「事業承継税制って、いつまで使える制度なんだろう?」
「急いで準備しないと、もう間に合わないんじゃないか…?」
中小企業の経営者にとって、会社の未来を左右する事業承継は大きな課題です。その際、自社株の引き継ぎにかかる多額の税金が大きな負担となることは少なくありません。この税負担を大幅に軽減し、円滑な事業承継を後押しするために国が設けているのが**「事業承継税制」**です。
この制度は非常に魅力的である一方で、「時限措置」であるため、「いつまで利用できるのか」という適用期限について不安を感じる経営者の方も多いのではないでしょうか。適用期限を誤解していると、せっかくの税制優遇の機会を逃してしまうことにもなりかねません。
本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、事業承継税制、特にその主力である「特例措置」の適用期限について、どこよりも分かりやすく徹底解説します。また、期限が迫る中で知っておくべきポイントや、準備の進め方についても触れていきます。大切な会社を未来へつなぐために、この制度の期限と活用方法をしっかりと理解し、適切な行動を起こすヒントとなれば幸いです。
1. 事業承継税制の基本と、なぜ「期限」が重要なのか
事業承継税制(法人版・特例措置)は、非上場会社の自社株式を後継者が生前贈与または相続で取得した場合に、その株式にかかる贈与税や相続税の納税を100%「猶予」し、最終的に「免除」する制度です。これは、後継者が多額の納税資金に奔走することなく、事業に集中できる環境を整えることを目的としています。
1-1. 一般措置と特例措置
事業承継税制には、大きく分けて以下の2つの区分があります。
- 一般措置:平成21年度(2009年度)に創設された従来の制度です。相続税の猶予割合が80%、贈与税が100%など、一部制限があります。この一般措置には、今のところ適用期限は設けられていません。
- 特例措置:平成30年度(2018年度)の税制改正で創設された、大幅に拡充された制度です。贈与税・相続税ともに100%猶予、対象株式数の上限撤廃、複数後継者への対応、雇用要件の緩和など、非常に手厚い優遇が受けられます。しかし、この特例措置は、期間限定の制度として設計されています。
なぜ「期限」が重要なのでしょうか? それは、この強力な優遇措置である特例措置が、いつか終了する可能性があるからです。期限を意識せずに準備を進めていると、いざという時に制度を利用できず、多額の税負担を抱えることになりかねません。
2. 事業承継税制(特例措置)の適用期限を徹底解説
それでは、事業承継税制の特例措置の具体的な適用期限を見ていきましょう。この制度には、大きく分けて2つの重要な期限があります。
2-1. 【1つ目の期限】「特例承継計画」の提出期限
まず、最も早い期限として、「特例承継計画」を都道府県に提出する期限があります。
- 提出期限: 令和8年(2026年)3月31日まで
この「特例承継計画」とは、事業承継税制(特例措置)の適用を受けたい企業が、あらかじめ事業の継続に関する計画(後継者の選定、育成方針、経営改善計画など)を策定し、都道府県知事の確認を受けるために提出する書類です。この計画書を提出し、確認を受けていなければ、原則として特例措置の適用を受けることはできません。
この期限は、実際に贈与や相続が行われる前の「準備」に関する期限である点が重要です。たとえ事業承継自体がまだ先であっても、特例措置の利用を検討するなら、この計画書だけは期限までに提出しておく必要があります。
2-2. 【2つ目の期限】贈与または相続で事業を承継する期限
次に、実際に後継者が自社株式を贈与または相続によって取得する期限です。
- 贈与・相続の期限: 令和9年(2027年)12月31日まで
この期限までに、先代経営者から後継者へ、対象となる自社株式の贈与が行われるか、あるいは相続が発生していなければ、特例措置の適用は受けられません。
たとえ特例承継計画を提出済みであっても、この期限を過ぎてから株式を承継した場合は、特例措置の対象外となり、一般措置の適用を検討するか、通常通りの相続税・贈与税が課されることになります。
2-3. 相続が発生した場合の特例
先代経営者の急な逝去などにより、「特例承継計画」を提出する期限(2026年3月31日)までに計画の提出が間に合わなかった場合でも、相続による承継に限り、以下の条件を満たせば特例措置を適用できる場合があります。
- 2026年3月31日までに相続が発生していること。
- 相続税の申告期限(相続開始の翌日から10ヶ月以内)までに、特例承継計画を作成し、都道府県知事の確認を受けること。
- 上記確認を受けた後、相続税の申告期限までに税務署へ納税猶予の適用申請を行うこと。
この特例は非常にタイトなスケジュールとなるため、相続が発生したら、できる限り早く税理士などの専門家と連携し、手続きを進める必要があります。
3. 適用期限が迫る中で、経営者が今すぐ知るべきポイント
事業承継税制の特例措置の適用期限が着実に迫る中で、経営者はどのような点に注意し、行動すべきでしょうか。
3-1. とにかく「特例承継計画」の提出を優先する
もし現時点で特例承継計画を提出していないのであれば、最優先でその準備に取りかかりましょう。
- 提出は「検討中」でも可能: 計画の内容は、あくまで現時点での見込みであり、将来的に変更が生じても、その都度修正申請をすれば問題ありません。まずは提出期限までに「計画を提出すること」が重要です。
- 専門家への早期相談: 計画書の策定には専門知識が必要です。税理士や認定経営革新等支援機関などの専門家に早めに相談し、サポートを受けましょう。
3-2. 適用後の「継続要件」も理解しておく
特例措置の適用を受けて納税猶予が開始された後も、安心してはいけません。以下の「継続要件」を遵守しなければ、納税猶予が取り消され、多額の税金と利子税を一括で支払うリスクがあります。
- 後継者の代表権維持: 後継者が原則として、会社の代表権(代表取締役など)を持ち続けること。
- 株式保有の継続: 猶予対象の株式を売却しないこと。
- 事業の継続: 会社が事業活動を継続すること(資産管理会社化など、事業実態のない状態にならないこと)。
- 雇用要件: 承継後5年間は、平均で承継時の雇用者数の8割以上を維持する努力が求められます(ただし、やむを得ない事情がある場合は柔軟化されています)。
- 報告義務: 毎年、都道府県や税務署に継続状況を報告する義務があります。
これらの要件は、適用期限後の事業承継においても適用され続けるため、長期的な視点で理解しておく必要があります。
3-3. 期限後の選択肢も視野に入れる
もし何らかの理由で特例措置の適用期限までに承継が間に合わなかった場合でも、事業承継の道が閉ざされるわけではありません。
- 一般措置の検討: 期限のない一般措置の活用を検討します。ただし、猶予割合や対象株式数に制限があるため、税負担は特例措置よりも大きくなる可能性があります。
- M&Aによる売却: 第三者へのM&A(会社売却)も有力な選択肢です。この場合、現経営者には売却益に対して所得税・住民税(約20%)が課されますが、まとまった現金を得られるというメリットがあります。
- その他の株価対策: 役員退職金の支給や、相続時精算課税制度の活用など、他の税金対策を組み合わせて税負担を軽減する方法もあります。
4. まとめ:事業承継税制の期限は、未来への「タイムリミット」
事業承継税制の特例措置は、中小企業の円滑な事業承継を強力に後押しするための、非常に優遇された制度です。しかし、この強力なメリットを享受できるのは、**「特例承継計画の提出期限(2026年3月31日)」と「実際の承継期限(2027年12月31日)」**という明確な「タイムリミット」が存在するからです。
- 最重要期限は「2026年3月31日」: この日までに特例承継計画を提出できなければ、原則として特例措置の適用を受けられない。
- 実際の承継は「2027年12月31日」まで: 計画提出後も、この日までに贈与または相続が完了している必要がある。
- 相続で間に合わなかった場合の特例: 一定の条件下で、相続後の計画提出も可能だが、非常にタイトなスケジュールに。
- 継続要件と取消リスク: 適用後も続く要件遵守と報告義務を怠らないこと。
これらの期限を意識し、「今すぐ」行動を起こすことが、後継者不足問題を解決し、大切な会社を未来へとつなぐためのカギとなります。
複雑な制度であり、自社だけで全てを判断・実行するのは困難です。ぜひ、税理士やM&Aアドバイザーといった事業承継の専門家に早めに相談し、あなたの会社にとって最適な事業承継戦略と税金対策を立ててもらいましょう。期限が来る前に、未来へのバトンをしっかりと握りしめてください。