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経営録

2025.07.16

事業承継税制の特例承継計画等における提出期限の延長について

「事業承継税制の申請、もう間に合わないと思っていた…」

「特例承継計画の提出期限が迫っていたけど、延長されたって本当?」

日本の中小企業経営者の多くが抱える後継者不足問題。その解決策として注目される「事業承継税制」は、自社株の引き継ぎにかかる多額の税負担を大幅に軽減できる強力な制度です。しかし、この制度、特に手厚い優遇が受けられる**「特例措置」**は、期間限定の制度であるため、その「適用期限」が常に経営者の頭を悩ませてきました。

特に、特例措置を利用するための最初のステップである**「特例承継計画」の提出期限は、多くの企業にとって大きなハードルとなっていました。しかし、ご安心ください。近年の税制改正により、この特例承継計画の提出期限が延長**され、これまで準備が間に合わないと諦めていた経営者にも、再びチャンスが広がっています。

本記事では、M&Aや事業承継を考える経営者の方に向けて、事業承継税制の特例承継計画の提出期限が延長された背景と、新たな期限、そしてその延長が意味すること、さらに今後の注意点を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社を未来へつなぐために、この最新情報をしっかりと理解し、適切な行動を起こすヒントとなれば幸いです。

1. 事業承継税制(特例措置)と「特例承継計画」の重要性

まず、事業承継税制の基本的なおさらいと、特例承継計画がなぜこれほど重要なのかを確認しておきましょう。

1-1. 事業承継税制(特例措置)の強力な優遇措置

事業承継税制(法人版・特例措置)は、非上場会社の自社株式を後継者が生前贈与または相続で取得した場合に、その株式にかかる贈与税や相続税の納税を100%「猶予」し、最終的には「免除」する制度です。

この特例措置は、従来の「一般措置」に比べて以下のような点が大幅に拡充されています。

  • 納税猶予割合の拡大: 贈与税・相続税ともに100%が猶予されます。
  • 対象株式数の上限撤廃: 発行済株式のすべてが対象となります。
  • 複数後継者への対応: 最大3人まで後継者として対象にできます。
  • 雇用要件の緩和: 承継後5年間の雇用維持要件が、やむを得ない事情があれば猶予が継続できるよう柔軟化されました。

これらの強力な優遇措置を享受できるため、多くの中小企業経営者がこの特例措置の活用を検討しています。

1-2. 特例承継計画は「特例措置利用の入り口」

この特例措置の適用を受けるためには、実際に株式の贈与や相続が行われる前に、「特例承継計画」を会社の所在地を管轄する都道府県に提出し、確認を受けておく必要があります。

特例承継計画とは、単なる書類ではなく、以下のような内容を盛り込んだ、まさに事業承継のロードマップとなるものです。

  • 自社の事業概要
  • 先代経営者と後継者の氏名
  • 事業承継の時期
  • 承継時までの経営の見通し
  • 承継後5年間の具体的な事業計画(経営改善の取り組み、雇用計画など)
  • 認定経営革新等支援機関による指導・助言の内容

この計画を提出し、認定を受けることが、特例措置を利用するための最初の、そして最も重要なステップとなるのです。

2. 特例承継計画の「提出期限延長」の背景と新たな期限

特例承継計画の提出期限は、過去に何度か延長されてきました。これは、制度の周知不足や、コロナ禍などの経営環境の変化により、事業承継の検討が遅れる企業が多かったためです。

2-1. 延長の背景:コロナ禍と事業承継の遅れ

特例措置は、平成30年度(2018年度)の税制改正で創設され、2027年末までの時限措置とされました。しかし、その後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、それに伴う経営環境の急激な変化、物価高騰などが重なり、多くの中小企業が事業の立て直しに追われ、事業承継の準備が後回しになる状況が生まれました。

このような状況を踏まえ、政府・与党は、事業承継を円滑に進めるという制度の趣旨を鑑み、特例承継計画の提出期限を再延長することを決定しました。

2-2. 新たな提出期限と事業承継実施期限

延長された新たな提出期限は以下の通りです。

  • 特例承継計画の提出期限:旧期限:令和6年(2024年)3月31日まで新期限:令和8年(2026年)3月31日まで(※個人版事業承継税制の「個人事業承継計画」の提出期限も同様に延長されています。)

この提出期限の延長は、多くの経営者にとって朗報であり、まだ計画を提出していなかった企業に、改めて準備を進める猶予が与えられた形です。

しかし、注意すべきは、実際に自社株式の贈与または相続を行う**「事業承継実施期限」**は、この延長の対象となっていない点です。

  • 事業承継(贈与または相続)の実施期限: 令和9年(2027年)12月31日まで(この期限は変更されていません)

つまり、**「計画は2026年3月末までに提出するが、実際の承継は2027年12月末までに完了させなければならない」**ということです。

3. 期限延長が意味することと、経営者が取るべき行動

特例承継計画の提出期限延長は、経営者にとってどのような意味を持ち、今後どのように行動すべきなのでしょうか。

3-1. まだ間に合う!まずは「特例承継計画」の提出を最優先に

もし、これまでの期限で提出を諦めていた経営者の方は、この新たな期限(2026年3月31日)までに特例承継計画を提出することを最優先で進めましょう。

  • 計画は「検討中」でもOK:計画の内容はあくまで現時点での見込みであり、厳密にその通りに進まなくても問題ありません。後で変更が生じれば、「変更確認申請書」を提出することで内容を修正できます(この変更確認申請書の提出は、2026年3月31日の提出期限後でも可能です)。まずは「提出する」という行為が、特例措置を利用するための権利を確保することにつながります。
  • 専門家との早期連携が鍵:計画書の作成や、その後の手続きは専門知識が必要です。税理士や認定経営革新等支援機関(金融機関、商工会議所、一部の税理士・弁護士事務所など)にできるだけ早く相談し、サポートを受けましょう。彼らは制度の詳細や提出書類の作成方法に精通しています。

3-2. 期限後の「逆算」で、計画を具体化する

計画提出期限が延長されたからといって、安心しきってはいけません。実際に事業承継を実施する期限(2027年12月31日)は変わっていないからです。

  • 事業承継実施期限から逆算する:2027年12月31日という最終期限から逆算し、後継者の育成、事業磨き上げ、組織体制の整備など、具体的な準備スケジュールを立てましょう。
  • 「贈与」と「相続」両面で検討:生前贈与で計画的に進めるか、あるいは相続に備えるか、それぞれのメリット・デメリットを考慮して最適な承継方法を検討します。相続で急な承継となった場合でも、特例承継計画を提出済みであれば、相続後に税制を適用できる可能性が高まります(前述の相続発生後の特例も参照)。

3-3. 特例措置終了後の動向にも注目

与党の税制改正大綱では、特例措置の適用期限(2027年12月31日)については「今後とも延長を行わない」旨が明記されています。これは、特例措置が、あくまで「事業承継を集中的に進める」ための異例の時限措置であるという位置づけを強調するものです。

しかし、その後の事業承継に関する新たな措置が全く検討されないわけではありません。今後の税制改正の議論の行方には引き続き注目が必要です。

4. まとめ:事業承継税制の期限延長は、「最後のチャンス」の合図

事業承継税制の特例承継計画の提出期限延長は、後継者不足に悩む多くの中小企業経営者にとって、まさに**「最後のチャンス」**とも言える朗報です。この猶予期間を最大限に活用し、事業承継の準備を本格的に進めることが、会社の未来を左右します。

  • 特例承継計画の提出期限は令和8年(2026年)3月31日まで延長。
  • ただし、実際の事業承継(贈与・相続)期限は令和9年(2027年)12月31日で変更なし。
  • 期限延長を「猶予」と捉え、速やかに計画提出の準備に着手すること。
  • 計画提出後は、実際の承継期限から逆算し、具体的な承継準備を進める。
  • 専門家(税理士、認定支援機関など)と早期に連携し、複雑な手続きを確実に進める。

この貴重な機会を逃さず、あなたの情熱と努力で築き上げた大切な会社を、次世代へと確実に、そして力強くバトンタッチしてください。事業承継税制は、そのための強力な後押しとなるはずです。