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経営録

2025.05.13

いい質問とは「聞き返されない質問」である

1. はじめに

日常業務やミーティング、あるいは上司への報告などの場面で、「質問しているのに、なかなか明確な答えが返ってこない」「逆に相手から『つまり何が聞きたいの?』と聞き返される」という経験をしたことはありませんか?

ビジネスでは、上司や同僚、顧客・取引先とのコミュニケーションが不可欠です。そのなかで「質問をする」という行為は、相手から必要な情報を得たり、理解を深めたりするための重要な手段です。ところが、質問の仕方が曖昧・回りくどいと、相手は「この人は何を聞きたいのだろう?」と戸惑い、コミュニケーションがスムーズに進みません。

結果として、再度こちらが説明したり、「ごめんなさい、こういうことが知りたいんです」と聞き返したりする手間が発生します。それは単なる時間のロスにとどまらず、「質問者としての段取り力や論理的思考が不足している」といった印象を相手に与えてしまう要因にもなりかねません。

2. 「聞き返されない質問」とは何か?

2-1. 一発で相手が意図を理解できる質問

「聞き返されない質問」の最大の特徴は、一度言えば相手が意図を十分に把握できるという点です。たとえば、「今月の営業目標は達成できそうですか?」という質問は、営業担当者に対して「数字はどうなっているのか?」「具体的な見込みはあるのか?」などの情報を求めていることが、シンプルに伝わります。

逆に、「今月の数字、大丈夫ですか?」と言っただけでは、「何が知りたいのか?」が曖昧です。営業担当からすると、「大丈夫って具体的に何を指しているの?」「成果見込み?売上見込み?予算達成率?」と、別の問いを返さなければいけなくなるかもしれません。

2-2. 質問に含まれる5W1Hが明確

聞き返されない質問とは、5W1H(When, Where, Who, What, Why, How) の要素が漏れなく含まれ、相手が「これを答えれば良い」と理解できる仕組みになっています。

  • When(いつ)
    例:「締め切りはいつまでですか?」
  • Where(どこで)
    例:「ミーティング場所はどこを予定していますか?」
  • Who(誰が)
    例:「このプロジェクトは誰が担当する予定ですか?」
  • What(何を)
    例:「今回のイベントで何を目玉にしていますか?」
  • Why(なぜ)
    例:「なぜこの施策が効果的だと考えているのですか?」
  • How(どのように)
    例:「どのような手順で業務を進めますか?」

すべてを盛り込む必要はありませんが、知りたい部分に関しては具体的かつ抜け漏れのない質問をすれば、相手が首をかしげたり「どういう意味?」と聞き返したりするリスクは少なくなります。

2-3. 質問の背景・目的が明確

聞き返されない質問は、単に疑問文を投げかけるだけでなく、「どうしてその情報が必要なのか」 という背景や目的がある程度示唆されています。質問された側が背景を把握することで、より的確な回答や追加情報を提供しやすくなるのです。

たとえば、「◯◯の仕様変更について、ユーザーへの周知はどのように行う予定ですか?」という質問には、「ユーザー周知が必要な仕様変更がある」「その方法を具体的に知りたい」という背景が含まれています。これなら、回答者はスムーズに「メールで告知する予定」「Webページに掲載する予定」「まだ決まっていないので検討中」などの回答をしやすいわけです。

3. なぜ「聞き返されない質問」が重要なのか

3-1. 時間をムダにしない

ビジネス上では、スピード感が非常に大切です。質問が曖昧だと、相手に状況を再確認させたり、何度もやりとりしたりする必要があり、時間ロスが大きくなります。聞き返されない質問ができれば、一回のやりとりで必要な情報を取得できる確率が上がり、全体の業務効率に寄与します。

3-2. 相手の負担を軽減できる

質問の意図が不明瞭なまま投げられると、回答者は「何から話せばいいのか?」と迷った末に、関係ないことまで説明するケースがあります。あるいは、逆に「聞きたいことがわからないから、取り急ぎ一般的な回答をする」しかできず、結果的に不足情報が出てまた聞き返される…。こうした悪循環は、回答者にとってもストレスです。

質問が明確なら、回答者も必要な情報だけを整理して返せるので、相手への負担も最小限に抑えられます。

3-3. 「できる人だ」という印象につながる

質問が上手い人は、相手の立場や状況を把握した上で的確に疑問を示します。こうした人は「仕事の段取りやロジカルシンキングができている」と評価されやすく、「できる人」「頼りになる人」というポジティブな印象を与えます。実は「質問力」は、ビジネススキルの一部として昇進や評価に大きく影響することも少なくありません。

4. ありがちな「悪い質問」の例

4-1. 「〜ってどうなんですかね?」

NG例:「今度のキャンペーンなんですけど、どうなんですかね?」

これだけでは、何を聞きたいかが伝わりません。ターゲット層の反応を知りたいのか、費用対効果について聞きたいのか、あるいは期間設定の妥当性を問いかけているのか…相手は掴みどころがなく「つまり何が聞きたいの?」と問い返すしかなくなるでしょう。

4-2. 「◯◯って大丈夫ですか?」

NG例:「新商品のデザイン、もう大丈夫ですよね?」

一見すると「確認」しているように見えますが、何をもって「大丈夫」と定義しているのかが不明です。スケジュールが大丈夫なのか、品質が大丈夫なのか、それともクライアントの承認が下りたかどうかを聞きたいのか…。こうした質問は聞かれた側も「何の観点で答えればいいの?」と困ってしまいます。

4-3. 「どうしたらいいですか?」だけを聞く

NG例:「このトラブル、どうしたらいいですか?」

部下や後輩が上司に丸投げするような質問に陥りがちですが、情報が不足していると上司は状況を掴むのに時間がかかります。何が起きて、どんな影響が出て、今どのような対応を取っているのかを最初に伝えず、ただ「どうしましょう?」と聞くだけでは上司も回答しづらいのです。

5. 聞き返されない質問を作るためのステップ

5-1. 質問の目的・ゴールを明確にする

最初に「何を知りたいのか」「なぜそれが必要なのか」を自分自身に問いかけてみることが大切です。

  • 目的を自問する
    「私は最終的にどんな答えや行動を相手に求めているのだろう?」
  • ゴールを設定する
    「この質問で、相手から何を得られればOKなのか?」

ここをクリアにすれば、質問に含めるべき要素が自ずと見えてきます。

5-2. 必要な情報を整理する

質問する前に、自分が既に持っている情報や、相手から補完してほしい情報を整理しましょう。そうすることで、「今分かっている点」「分からない点」「相手に埋めてもらいたい点」がはっきりします。

たとえば、以下のように書き出しておくと明確です。

  • 分かっていること:◯◯月から新商品を発売予定である
  • 分からないこと:新商品のターゲット属性、現状の開発進捗など
  • 聞きたいこと:いつ販促キャンペーンを開始すべきか?その根拠は?

5-3. 5W1Hを組み込む

自分が求めている情報に応じて、5W1Hの要素を意識的に質問に取り入れます。

  • When(いつ):期限やタイミングを尋ねる
  • Where(どこで):場所、展開先などを尋ねる
  • Who(誰が):責任者や担当者を尋ねる
  • What(何を):具体的な対象や内容を尋ねる
  • Why(なぜ):理由や背景を尋ねる
  • How(どのように):方法やプロセスを尋ねる

回答してもらいたい部分が複数ある場合は、複数の要素を含む質問を1つにまとめるか、必要に応じて2〜3個の質問に分けるとよいでしょう。

5-4. 自分なりの答えや案を示す(提案型質問)

上司や取引先など、こちらから質問する相手が“判断する立場”にある場合、提案型の質問を行うと効果的です。つまり、ただ「どうしたらいいですか?」と聞くのではなく、「◯◯という方法を考えているのですが、いかがでしょうか?」と提案した上で相手の見解を尋ねる形式です。

  • NG例:「このプロジェクト、今後どう進めたらいいですか?」
  • OK例:「進行が1週間遅れていますが、△△のリソースを活用して巻き返す案を考えました。今から実施してよろしいでしょうか?」

これなら、「どう進めるのか」といった大枠は自分で考えており、それに対する相手の判断や承認をもらう質問に絞られるため、聞き返されることなくスムーズに回答が得られやすいのです。

5-5. 一度声に出してみる(事前チェック)

最後に、作成した質問を頭のなかでシミュレーションしたり、声に出して読んでみたりしましょう。自分で聞いてみて「なんだか抽象的だな」「主語が不明確だぞ」「条件が足りないかも…」と感じるところがあれば、改めて手直しをします。短いやりとりでも、このひと手間で回答率やコミュニケーションの質が大きく向上します。

6. 聞き返されない質問の例:ケーススタディ

ここでは、いくつかのシチュエーションにおける「聞き返されない質問」の例を見ていきましょう。

6-1. 新規プロジェクトの進捗確認

  • 悪い例:「進捗どうですか?」
  • いい例:「先月から進めている◯◯プロジェクトについて、現在のタスク完了率と大きな課題があれば教えてください。特に、納期に影響が出そうなリスクがあれば詳しく知りたいです」

いい例では、「何をどこまで知りたいのか(タスク完了率と課題の有無、納期リスク)」が明確なので、聞き返されることなく答えやすい。

6-2. 上司への報告&承認

  • 悪い例:「資料の作り方、これでいいですか?」
  • いい例:「明日のクライアント提案用にパワーポイントを作成しました。コンセプトAとBの比較表を入れましたが、どちらを推す方針にするかを決めていただきたいです。また、デザイン面で修正したい箇所があればご指示いただけますか?」

いい例は、上司に確認・承認してほしいポイントが具体的に示されており、上司が返答しやすい状況を作っている。

6-3. 社外への問い合わせ

  • 悪い例:「いつごろ納品できますか?」
  • いい例:「◯月◯日までに納品を希望していますが、その後に生産調整が必要になる場合も考慮し、最終的に作業を完了するにはどのくらい余裕をみるべきでしょうか? もし◯◯日付近が難しいようでしたら、いつが最短になりますか?」

いい例では、希望納期・理由・代替案などが含まれ、相手が「こちらは○○日までにできます」「それは難しいので△△日はいかがでしょう」など明確に答えやすい質問設計になっている。

7. 注意!「言い方」や「雰囲気」も大事

これまで「質問内容の明確化」について主に述べてきましたが、ビジネスコミュニケーションにおいては言葉遣いや態度といった点も見逃せません。同じ内容でも、上から目線で威圧的に聞くと相手が答えにくくなり、“聞き返される”というよりは、“正確な回答が得られずコミュニケーションが滞る”事態になりかねません。

7-1. 敬意や配慮を欠かさない

  • 「お忙しいところ恐れ入りますが、〜を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
  • 「ご都合いかがでしょうか。もし難しければ別途ご提案を差し上げたいと思います」

上記のように、相手の事情を尊重する一言を添えるだけでも、相手が快く回答してくれる確率が上がります。

7-2. 適度な緩衝表現を使う

自分が知りたい情報や求めたい答えが明確でも、あまりに直接的すぎる言い回しだと冷たい印象を与えることがあります。そこで、以下のようなフレーズで緩衝(クッション)を作ると良いでしょう。

  • 「差し支えなければ、◯◯について詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」
  • 「可能な範囲で構いませんので、◯◯についてご意見をうかがいたいです」

ただし、クッション言葉を多用しすぎると曖昧になってしまうので、目的とのバランスが大事です。

8. 「聞き返されない質問力」を高めるメリット

8-1. 業務効率が上がる

質問力が高いということは、一回のコミュニケーションで求める情報を的確に引き出せるということです。これは、メールやチャットの往復を大幅に削減し、業務全体のスピードアップにつながります。

8-2. 自信を持って対話できる

「質問が下手で何度も聞き直す」という状況が続くと、自分自身も「コミュニケーション能力が低いのでは」と不安になりがちです。逆に、質問が明確だと相手とのやりとりがスムーズに進むため、自己肯定感職場での存在感も高まります。

8-3. キャリアアップ・信頼向上

前述したように、質問力=ロジカルシンキングや事前準備能力にも通じるため、上司や周囲からの評価が変わります。取引先から見ても、「この人は要領を得た質問をしてくれるから、付き合いやすい」という印象になり、ビジネスチャンスに繋がる可能性もあるのです。

9. まとめ:質問の質が、仕事の質を高める

「いい質問とは『聞き返されない質問』である」とは、突き詰めれば相手目線で物事を考え、必要な情報を的確に引き出すためのコミュニケーション術と言えます。要点を整理して締めくくりましょう。

  1. 質問の目的を明確にし、5W1Hを意識する
    • 何が分かればOKなのか?を先に考え、漏れなく質問する
  2. 提案型の質問を心がける
    • 相手に丸投げせず、自分なりの案や仮説を提示する
  3. 背景や理由を示唆する
    • なぜその情報が必要なのか説明すると、回答も的確になりやすい
  4. 聞き返されない質問で、時間と手間を省く
    • 余計なやりとりが減り、業務効率がアップする
  5. マナーや敬意を忘れずに
    • 相手が回答しやすい雰囲気・文面を作り、“気持ちの良い”コミュニケーションを

質問力は、一朝一夕で身につくものではないかもしれません。しかし、日々の会話やメールで「これで相手は意図を理解できるか?」「他に聞きたいことはないか?」と振り返るだけで、徐々に洗練されていくものです。最初は少し時間をかけてでも、相手がパッと答えられる質問を意識していきましょう。

仕事の成果は、やり方や手段だけでなく、結局は“人と人とのコミュニケーション”が大きく左右します。質問の質を高めることは、あなた自身だけでなく、チームや組織全体の生産性を押し上げることにも繋がるはずです。