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経営録

2025.07.13

事業承継にかかる税金一覧|中小企業が知っておくべき税金のあれこれ

「会社を承継するって言っても、一体いくら税金がかかるんだろう?」

「自社株の評価額って、思ったより高くて驚いた…」

日本の中小企業経営者の多くが直面する事業承継の課題。その大きな障壁の一つが、「税金」の問題です。会社を親族や従業員に引き継ぐ際、自社株だけでなく、事業用資産や個人資産の承継にも様々な税金が発生します。これらの税金を正しく理解し、適切な対策を講じなければ、後継者が多額の納税資金に苦しんだり、最悪の場合、事業継続が困難になったりするリスクも生じます。

しかし、「税金の話は複雑で分かりにくい…」と感じている経営者も多いのではないでしょうか。

本記事では、M&Aや事業承継を考える中小企業の経営者に向けて、事業承継の際に発生する可能性のある税金の種類を一覧で網羅し、その仕組みやポイント、そして税負担を軽減するための基礎知識を、どこよりも分かりやすく徹底解説します。大切な会社を未来へつなぎ、円滑なバトンタッチを実現するために、この税金に関する知識をぜひインプットしてください。

1. 事業承継の税金は「誰が、何を、どう受け取るか」で決まる

事業承継にかかる税金は、主に**「誰が(親族か、従業員か、第三者か)」「何を(自社株か、事業用資産か、現預金か)」「どうやって(贈与か、相続か、売買か)」**受け取るかによって、課税される税金の種類が変わってきます。

大まかに分けると、以下の3つのパターンが考えられます。

  1. 親族・従業員への贈与・相続による承継:
    • 自社株や事業用資産を、現経営者から無償で後継者(親族や従業員)へ引き継ぐ場合。
    • 主な税金:贈与税、相続税
  2. 従業員(役員)へのMBO(買収)による承継:
    • 後継者となる従業員(役員)が、現経営者から自社株などを有償で買い取る場合。
    • 主な税金:所得税・住民税(譲渡所得)
  3. 第三者へのM&A(売却)による承継:
    • 後継者となる第三者企業・個人が、現経営者から自社株などを有償で買い取る場合。
    • 主な税金:所得税・住民税(譲渡所得)、法人税、消費税

これらのパターンに応じて、発生する税金の種類と税率、計算方法が異なります。

2. 事業承継にかかる税金の種類と概要

それでは、事業承継の主要なパターンごとに、発生する税金の種類を詳しく見ていきましょう。

2-1. 親族・従業員への贈与・相続による承継の場合

(1) 贈与税

  • 概要: 生きている人から財産を「無償」で受け取った場合に課される税金です。事業承継においては、現経営者から後継者へ自社株や事業用資産を生前贈与する際に発生します。
  • 課税対象: 贈与によって取得した財産の価額。自社株の場合、税務上の「株価評価額」が基準になります。
  • 税率: 贈与税の税率は累進課税で、贈与額が増えるほど税率も高くなります。特例贈与(直系尊属から20歳以上の子・孫への贈与)と一般贈与があり、特例贈与の方が税率が低く設定されています。最大税率は55%。
  • ポイント:
    • 後継者が将来的に多額の贈与税を納税しなければならないため、計画的な贈与や納税資金の確保が重要になります。
    • 事業承継税制(法人版)の「特例措置」を活用することで、自社株の贈与税の納税が100%猶予され、要件を満たせば免除される可能性があります。これは、中小企業にとって最も強力な税金対策となります。

(2) 相続税

  • 概要: 亡くなった人から財産を「無償」で受け取った場合に課される税金です。事業承継においては、現経営者が亡くなり、後継者が自社株や事業用資産を相続する際に発生します。
  • 課税対象: 相続によって取得した財産の価額。自社株の場合、相続発生時の「株価評価額」が基準になります。
  • 税率: 相続税も累進課税で、相続財産が増えるほど税率が高くなります。最大税率は55%。
  • ポイント:
    • 相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた部分に課税されます。
    • 相続税の納税資金は、現金で準備するのが原則です。自社株を多く保有している場合、納税のために会社から資金を借りたり、自社株を売却したりする必要が生じることもあります。
    • 事業承継税制(法人版)の「特例措置」を活用することで、自社株の相続税の納税も100%猶予され、要件を満たせば免除される可能性があります。

2-2. 従業員(役員)へのMBO(買収)による承継の場合

MBO(マネジメント・バイアウト)は、後継者となる従業員や役員が現経営者から会社を買い取る手法です。この場合、現経営者には株式の「譲渡益」が発生します。

(3) 所得税・住民税(譲渡所得)

  • 概要: 株式などを売却して得た利益(譲渡所得)に対して課される税金です。
  • 課税対象: 売却価格から、取得費(購入時の価格)と譲渡費用(売却にかかった手数料など)を差し引いた利益。
  • 税率: 上場株式と異なり、非上場株式の譲渡所得は、分離課税として、所得税・復興特別所得税15.315%と住民税5%の**合計約20.315%**が課されます。
  • ポイント:
    • 売却益が大きければ大きいほど、税負担も大きくなります。
    • MBOの場合、後継者の資金調達が課題となることが多いですが、税金は売却側(現経営者)にかかるため、後継者の手元資金に直接的な影響はありません。

2-3. 第三者へのM&A(売却)による承継の場合

M&Aによって第三者(他の企業や個人)に会社を売却する場合も、現経営者側には税金が発生します。M&Aの手法(株式譲渡か、事業譲渡かなど)によって課税される税金の種類が変わってきます。

(3) 所得税・住民税(譲渡所得)

  • 概要: M&Aの最も一般的な手法である「株式譲渡」の場合、現経営者(株主)が株式を売却して得た利益に対して課されます。
  • 課税対象・税率: 上記「2-2.(3)」と同様、非上場株式の譲渡所得として、**合計約20.315%**が課されます。
  • ポイント:
    • まとまった現金を得られる一方で、その約2割が税金として徴収されることになります。

(4) 法人税(事業譲渡の場合)

  • 概要: M&Aの手法として「事業譲渡」を選択した場合に発生する税金です。事業そのものを会社が売却し、その売却益に対して課されます。
  • 課税対象: 事業用資産などの売却益。
  • 税率: 会社の利益に対して課される法人税、法人住民税、法人事業税(実効税率約25~35%)。
  • ポイント:
    • 事業譲渡の場合、会社が売却益に対して法人税を支払い、残った利益を配当などで株主(現経営者)に渡す際には、さらに**所得税(配当所得)**が課税されるため、二重課税となる可能性があります。

(5) 消費税(事業譲渡の場合)

  • 概要: 事業譲渡の場合、売却する資産のうち、課税資産(建物、機械設備、車両など)には消費税が課されます。
  • 課税対象: 課税資産の売却価格。
  • 税率: 消費税率(10%)。
  • ポイント:
    • 原則として、買い手側が消費税を負担し、売り手側がそれを預かって国に納付します。ただし、買い手は仕入税額控除で還付を受けられます。

3. 中小企業が知っておくべき税金対策のあれこれ

事業承継にかかる税負担は大きいですが、適切な対策を講じることで軽減することが可能です。

3-1. 自社株の評価額対策

相続税・贈与税は、自社株の評価額が基準となるため、これを事前に引き下げておくことが有効です。

  • 役員退職金の支給: 会社の利益を役員退職金として支給することで、株価の評価要素となる利益を減らし、かつ、退職金は税法上の優遇があるため、納税を効率的に行えます。
  • 配当の実施: 会社の内部留保を配当として株主に還元することで、株価の評価を引き下げる効果が期待できます。
  • 不動産や保険の活用: 現預金を不動産や生命保険など、相続税評価額が低い資産に変換することで、相続税評価額全体の引き下げを図る方法もあります。

3-2. 事業承継税制の活用(最も強力な選択肢)

前述の通り、**法人版事業承継税制の「特例措置」**は、自社株の贈与税・相続税の納税を100%猶予し、最終的に免除する最も強力な税金対策です。利用できる要件を詳細に確認し、活用を検討しましょう。ただし、継続要件や取消リスクに注意が必要です。

3-3. M&Aによる売却も有効な選択肢

親族や従業員への承継にこだわらず、M&Aによって第三者に売却することも、現経営者の税負担を軽減する有効な手段です。

  • 所得税(約20%)の一括納税: 株式譲渡であれば、売却益に対して約20%の所得税・住民税が課されますが、その納税は一度で完了します。また、まとまった資金を手にできるため、その後の納税資金の心配はありません。
  • 売却対価で納税: 売却して得た対価で納税資金を賄えるため、個人の現預金などを切り崩す必要がありません。

3-4. その他の税制優遇措置

事業承継に関する税制優遇措置は、事業承継税制以外にも存在します。

  • 相続時精算課税制度: 2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となり、相続時に精算する制度です。事業承継税制と併用できる場合もあります。
  • 経営承継円滑化法に基づく支援措置: 事業承継税制の特例措置は、この法律に基づいています。その他、金融支援や遺留分に関する民法の特例なども含まれます。

4. まとめ:税金対策は「早期」の「専門家相談」から

事業承継にかかる税金は多岐にわたり、その仕組みは複雑です。しかし、これらの税金に関する知識をインプットし、適切な対策を講じることは、会社の未来を左右する非常に重要な要素です。

  • 贈与・相続なら「贈与税」「相続税」: 自社株評価額が基準。
  • MBO(従業員への売却)なら現経営者に「所得税・住民税(譲渡所得)」
  • M&A(第三者への売却)なら「所得税・住民税(譲渡所得)」、事業譲渡なら「法人税」「消費税」
  • 強力な税金対策は「事業承継税制(特例措置)」の活用。
  • 株価対策やM&Aによる売却も有効な選択肢。

何よりも重要なのは、**「早期から準備を始め、税理士やM&Aアドバイザーといった専門家に相談すること」**です。税法は改正されることも多く、個々の企業の状況によって最適な対策は異なります。専門家と綿密に連携し、自社にとって最も有利な事業承継の道を模索することで、税負担を最小限に抑え、円滑なバトンタッチを実現することができるでしょう。