方を間違えれば爆薬になりますが、正しく扱えば、組織を支える強固な「柱」になります。

古参社員が「この会社は自分の過去も未来も大切にしてくれている」と確信できたとき、彼らはあなたの最高のパートナーとして、新しい組織を共に支えてくれるはずです。

まずは、最も影響力のあるベテラン社員をランチに誘い、彼のこれまでの武勇伝を聴くことから始めてみてはいかがでしょうか。その対話の中に、新しい組織を創るためのヒントが隠されています。