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経営録

2025.07.10

事業承継税制の要件は?事業者が知っておきたい税制について徹底解説!

「事業承継税制って、税金が安くなるらしいけど、うちの会社でも使えるのかな?」

「複雑そうだし、どんな条件があるのか全く分からない…」

M&Aや事業承継を検討している多くの経営者にとって、自社株の引き継ぎにかかる多額の税金は、会社の未来を考える上で大きな壁となります。この税負担を軽減し、スムーズな事業承継を支援するために国が設けているのが、**「事業承継税制」**です。特に、平成30年度(2018年度)の税制改正で創設された「特例措置」は、その適用要件が大幅に緩和され、多くの中小企業が利用を検討できるようになりました。

しかし、この制度は非常に強力なメリットを持つ一方で、適用を受けるための要件が複雑で、継続して遵守すべき事項も多いため、「結局、自社で利用できるのかどうか」が分かりにくいと感じている経営者も少なくないでしょう。

本記事では、事業承継税制、特にその主力である**「特例措置」の具体的な要件**に焦点を当て、経営者が知っておくべきポイントを徹底的に解説します。大切な会社を次世代へと確実にバトンタッチするために、この制度の全貌を理解し、活用を検討する際の具体的なヒントを提供できれば幸いです。

1. 事業承継税制(特例措置)の基本と強力なメリット

事業承継税制(法人版・特例措置)は、非上場会社の自社株式(議決権のあるもの)を、後継者が生前贈与または相続で取得した場合に、その株式にかかる贈与税・相続税の納税を100%「猶予」し、最終的に「免除」する制度です。

1-1. 強力なメリットを再確認

この制度が「画期的」と言われる理由は、以下の強力なメリットがあるからです。

  • 税負担の大幅軽減: 通常であれば数千万円、場合によっては億単位の税金がかかる自社株の承継について、その納税が猶予され、条件を満たせば免除されます。これにより、後継者は手元資金を納税ではなく事業投資に回し、会社の成長に集中できます。
  • 全株式が対象: 一般措置では2/3までだった対象株式の制限が撤廃され、発行済株式の全てが納税猶予の対象となります。
  • 複数の後継者に対応: 原則1人だった後継者が、最大3人まで対象とできるため、兄弟姉妹で承継する場合など、多様な承継パターンに対応可能です。
  • 雇用要件の実質的な緩和: 承継後5年間の雇用維持要件(平均8割維持)が、経営環境の変化によるやむを得ない事情があれば猶予が継続できるなど、柔軟な運用が可能になりました。
  • 売却・廃業時の減免: 将来的にM&Aで会社を売却したり、廃業したりする際にも、猶予された税金を支払う必要がありますが、その時の株価が当初よりも下落していた場合、その時点の株価を基に納税額を再計算し、差額が減免される仕組みが追加されました。

これらのメリットを享受するためには、これから解説する複雑な「要件」をクリアし続ける必要があります。

2. 事業承継税制(特例措置)の「人」に関する要件

事業承継税制の適用を受けるためには、会社だけでなく、先代経営者と後継者のそれぞれが特定の条件を満たす必要があります。

2-1. 先代経営者の要件

会社を譲る側である先代経営者には、以下の要件が求められます。

  • 代表権の保有(贈与の場合の解除):
    • 相続の場合: 相続の直前において、会社の代表者であった必要があります。
    • 贈与の場合: 贈与の時点で、先代経営者が会社の代表権を有していない必要があります。これは、後継者が速やかに経営のトップに立つことを促すためです。ただし、贈与後も会長などの役職で会社に残ることは可能です。
  • 筆頭株主・過半数議決権の保有:贈与または相続の直前において、先代経営者が自社株式の筆頭株主である必要があります。加えて、先代経営者と先代経営者の親族などの合計で、議決権の過半数を保有していなければなりません。
  • 資産管理会社等の代表者ではないこと:贈与又は相続の直前において、資産管理会社等の代表者でないことが求められます。

2-2. 後継者の要件

会社を継ぐ側である後継者には、以下の要件が求められます。

  • 年齢要件:贈与または相続の時に18歳以上であること(2022年4月1日以降の贈与・相続が対象)。
  • 役員経験と代表権の取得:
    • 贈与または相続の直前において、3年以上役員を務めていたことが必要です。これは、後継者が会社の状況をある程度理解していることを求めるためです。
    • 贈与または相続後に、速やかに会社の代表者(代表取締役など)となることが義務付けられています。
  • 筆頭株主・過半数議決権の取得:贈与または相続後に、後継者が単独で自社株式の筆頭株主となり、かつ、後継者とその親族などの合計で、議決権の過半数を保有しなければなりません。これにより、後継者が安定的に経営権を握ることが可能になります。
  • 特例承継計画への記載:特例措置の適用を受けるためには、事前に都道府県へ提出し、認定を受けた**「特例承継計画」に記載された後継者**である必要があります。
  • 親族要件の有無:特例措置では、一般措置と異なり、**親族外の第三者(従業員など)も後継者となることができます。**これは、後継者不足に悩む多くの中小企業にとって、非常に大きな緩和ポイントです。

3. 事業承継税制(特例措置)の「会社」に関する要件

事業承継税制の適用対象となる会社(特例承継会社)にも、特定の要件が課せられます。

3-1. 中小企業者であること

基本的に、中小企業の定義に合致している必要があります。

  • 資本金または従業員数基準:業種によって異なりますが、例えば製造業では資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業では資本金1億円以下または従業員100人以下、小売業・サービス業では資本金5,000万円以下または従業員100人以下などの基準を満たす必要があります。
  • 非上場会社であること:事業承継税制の対象は、上場していない会社です。

3-2. 資産管理会社等ではないこと

事業実態のない、いわゆる「資産管理会社」や「特定資産保有会社」、「特定資産運用会社」は対象外です。

  • 特定の資産の保有割合が低いこと:不動産や有価証券などの特定資産の保有割合が、総資産の75%以下であること(ただし、賃貸業を主たる事業とする場合は特例あり)。
  • 風俗営業会社ではないこと:風俗営業など、特定の業種に該当しないことが求められます。

3-3. 雇用者数の要件(承継後5年間)

特例措置では、雇用要件が柔軟化されたとはいえ、全くないわけではありません。

  • 5年間平均8割維持の原則:後継者が事業を承継してから5年間は、対象会社の「雇用者数(常時使用する従業員数)」を、承継時の雇用者数の80%以上で維持する必要があります。
  • 要件を満たせない場合の猶予継続:経済状況の変化など、やむを得ない理由で8割を下回ってしまった場合でも、税務署に理由報告書を提出し、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の指導助言を受けていることを証明すれば、猶予が取り消されることはありません。これは、旧制度から大幅に緩和された点です。

4. 事業承継税制(特例措置)の「継続」に関する要件と注意点

納税猶予を受け続けるためには、承継後も継続して満たすべき要件があります。これらの要件を遵守できないと、猶予が取り消され、多額の税金と利子税を支払うことになるため、細心の注意が必要です。

4-1. 納税猶予が「取り消し」になる主なケース

以下のような状況になると、原則として納税猶予が取り消されます。

  • 後継者が代表権を喪失した、または株式を売却した:後継者が会社の代表権を失ったり、猶予対象の株式を第三者に売却したりした場合、原則として猶予が取り消されます。ただし、後継者が死亡した場合や、次の後継者へさらに承継した場合は免除されます。
  • 会社が廃業した、または解散した場合:事業を継続しないと判断され、猶予が取り消されます。
  • 資産管理会社等に該当するようになった場合:事業実態のない会社とみなされた場合、猶予が取り消されます。
  • 継続的な報告義務を怠った場合:毎年提出が義務付けられている「年次報告書」や、5年後の「都道府県知事への報告書」などの提出を怠ると、猶予が取り消されます。

4-2. 適用後の経営における制約

事業承継税制を適用すると、経営の自由度が一部制約される可能性があります。

  • M&A(売却)のハードル:将来的に会社を第三者に売却(M&A)する場合、原則として納税猶予が取り消され、譲渡した時点で猶予されていた税金を支払うことになります。M&Aによる売却益と猶予税額を比較し、どちらが有利かを慎重に判断する必要があります。
  • 資産運用や事業変更の制約:資産管理会社に該当しないよう、会社の資産運用や事業内容の大きな変更に制約が生じる場合があります。

5. まとめ:事業承継税制は「複雑だが強力な選択肢」、専門家との連携が不可欠

事業承継税制、特にその特例措置は、後継者不足に悩む多くの中小企業にとって、自社株の承継にかかる税負担を劇的に軽減し、円滑な事業承継を実現するための強力な武器となります。

  • メリット: 贈与税・相続税100%猶予、全株式対象、複数後継者対応、雇用要件緩和、売却・廃業時減免。
  • 「人」に関する要件: 先代経営者の代表権解除(贈与時)、筆頭株主・過半数議決権、後継者の3年以上役員経験と代表権取得、特例承継計画への記載など。
  • 「会社」に関する要件: 中小企業者であること、資産管理会社等でないこと、5年間平均8割の雇用維持(柔軟化)。
  • 「継続」に関する要件と注意点: 納税猶予取消リスク(後継者の代表権喪失・株式売却、廃業など)、継続的な報告義務、経営の自由度制約。

これらの要件は多岐にわたり、一つでも満たさないと制度の適用を受けられなかったり、途中で猶予が取り消されたりするリスクがあります。そのため、事業承継税制の活用を検討する際は、必ず税理士をはじめとするM&A・事業承継の専門家と綿密に連携することが何よりも重要です。

専門家の知見とサポートを得ながら、自社の状況に合った最適な承継スキームを構築し、メリットを最大限に享受しつつ、リスクを最小限に抑えることで、あなたの会社を未来へと力強くつなぐことができるでしょう。