1. はじめに
地方の中小企業や老舗企業は、独自の強みと魅力を持っています。
たとえば、地域密着型のサービスや雰囲気、地元のコミュニティとのつながり、長年受け継がれてきた技術など。しかし一方で、地方企業ならではの組織づくりの難しさも多々存在します。人材不足や後継者問題、都市部との差別化が難しい状況など、課題は多岐にわたります。
とりわけ最近では、大企業だけでなく中小企業でもデジタル化・IT化の波が押し寄せており、地方企業も無視できない時代になりました。コロナ禍による働き方の変化や、若い世代の価値観の多様化など、地域に根ざした企業ほど大きな変化に対応しづらい面もあります。
2. 地方企業の組織づくりにおける主な課題
2-1. 人材確保の難しさ
地方企業がまず直面するのは、若い人材を確保しづらいという現実です。大都市圏へ若年層が流出し、地方には高齢者や中高年が多く残る傾向が続いています。特に高度なITスキルや専門性を持った若手は、地元に残らず都会の企業に就職してしまうことが少なくありません。
結果として、地方企業では「なかなか新卒や若手が採用できない」「中途でも欲しい人材が来ない」といった状況に陥りがちです。この人材不足は組織づくりにも大きく影響し、「管理職候補が育ちにくい」「新しい取り組みがしづらい」「業務改善やDXに対応するスキルが足りない」といった課題を生み出します。
2-2. 世代間ギャップ・後継者問題
多くの地方企業では、経営者や主要ポジションにベテラン層が長く在籍し、「家業を継ぐ形」で代々経営が続いているケースも珍しくありません。そこに、若手社員や新しい幹部候補を迎えようとしても、世代間の価値観のズレが顕在化しやすくなります。
- 「昔からこうやってきた」という伝統を重視するベテラン
- 「より効率的なやり方を取り入れたい」という若手
この衝突が組織全体のマネジメントを難しくさせ、「言われたことしかできない若手が多い」「ベテランの考え方が固すぎて変革できない」とお互いに不満が募る要因になりやすいのです。また、後継者候補が都市部に出て行ってしまい、結局戻ってこない――というケースも地方企業では深刻な問題です。
2-3. 地域独特の風土・コミュニティとの関係
地方企業は、地域コミュニティとのつながりが大きな強みですが、その一方で風土や慣習が組織運営に影響しすぎるという課題もあります。たとえば、地元の有力者との関係性や、地区行事への参加、同業他社との慣れ合いなどが、スピーディな意思決定を阻むことも。
さらに、地縁・血縁が強い文化の場合、社内でも「昔からの仲間内」が中心になりやすく、新参社員や他地域出身者がなかなか溶け込みにくい環境が生まれやすいのです。結果として、多様性や新しいアイデアが受け入れられにくい閉鎖的な組織になってしまうリスクが高まります。
2-4. 都市部との情報格差・ネットワーク不足
ITインフラや最新のビジネストレンドに関する情報は、都市部ほど流通しやすい傾向があります。もちろん、インターネット環境があれば場所を問わず調べ物はできますが、リアルな交流会やイベント、勉強会といった場が都市部に集中しがちな現状は否めません。
地方企業は、「有益な人脈を作りにくい」「新しいビジネスモデルの事例が身近にない」など、情報やネットワーク面でもハンディキャップを抱えやすいのです。これが組織づくりにも影響し、社員教育やマネジメント手法のアップデートが遅れたり、イノベーションが起こりにくくなったりします。
3. 地方企業の組織づくりが難しい背景
3-1. 地域経済の縮小と人口減少
日本全体が少子高齢化を迎えていますが、その影響を最も受けやすいのが地方です。人口減少=市場の縮小を意味し、企業も地元での需要を確保しにくくなります。売上や利益が伸び悩むなかで、新規採用にコストをかけづらいことが、組織づくりを停滞させる要因の一つです。
また、経済が縮小すれば若者がますます都会に流出するため、人材不足に拍車がかかる悪循環が生まれます。「地方での就職に魅力を感じられない」と考える若者が多いと、企業にとっては“組織づくり”以前に“採用”の段階で苦戦してしまうのです。
3-2. “守りの経営”になりやすい
地方企業は代々続く家業や、長年の取引先との関係性がベースになっているケースが多いため、どうしても保守的・安定志向になりやすい傾向があります。これはメリットでもあるのですが、一方で新しい組織制度や働き方の導入など、革新的な取り組みを後回しにしがちです。
たとえば、リモートワークやフレックス制度などを導入する企業は、都市部のIT企業を中心に増えていますが、地方企業では「うちには合わない」「取引先が理解してくれない」といった理由で導入が遅れる場合が多いのです。結果、働きやすい環境づくりが進まず、優秀な人材が都市部に流れていってしまうのです。
3-3. 人件費や投資余力が限られる
地方企業の多くは、都市部の大企業ほどの資本力や余剰資金を持っていません。組織改革や教育研修への投資に踏み切ろうにも、資金面で苦労するケースが多いのが現状です。研修やセミナー、コンサルティングを導入したくても「予算が出せない」「いつ回収できるかわからない」と敬遠されがち。
また、人材の育成や社内制度の整備にはある程度時間とコストが必要ですが、十分なリソースを割けないために「形だけの導入」に終わり、効果を出せずに諦めてしまう――という悪循環も見られます。
4. 組織づくりを成功させるためのヒント
ここまで、地方企業が直面する組織づくりの難しさを整理してきました。しかし、一方で地方ならではの強みを活かしながら、組織を強化している企業も存在します。以下では、そのヒントや取り組み事例をいくつか紹介します。
4-1. 地域愛・地元志向の人材を採用・育成する
「地方には若者がいない」「優秀な人材は都会に行ってしまう」と嘆く一方で、実は地元志向のUターン・Iターン希望者が存在します。また、近年はリモートワークの普及により、「自然豊かな地域で暮らしながら働きたい」と考える都市部出身の人も増え始めています。
そうした層をターゲットにした採用活動や、SNSを通じた情報発信を行うことで、“地域愛や地方暮らしを求める人材”を集められる可能性があります。その後、地元コミュニティとの交流や地域特有の魅力を体験させつつ、組織内で活躍できるよう育成していくのです。地元への愛着が強い人材ほど、長く会社に貢献してくれるケースが多いでしょう。
4-2. 小回りの利く組織改革を行う
大企業と違って、地方の中小企業は規模が小さいからこそ意思決定が早く、小回りが利くという強みがあります。トップと現場の距離が近く、新しい制度を導入したいと思えば、比較的スピーディに実行できるはずです。
たとえば、少人数ゆえにフレックスタイム制度や週休3日制、リモートワークなどを試験導入しやすい場合もあります。うまく活用できれば、都市部に負けない柔軟な働き方を整え、「この会社は面白い取り組みをしている」と評判になれば、人材獲得にもプラスに働くかもしれません。
4-3. 社内外のネットワークを活かす
地方の企業はコミュニティが狭い分、地域内での助け合いや連携がしやすい利点があります。商工会議所や地元の異業種交流会、地方創生の取り組みなどで他社の経営者や団体とつながりを持つと、有益な情報交換ができるでしょう。
また、ITやデジタル分野に強い人材がいなくても、外部の専門家やコンサルタントをスポットで活用するなど、ネットワークづくりに力を入れることが大切です。オンラインの勉強会やセミナーなども活用すれば、都市部のトレンドや最新情報をキャッチアップするハードルも下がります。
4-4. 伝統や地域性を生かした「ビジョン」づくり
地方企業のなかには、長年培ってきた伝統や地域資源を活かして、オリジナル商品や観光コンテンツを生み出しているケースもあります。そこで大切なのは、「この地域にどう貢献したいか」「自社の商品でどんな未来をつくりたいか」というビジョンを明確化し、社員全員と共有することです。
大都市の企業にはない“地方ならではの強み”を再確認し、それを核とした事業戦略やブランドコンセプトを掲げれば、社員のモチベーションアップや人材流出防止にもつながるでしょう。自分たちが働く意義や誇りを感じられる組織づくりが進むほど、若い世代にとっても魅力的な企業に映ります。
4-5. 中核社員・リーダーをしっかり育てる
人材不足が叫ばれる地方企業だからこそ、少数の中核社員やリーダーの存在が組織の命運を握ることになります。彼ら彼女らが日々の業務に追われてばかりではなく、マネジメントや経営に関する知識を身につける機会を用意することが重要です。
- 社内外のセミナーや研修への参加
- リーダー同士の勉強会や情報共有
- 若手を巻き込んだプロジェクトの立ち上げ
こうした取り組みを通じて、リーダーが成長すれば、自然と組織づくりにも良い影響を及ぼすはずです。限られた人材を確実に育て上げることが、地方企業の組織強化に直結するのです。
5. 実際の取り組み事例(仮想例)
5-1. 地域密着型の食品メーカーA社
A社は、地元の農産物を活かした加工食品を製造・販売している小規模メーカー。
- 課題:若い社員がほとんどおらず、将来のリーダー不在。SNSを活用した販促も遅れがち。
- 取り組み:
- Uターン・Iターン希望者向けに「地元農産物の魅力を全国に発信する仕事」というキャッチコピーでSNSや求人サイトを活用
- デザイナーやWEB担当を外部委託しつつ、若手社員2名を新しく採用
- 若手を中心にInstagramや地元のコミュニティFMなどで商品PRを実施
- 結果:売上が少しずつ増加し、地元農家との連携も強化。若手社員が新たな仕組みづくりに積極的に参加し、ベテラン社員との協力体制が生まれた。
5-2. 地域工務店B社
B社は、親子二代で経営してきた工務店。地元での評判は高いが、少子高齢化とともに顧客数が徐々に減少。
- 課題:後継者問題と新規客獲得の停滞。社内制度も昔ながらで若手が定着しにくい。
- 取り組み:
- トップが地元の異業種交流会に参加し、IT企業やコンサル企業とのつながりを作る
- 若手社員に「リフォーム×ICT」や「小民家再生プロジェクト」のリーダーを任せ、自由に提案できるカルチャーを導入
- 定期的に地域住民を招いたワークショップ(DIY教室など)を開催し、リフォーム需要の掘り起こし
- 結果:少人数ながらも団結力が高まり、若手が積極的にSNS発信やイベント企画を行うことで地域認知度アップ。売上も回復傾向に転じ、後継者育成にも弾みがついた。
6. まとめ:地方企業こそ、自社の強みを活かした組織づくりを
ここまで述べてきたように、地方企業の組織づくりには確かに難しさがあります。人材不足や世代間ギャップ、地域独特の風土やネットワーク不足など、マイナス要因が山積みのように思えるかもしれません。
しかし、その一方で地域密着型の強みや小回りの利く経営など、都会の企業にはないアドバンテージも存在します。大きな組織変革が必要というよりは、まずは「自社の強みを再確認する」「地域で頑張りたい若者やUターン組にアピールする」など、小さな一歩から始めることが大切ではないでしょうか。
- 人材確保には、地域愛・地元志向の人がターゲットになる可能性も高い
- 保守的な文化や古い慣習を活かしながらも、必要に応じてアップデートを試みる
- 小規模な分、トップダウンでの意思決定や新制度導入がスピーディにできる
- 地域のネットワークをうまく活用し、外部の専門家やITリソースを積極的に取り込む
- リーダー層を中心に、経営やマネジメントスキルを学ぶ機会を設ける
組織づくりは、一朝一夕で完了するものではありません。社内の意識改革や制度導入、教育研修など、段階を踏みながら継続的に改善していく必要があります。特に地方企業の場合、地元とのつながりが強いゆえに、地域の人材や外部リソースを巻き込むことが大きな鍵となるでしょう。
「地方だからこそできることがある」「地域に根ざした企業だからこその魅力がある」という視点を持ち、地元に誇りを持てるような組織づくりを目指してみてください。人口減少や経済の縮小など厳しい時代背景は変わりませんが、その中でも“地方企業らしい生き残り方”を探り、次の世代へとつないでいくことが大切です。