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経営録

2025.04.25

学生に選ばれ続ける地方企業の採用戦略

はじめに:地方企業の採用力強化が求められる時代

日本の人口減少と首都圏への一極集中は、地方企業にとって深刻な課題です。新卒採用市場を見ても、東京や大阪などの大都市にある企業に学生が流れる傾向は長年変わらず、地方企業は「そもそも応募が集まらない」「魅力を伝える前に母集団形成ができない」といった悩みを抱えやすい状況にあります。

しかし一方で、「Uターン就職」や「地方への移住」を検討する学生が増え始めていることも事実です。リモートワークの普及や生活コストの高さ、ワークライフバランスへの意識変化などを背景に、都市部だけでなく地方に目を向ける学生も少しずつ増えつつあります。

こうしたチャンスを活かし、「学生に選ばれる地方企業」を目指すためには何をすればよいのか?

本記事では、地方企業が学生から選ばれ続ける採用戦略のポイントを整理し、具体的なアクションプランを提案します。大企業が持つ知名度や資金力だけが採用の決め手ではありません。むしろ、地方ならではの強みを見つけ、それを魅力的にアピールできるかどうかがカギになるのです。

1. 地方企業の採用を取り巻く現状

1-1. 首都圏志向の根強い学生

新卒就活市場において、首都圏や関西圏といった大都市エリアに集中する学生志向は依然として強固です。大企業やブランド力のある企業が多く、就活イベントも盛んに行われるため、そもそも大都市部で就活を完結させてしまう学生が目立ちます。また、親や周囲の「都会で就職すればキャリアの選択肢が広がる」というアドバイスも、地方企業には不利に働きがちです。

1-2. 地方の中小企業への関心不足

学生の多くは、大手企業や知名度の高い企業に対しては情報を得やすい一方、地方で活躍する中小企業の実情についてはあまり知らないまま就職活動を進めていることが多いです。「地方企業=給与が低い、キャリアアップが難しい」といったステレオタイプなイメージも根強く、実際の魅力を伝えきれないまま応募が集まらないケースが多々あります。

1-3. コロナ禍で生じた変化とチャンス

一方、コロナ禍以降、リモートワークやオンライン授業の普及に伴い、大学生の生活や価値観に変化が見られます。「必ずしも都市部に住まなくても仕事ができる」という実感を持つ学生や、「地方でゆったり暮らしながら面白い仕事をしたい」と考える学生も増えています。ここに地方企業が“アピールの余地”を見いだせれば、採用戦略の突破口が開けるはずです。

2. 学生目線が変化している理由とは?

2-1. ワークライフバランスの重視

近年の就職活動において、ワークライフバランスは多くの学生が気にする主要な項目の一つです。

特に、長時間労働や過労死といった社会問題が顕在化する中、「プライベートの時間も大切にできる働き方」を望む学生が増えています。地方企業の場合、通勤時間の短縮自然環境に囲まれたリラックスできる生活などをアピールできれば、大都市の忙しないライフスタイルに疑問を感じる学生の心を掴める可能性があります。

2-2. 社会的意義や貢献度への関心

Z世代を含む若い層は、SDGsや環境問題、地域活性化などの社会的意義を意識した就活を行う傾向が強いと言われています。

「自分の仕事が社会や地域にどう貢献するのか」を重視し、その点に魅力を感じると大企業だけでなく中小企業やNPOなどにも目を向けます。地方企業には、地域の産業を支えたり、地元の文化や伝統を守ったりといった使命がある場合が多いため、社会貢献性を発信することは大きな訴求ポイントになるでしょう。

2-3. 生活コストや暮らしの豊かさ

大都市は刺激的で魅力も多い反面、家賃や物価が高いというデメリットがあります。とりわけ学生時代から「都心の暮らしって大変だな」と感じている層は、地方で働くことで住宅費を抑えたり、のびのびと子育てをする未来に魅力を感じることがあります。地方企業が自社の所在地や地域の暮らしやすさを発信できれば、こうした層の興味を引くことが可能です。

3. 地方企業が押さえるべき5つの魅力ポイント

地方企業は大手企業と比べて知名度や資金力で劣る面がある一方で、地方ならではの強みを持っています。ここでは、学生にアピールするうえで外せない5つの魅力ポイントを整理します。

3-1. 「地域密着」で得られるやりがい

地方企業の多くは、地域コミュニティや地元産業と密接に結びついているため、学生にとって「地域の方々と直接関わりながら成果を感じられる」という大きなメリットがあります。大企業の一部門で働くよりも、「自分が地域の発展に貢献している」と実感できる職場を求める学生にとっては大きな魅力です。

3-2. キャリアアップのスピード感

地方企業は組織規模が比較的小さいため、若手のうちから経営に近い業務を任される幅広い業務領域を担当できるといったキャリアアップのスピード感が得られます。大企業のように縦割りで分業が進んでいる場合とは異なり、様々な経験を積める可能性があります。

3-3. 生活費の安さや自然環境

先述の通り、地方で働く場合は家賃や生活コストが低く抑えられることが多く、自然に囲まれた穏やかな暮らしを送れるというアピールができます。ワークライフバランスやスローライフに関心のある学生にとっては大きな誘因となるでしょう。

3-4. 組織のフラットさとアットホームな社風

地方企業は従業員数が少ない分、経営者との距離が近く、アットホームな雰囲気が特徴的なケースが多いです。社員同士の距離が近い社風を好む学生も多く、「風通しの良い職場で成長したい」と考える若者には大きな武器になります。

3-5. 新規事業・イノベーションの余地

地方企業の中には、伝統産業を守りながらもIT化や新技術を取り入れてイノベーションを起こそうとする動きが見られます。大企業のような承認プロセスやレガシー体制が少ないため、学生がアイデアを出してすぐに試せる環境を持っている可能性もあります。「大きい企業で歯車の一部になるより、自分で仕掛けてみたい」という学生には魅力的に映るでしょう。

4. 効果的な採用ブランディングの進め方

4-1. 自社の強みを言語化する

地方企業が採用に苦戦する理由の一つは、自分たちの魅力を整理し切れていない点にあります。「何となく地域に役立っていると思うけど、どう言えばいいか分からない」といった曖昧さが、学生に伝わらない原因になっています。まずは自社の経営陣や社員が集まり、

  • 自社の経営理念やビジョン
  • 地域で果たしている役割
  • 社員が感じるやりがい
  • 将来の事業計画や展望

などを整理し、一貫したメッセージを作り上げることが大切です。

4-2. ペルソナ設定とストーリー設計

採用ブランディングを強化するうえで、ターゲットとなる学生像(ペルソナ)を具体化する方法があります。

たとえば「地元出身で、大学は首都圏に通っているけれど、Uターンを検討している学生」など、想定読者がどんな価値観や不安を持っているかを洗い出します。そして、「あなたの悩みや希望を、私たちはこんな形で応援できます」というストーリーを採用サイトや資料、SNSで発信すると、共感を得られやすくなります。

4-3. 社員インタビューや事例紹介

地方企業が持つ魅力は、現場の社員が最もよく知っています。そのため、採用サイトやパンフレットに社員インタビューを積極的に載せたり、仕事の一日成功事例を具体的に紹介することが効果的です。実際に働く若手社員が自分の言葉で語ることで、「大企業にはないやりがい」「こんな風に地域と関わっている」などを説得力を持って学生へ届けられます。

5. 学生との接点を増やすための手法

5-1. 大学のキャリアセンター・就職課をフル活用

地方企業が学生にアプローチするためには、大学のキャリアセンターや就職課との連携が欠かせません。地元大学だけでなく、首都圏や他地域の大学のキャリアセンターに情報を提供することで、UターンやIターンを考える学生の目に留まる可能性が高まります。大学の就職イベントや合同説明会に積極的に参加し、企業のPRブースを出すのも有効です。

5-2. 合同企業説明会・学内セミナー

学生との直接の接点としては、合同企業説明会(例:リクナビ主催など)や学内セミナーを活用するのが基本的なアプローチです。ただし、単にブースを出して待っているだけでは埋もれてしまうかもしれません。自社の強みが伝わるプレゼンや、学生が興味を持ちやすいワークショップ形式など、工夫した企画を用意することで印象に残る存在になれます。

5-3. OB・OG訪問の活用

地元大学や高校のOB・OGが自社に在籍している場合は、OB・OG訪問を積極的に受け入れる体制を作りましょう。学生にとっては、身近な先輩の生の声が就職先選びの大きな判断材料となります。会社としても、「うちの企業で活躍している先輩がいる」というだけで、企業への安心感と親近感を持ってもらえるはずです。

6. インターンシップや職場見学の活用

6-1. インターンシップでリアルな体験を提供

地方企業が学生を惹きつけるうえで、インターンシップは非常に有効な施策です。大都市の企業と異なり、受入枠に余裕があることも多く、長期インターンプロジェクトベースのインターンなどを行いやすい土壌があります。リアルな業務体験を通じて、「地方企業ってこんなに面白い仕事をしているんだ」という気付きや、「職場の雰囲気が合っている」という実感を学生に与えられます。

6-2. 地域の魅力を織り交ぜたプログラム

地方企業のインターンシップでは、地域体験を組み込むとさらに効果的です。たとえば、農業関連の企業であれば実際に畑や生産現場を案内したり、地元祭りやイベントへの参加をプログラムに組み込むなど、都市部では得られない体験を提供するのです。学生にとっては思い出深い機会となり、「ここで働くのも悪くないかも」と感じるきっかけになるでしょう。

6-3. 職場見学や1day訪問

インターンシップを大々的に実施するのが難しい場合でも、1day職場見学や数日間のショートプログラムを行うだけでも効果があります。社員や経営者と直接対話し、「どんな思いでこの仕事をしているのか」を学生が肌で感じる場を用意することで、採用広報では伝えきれない魅力をアピールできます。

7. SNS・オンライン施策の重要性

7-1. デジタルネイティブ世代への訴求

Z世代を中心とする学生は、生まれたときからインターネットやSNSに慣れ親しんでいます。新聞広告やチラシではなく、Twitter、Instagram、TikTok、YouTubeなどを通じて情報を得ているケースが多いです。地方企業がSNSで発信する際は、下記のような点を意識すると良いでしょう。

  • ビジュアル重視:社内イベント、地域の風景、職場環境などを写真や動画で見せる
  • 日常の小ネタ:社内の雰囲気が伝わるような軽い投稿を定期的に行う
  • 社員のストーリー:若手社員のインタビュー動画、先輩後輩トークセッション

7-2. 企業ブログや採用サイトの充実

SNSで興味を持った学生が次にチェックするのは、企業の公式サイトや採用ページです。採用ページに分かりやすいコンテンツが揃っているかは、応募決定に大きく影響します。以下の要素は特に重要です。

  • 会社概要や歴史、経営理念
  • 社員インタビュー、仕事紹介、キャリアパス
  • 採用フロー、エントリー方法
  • 福利厚生、勤務地、給与モデル
  • 社内イベントや研修制度の紹介

また、ブログやニュースで最新の取り組みやイベントを発信することで、「生きた情報が得られる企業」という印象を学生に与えられます。

7-3. オンライン選考や説明会の導入

コロナ禍を機に、オンライン面接ウェビナー形式の説明会が一般化しました。地方企業の場合、学生がわざわざ交通費や時間をかけて来てくれる機会が限られるため、オンラインの仕組みを整えておくことで応募ハードルを下げられます。特に、遠方の学生にとっては「オンラインで最初の面談ができるかどうか」が応募するか否かの大きな分かれ目になります。

8. 地域連携や地元大学との協働

8-1. 行政や商工会議所との連携

地方自治体や商工会議所・産業振興センターなどは、地元企業の人材確保を支援するプロジェクトを実施していることがあります。例えば合同企業説明会の企画や、地元大学との共同プログラムなどが挙げられます。こうした機関を積極的に活用し、広域的な連携を図ることで、単独では得られない露出機会や学生との接点を増やせます。

8-2. 産学連携プロジェクト

地元大学や専門学校と連携し、共同研究や産学連携プロジェクトを行うのも有効です。学生は、プロジェクトを通じて地元企業の面白さや仕事の実際を知ることができ、企業側も学生の新鮮なアイデアを吸収しながら将来の採用候補を発掘できます。「研究テーマが実際のビジネスにつながる」というリアリティは、大学で学ぶ学生にとって大きな魅力となるでしょう。

8-3. 地域イベントの活用

地元の祭りや観光イベント、マルシェなどがある場合、企業がブースを出すなどの形で参加すると、学生や地元住民との交流が生まれます。こうした場を情報発信や採用PRのチャンスとして活用することで、企業の知名度向上にもつながります。「イベントでスタッフとしてお手伝いをするインターンシップ」など、新たな企画を考えるのも面白いでしょう。

9. 内定から入社後フォローまでの流れ

9-1. 内定者フォローの重要性

地方企業が苦労しがちなのは、せっかく内定を出しても、他社に流れてしまうというケースです。特に大都市の企業と迷っている学生にとっては、内定後のフォローがそのまま辞退率に影響すると言っても過言ではありません。具体的には以下の施策が考えられます。

  • 内定者向けの社内見学会や懇親会
  • 先輩社員や経営者との定期的なコミュニケーション
  • 居住支援や住まい探しなどのサポート(Uターン就職の場合)

9-2. 入社後ギャップを減らすための取り組み

「思っていた仕事と違う」「社内の雰囲気が合わない」といったミスマッチが起こらないよう、入社前から業務内容や配属先をしっかり説明し、質問や不安に丁寧に対応することが大切です。また、入社後の研修やOJT体制を整えておくことで、学生がスムーズに会社に溶け込み、早期離職を防ぎやすくなります。特に地方から移住してくる場合は、生活面でのサポートを手厚くするのも重要です。

9-3. キャリアパスと成長支援

地方企業が学生に「長く働きたい」と感じてもらうためには、キャリアパス成長機会を明確に提示することが欠かせません。定期的な面談や評価制度、資格取得支援などを通じて、「この会社でなら将来こうなれる」「専門スキルを伸ばせる」と思わせる仕掛けが必要です。特に、都市部と比べて転職先が少ない地方では、社員が会社に腰を据えて成長できる環境を整えることが企業の大きな強みになります。

10. まとめ:地方企業が学生に選ばれ続けるために

地方企業の採用戦略は、大企業や都市部企業と同じやり方ではうまくいかないことが多いです。

しかし、地方ならではの魅力地域社会との結びつき若手に大きな役割を与えられる柔軟性など、強みを正しく認識し、適切にアピールできれば、学生に「ここで働きたい」と思わせる十分なポテンシャルを持っています。

  • 学生の価値観が変化している
    • ワークライフバランスや社会的意義、地域貢献などに関心が高まっている
  • 地方企業の特徴を整理・言語化
    • 地域密着型のやりがい、幅広いキャリア体験、自然や生活コストの面での魅力
  • 採用ブランディングと情報発信がカギ
    • 社員インタビューやSNSを活用し、リアルな職場の雰囲気や成長機会を伝える
  • インターンシップや地域連携で実体験を提供
    • 学生が実際に足を運んだり、働く先輩を見たりする機会を作る
  • 内定後フォローと入社後のキャリアサポート
    • せっかく興味を持った学生が離れてしまわないよう、丁寧なフォロー体制を整える

以上のステップを踏まえて、地方企業としての魅力や特徴を発信し続けることで、学生に選ばれ続ける企業へと成長していく道が開けるはずです。大学や地域との連携を強化し、インターンシップやSNSを活用しながら、「ここだからこそ感じられるやりがい」「この土地でしか築けないキャリア」という固有の価値を積極的に打ち出していきましょう。学生との出会いは、会社の未来を彩る新たなチャンスです。自社に合った戦略を見極め、一歩ずつ着実に成果を積み上げていってください。